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ライトノベルの召巻術師  作者: 右町田みとむ
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「うむ、我も貴様と同じように食事をとる。ただし、必須というわけではない。栄養摂取のためではなく、嗜好品として摂取するということだ」


 家に帰り、ライアを《召巻》させた道長は早速食事の必要性を聞いたわけであるが、その答えはいつものように分かりにくいものであった。


「つまり、栄養だけ摂るならサプリかなんかで間に合うけど、味わいを楽しむために味のあるものを食べる、みたいな」

「うむ。ミチナガも理解が早くなってきたではないか」

「まあ、同じような説明を聞いてきたし。馴れってやつ? ところで、ライアはサプリがなんなのか知っているのか」

「文脈から判断すれば容易に推測出来る。大方、栄養摂取に特化した無味な物体、といったところであろう」

 ライアの推測は見事に正しかった。道長は素直に感心している。

「すっげえな。まさにその通りだよ」

「そうであろう、我は天才的な頭脳を持ち、特に初見の物事に対する推測力が高い。そういう設定になってるからな」

 設定、というのはライアが小説の登場人物であるからであろうか。


「ともあれ、ミチナガもある程度の推測力を持つべきだと思うぞ。大事なのは、自分の常識に縛られず、確かな根拠に基づいて考えることだ」

「ハッ、常識に縛られない、ねえ」


 ライアがこの部屋に《召巻》されてから、俺の常識はめちゃくちゃだってのに、と吐き捨てるように道長は呟いた。

 それを見兼ねたのか、そう嘆くでない、とライアは道長を励まそうとする。そして、道長が手に下げている、惣菜の入ったビニール袋を指してこう言った。


「ときにミチナガよ、さっき夕飯の材料を買ってくると言っていたが、もしかして貴様——料理が、出来るのか?」

「まあ、多少は出来るけど。それがどうかしたか?」

「いや、恥ずかしながら我は食事の類を全て使用人に任せていたのでな。我は料理というのが出来ないのだ。ということでその料理の腕、我に見せてくれないか」

「いや、料理の腕なんて言ってもな……」

 これは惣菜だから、元から調理されたものなんだよ、と言いかけた道長であったが、声にならなかった。


(俺に期待して目を爛々と輝かせている少女にそんな残酷なこと言えるかって……)


 道長はビニール袋に入った二種類の惣菜を一瞥した。

 生姜焼き、そしてグラタン。二つの惣菜はすでに完成されたものであり、明らかに混ぜてメリットのあるものではない。

 次にキッチンに目をやる道長。

 目に入ったのは、お米、ミネラルウォーター、そしてなけなしの調味料。

「終わった……」


 道長は絶望を確信する。これだけのもので、中世の王女様を満足させる料理が作れそうになかったからである。

 ライアはまだ道長の方を見つめている。まるで尊敬する兄を見る妹のようだ。そのつぶらな瞳が道長には痛い、痛すぎる。


道長がこれでもかというほどに頭を悩ませていると、ふと、先ほどライアに言われたことを思い出した。

 ——大事なのは、自分の常識に縛られず、確かな根拠に基づいて考えること。

「…………ッ!」

 道長の脳内で、一つの案が浮かび上がった。

(生姜焼きとグラタンを混ぜると不味くなる、というのは俺の中で作られた勝手な常識。別に誰かが試して不味いと証明されたわけではないんだ!)

 道長の頭の中が天才科学者のように冴え渡っていく。

(冷静に考えれば簡単な話だ。生姜焼きは美味しい、グラタンも美味しい。美味しいものが二つ混ざったらめちゃくちゃ美味しいに決まってるじゃないか!)


 道長はすかさず鍋を手に取り、ビニール袋に入ったグラタンと生姜焼きを投入した。コンロの不安定な火にかけ、温める。

(あとは味付けだ。肉に塩と胡椒をかけると味わいが増すのは確かな根拠に基づく事実。この際、ありったけの胡椒をかけるしかない!)

 右手に塩、左手に胡椒の容器を掴んだ道長は、その中身が空っぽになるまで鍋に注ぎ入れた。

(最後に、カツ丼やマグロ丼のように全ての料理は丼にすることでボリュームが出て満足感が増すのは自明。ご飯に乗っけたら完成だ!)

 ラストスパートとばかりに勢いよく炊飯器を開けた道長は、フライパンからこげた臭いがすることをよそにコンビニに行く前に炊いていたお米をどんぶりによそって、その上から鍋に入った茶色い何かを流し入れた。


「完成だッ!」


 最後に道長は部屋の隅にあった折りたたみ式のテーブルを部屋の真ん中にセットし、その上に道長自信作の茶色い何かが入ったどんぶりを乗せた。

 この時点で茶色い何かが今まで嗅いだこともないような異臭を漂わせていたことに道長は気がついていたが、道長は気にしなかった。

(変な臭いをさせているからって、常識にとらわれて不味いと断定してはいけないからな!)


 道長がテーブルの前に座ったのと同時に、ベッドに腰掛けていたライアが道長の正面に座った。

「おおー。これが現代の料理というものか。なかなかに……すごい、見た目だな!」

 ライアは茶色い何かの見た目に興味津々の様子だ。

「見た目より大事なのは味だぜ。さて、俺も早速食べてみるか」

 そう言うが早いが、道長は自作のそれを口に入れる。


 刹那、鋭い電撃が口の中を走るようや感覚に道長は襲われた。

「し、か——————ッ!」

 しょっぱい、辛い、苦い。

 形容しがたい感覚が、道長の舌を刺激する。

 とんでもなく、不味かった。

 食べ合わせの悪いグラタンと生姜焼きを混ぜた上に、既に味の付いている惣菜に関わらず調味料を極端に加えたものが美味しいわけがなかったのだ。


 とにかく水を飲もう、そう思って立ち上がろうとしたとき、道長は目の前に茶色い何かを食べようとその小さな口を開けるライアの姿が目に入った。

(大変だ。俺のような平民風情がめちゃくちゃに不味いと感じるモノを王女様が食べて耐えられるわけがない!)

「ライア、待て——————ッ!」

 道長は手を伸ばしてライアが茶色い何かを食べてしまわないよう止めにかかった、しかし、

 パクリ。

「…………、」

 一足、遅かった。

 ライアは食べてしまったのだ。

「ライア、すぐ水を用意するからな!」

 道長はキッチンへ行って、ミネラルウォーターをコップ一杯に注ぎ込み、喉に流し込んだ。


 しかし、キッチンから戻ろうと踵を返した道長はもっと衝撃的な光景を見てしまう。

 ライアが、二口目を食していたのだ。

「おい、ライア……」

「うむ、美味しいではないか。チーズと豚肉は力がつく食物であるからな、この二つがベースとなっているのはとてもよい。何より生姜、胡椒が豊富だ! 我の世界では生姜も胡椒も貴重なものであった。それをこうして贅沢に食することができるとは! これはたいそう高級な料理であるのだろう」

「え……………………、」

 開いた口が塞がらない道長。

 呆然としている間にも、ライアはパクパクとその茶色い何かを口に入れている。

 幾分もせずに、ライアのどんぶりは空になった。


「おかわり!おかわりはないのか?」

ライアが空のどんぶりを高々と上げてそう言ってのける。

「おかわりはないけど、食べるか?俺の分」

「食べる!」

 即答。

 言うが否や、ライアは机にあった道長の分を手にとって食べ始めた。

 明らかに翌日お腹を壊しそうなモノであったが、本当に嬉しそうに食べるライアを、道長は止める事ができなかった。


「——————まあ、」

 まあ、いいか。

 おいしいから、食べる。後先なんて考えない。

 それは道長も同じだ。

 この先何が起こるかわからなくても、今が楽しければそれでいい。

「後でどうなろうと、この瞬間を思い出せば後悔はしないはずだよな」

 頬にご飯粒をつけながら食べるライアを横目に、道長は一人笑っていた。


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