悪役令嬢?本当に悪いのは…
私は、ルージュ=ガーネット。いわゆる悪役令嬢だった。その記憶に目覚めたのは16歳の春。私が思い出したのは、自分がゲームの悪役令嬢だという記憶ぐらいで他の記憶はあやふやだ。おかげでさして混乱はしなかったのだが、エンディングまで後2年しかない。
ゲームは伯爵令嬢のヒロインであるアイラ=レインがイケメンと恋に落ちるというもの。
エンディングで私は彼女の命を奪おうとした罪等で断罪され、修道院送りになる。幸いにも、まだ私は彼女を虐めたり危害を加えたりはしていない。多少はやらかしたが、犯罪にはならない程度の嫌がらせなので今から行動を改めれば問題ないだろう。
問題なのは、私の婚約者。私の婚約者であるジーク=スカイル様とアイラ嬢ははかなり恋愛段階が進んでいて、もはや取り返すのは無理でしょう。
私は決断した。
「ジーク様、私と婚約を解消してくださいませ」
「ルージュ?」
ジーク様は驚いた様子だった。そりゃそうだろう。ルージュは…私は貴方を心から愛していたのだから。
「貴方の心が私にないのは理解しております。ですから、私を解放してくださいませ。私はお飾りの后など嫌でございます。私を愛せないのなら、私を自由にしてくださいませ」
「わかった。…すまない、ルージュ」
ジーク様…王太子殿下は了承した。
「ありがとうございます。では、さようなら、王太子殿下」
王太子殿下に礼をとり、私は王太子の部屋から出ていった。
そして、私は実家であるガーネット公爵家に戻った。学生生活は寮暮しだったので、実家は久しぶりだ。なんのために戻ったかって?
王太子殿下の悪行を暴露するためですよ。
いや、さっきあんなに綺麗に別れたじゃないかって?あんなの建前に決まってるじゃないか。婚約者がいる身であの程度の小娘に熱をあげるなんて馬鹿にするにも程がある!散々私に尽くさせておきながら、簡単に捨てやがったのだ。許さないに決まっている!!
私は心の怒りとは裏腹に、淡々と王子への怨みごと…私への仕打ちを語った。証拠もある。
「…以上になります。これは我がガーネット公爵家への侮辱でもあるかと考え……お父様?」
父の、顔が怖い。うちの父、いつもヘラヘラヘラヘラしていて昼行灯的な感じなんだけど…普段の笑顔とキャラ忘れてるよってぐらいうちの父が……超怖い!
「…ルージュ」
「は、はい……」
「辛かったな…もう学園に行かなくてもよい。辛い思いをさせてすまなかった…うおおおお…!父様からあんな縁談破談にしてやるからな!うちの娘を悲しませやがって!あんのクソがきがぁぁぁぁ!!ぶっ殺してやるぅぅぅ!!」
父は泣き叫び、怒り狂った。隣に控えていた老執事も宥めず頷いていた。いや、止めようよ!老執事ことセバスチャンは孫のように私を可愛がっていたから、彼も相当にお怒りらしい。
「お父様!!落ち着いてくださいまし!私、きっちり復讐するつもりですの!!」
「…そうかそうか。存分にやりなさい」
父はどうにか落ち着いてくれたようだ。
「姫様、このじいめも微力ではありますが騎士団、貴族、暗殺ギルドにもツテがございます。なんなりとお申し付けくださいませ」
何をさせたいんだい?セバスチャンよ。というか、最後。うちのセバスチャンは何者なの??
「…そうね、必要があればお願いしますわ」
でも私、小心者だからみみっちい嫌がらせをする予定なの。セバスチャンの助けは絶対要らないと思うわ。私はそう思いつつ、気持ちはありがたかったのでニッコリと笑った。
「なんなら父様の影(公爵家直属の暗殺・諜報部隊)を使ってもいいよ!むしろ使って!サクッと殺ってしまおうか!」
「ストップ暗殺!!命までとる気はないですからね!?」
前言撤回!!父は見た目が普段通りになっただけで、たいそうキレてらっしゃった!!
結局父を宥めて宥めて泣き落して、なんとか暗殺は回避しました。なんで私が王太子殿下のために苦労しなきゃいけないんだ…父がなかなか暗殺を諦めてくれなくて疲れました。
「お嬢様、僭越ながらこのじいめが…」
お前もか、セバスチャン!!殺害から離れようよ!!
「いい!!絶対に手を汚さないで!!大事なセバスチャンやお父様があの程度の男を殺さなくてもいいのよ!」
「…かしこまりました」
「…手が必要なら言いなさい」
ようやく納得してもらい、私はこの話を打ち切るのだった。本当に、なんで私があのアホを庇わなきゃいけないのかしら。おかしいわ…それに疲れたわ。
冷静に考えても悪いのは王太子です。
父とじいが仲間になった。とっても殺る気です。