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ライトノベルの召巻術師  作者: 右町田みとむ
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 結局この日はそれ以上の情報が得られないまま下校時刻を迎えてしまったため、道長は門の守衛に追い出されるようにして学校を出た。

 今日は紫苑と帰る約束をしていないため一人っきりだ。一人で通学路を歩くのは久しぶりであるが、別に気にはならなかった。今まで一年間このようにして帰っていたせいで馴れてしまったからであろうか。


 寮に着き、ポストを開く。中にはなにもない、いつものポストだ。

「これで玄関開けたらライアがお出迎え……なんてないか」

 そんな冗談めいたことを考えながら自室の扉を開いた。

「誰もいないけど、ただいまー! なんつって」


「おかえり、ミチナガ」

 誰もいないはずの玄関から返事が返ってきた。

 玄関には金髪のツインテール、もといライアが立っていたのだ。


「む? ただいま、と言われたらおかえりと返すのが礼儀ではないのか?」

 眉をひそませて顔をぎゅっと近づけてくる。

「いや、それはそうなんだが……なんでまた《召巻》されて?」

「愚問だな。また無意識に我を呼び出したというのか。何か心当たりは? ちなみに、我は今さっき《召巻》されたばかりだぞ」

 道長に思い当たりは……あった。

 部屋を開ける直前にふと思い立ってしまった『ライアが出迎えてくれたら』なんていう期待が、恐らくトリガーとなったのだろう。

「しかし……あのレベルで《召巻》されるのか」

 朝といい今といい、自分の意識と関係なくライアを呼び出してしまうのは不都合である。そう感じる道長。


 それと対照的に、勝手に呼び出されたにもかかわらずライアはひどく機嫌がよかった。

「まあまあ、無意識召巻は不馴れな召巻術師には誰しも起こることだから気に病むことはないぞ。しかし結構、我はこんな本に閉じこもるよりも召巻されているほうが心地良い」

 ライアはニヤニヤと笑っている。少し前に見たことがあるような表情だ。


「お前、なんかまた変なこと考えているだろ」

「別に変なことなど考えてはいないぞ。ただ————」

「ただ?」

「道長には、女性経験が足りないようだな!」

「じょ、女性経験!?」

「だが心配には及ばぬ。我の持ち主を見つけた暁には、ミチナガを我が手で一人前の男にしてやるぞ」

「それマズいから! 色々とアウトだから!」

 首をブンブンと横に振る道長。それを見て手をパチパチと叩きながら笑うライア。

 四畳半の部屋は無秩序そのものであった。


「……そうだ、ライアの持ち主に関してだけど、」

 しばらくの喧騒の後、落ち着いた道長が話を切り出した。同じくして静かになったライアに対し、今日図書館で聞いたことについて説明をする。

「……そういうわけで、次の週末にその法律事務所とやらに行ってみようと思うんだが、どう思う?」

「むー。もっと有益な情報は得られなかったのか」

「そんな不満そうな顔をしないでよ。一日でこれだけ進展しただけ上出来だと思ってくれよ。これも井崎がいなければ何も得られなかったんだからさ」

「貴様、図書室へ行ったのではないのか?」ライアは首をかしげながら、

「あの場所は知識の宝庫。世界の叡智が詰まった結晶とも喩えられるというのに。そこへ行ってなお大きな進展がないというのは貴様が図書室を利用する能が欠如しているとしか考えられん」


 こんなことを言ってのけた。

「は……?」

 あまりに常識外れなライアの見解に、思わず道長はポカーンと口を開けてしまう。

「ミチナガよ、顔まで阿呆にならないでくれないか。さすがに憐れみを覚えるぞ」

「アホはお前だよ! 図書室はそんな万能じゃねえ!」

「そう、なの、か? しかし、我が王国の図書館は確かにそうであった。いや、我が国だけでなく世界のどの国であっても図書館でわからぬことなどなかったというのに」

 道長の言葉に、ライアはひどく戸惑っているようであった。


「あー、」道長は少し考えて、「それってお前の世界の中での常識なんじゃないか?」

 それを聞いて、ライアは何かに気づいたように目を見開く。

「そうか。我としたことが常識の差というものを考えていなかった。浅慮な発言、失礼した」

 ライアは礼儀正しく頭を深く下げた。本当に礼儀正しい王女さまである。


 しかし、ライアの言った通り、今日得られたことが持ち主探しのヒントになるとは限らない。

 しかも、法律事務所へ行って何も進展がなかった場合、今度は何をあてにすればいいだろうか。

 引き受けた以上、この金髪少女を悲しませるようなことはしたくない。なんとしても、持ち主を見つけなくては。そんな思いだけが、道長の中で先行している。


「先は長そうだなぁ」

 はーあ、とため息をついて道長はぼんやりと窓の外を眺める。空は真っ暗だ。窓の上にかけた時計の針は、七時を指していた。

 ライアと話しているうちに、意外と時間が経っていたらしい。

 そう思った途端、道長は自分が今相当な空腹状態で、不運なことに冷蔵庫の中身を昨日で空っぽにしていたことに気がついた。

 ……さすがに唯一残っているお米だけを炊いて食べるのは不憫すぎる。

「夕飯、買ってこないとな」

 一度ライアに《返巻》——曰く、《召巻》したものを元に戻すこと——を行い、今の悩みから逃げるようにして、道長は自室を後にした。


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