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ライトノベルの召巻術師  作者: 右町田みとむ
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4


 気がつくと、道長は真っ暗な空間に一人で立っていた。

 周りには何もない。完全な無。霧につつまれているのか、周囲を見渡すのは難しかった。

 出口を探そう。そう思って道長は闇雲に歩いてみる。


 しかし、歩いても歩いても景色が変わる事はない。どんなに進んでも、全く進んでいないような感覚。

 詰んだ。そう道長は思った。どんなに足掻いたって、何をしたって、絶対に抜け出せない。

 思わず道長は叫んでしまう。

「ちくしょう、どこなんだよ。一体ここはどこなんだよ!」



「現実だ」



 どこから、誰が発したのかはわからない。しかしその声ははっきりと道長には聞こえていた。

「現実…………だと?」

「そう、これが現実。完全な闇、それがお前の現実」

 その声からは生気が感じられなかった。感情を一切持たない、まるで機械が発しているような音声。

 だが、それを聞いた道長は急に震えが止まらなくなった。

 なぜだ。こんな機械のような声に、どうして俺は恐怖を感じているんだ————  


 そう道長が思った直後、再び機械のような声がまわりに響いた。

「一つ教えてやろう。お前は絶対、報われない」

 理由はわからなかった。しかし、その宣告は道長にとってあまりに残酷に感じられた。

「な……そん、な……!」

 思わず、その場に膝をついてしまう。


 その途端、道長に強い風が吹き付け、雨が降り始めた。それに伴い、周囲の温度が急激に下がっていく。

 自身の体温が急激に奪われていく感覚が道長を襲う。

 寒い、寒い、寒い——

 助けてくれ、——————

 


 §

 


 ジリリリリリリ————

 目覚まし時計の音が鳴り響く。目覚まし時計を止めようと道長は手を伸ばす。

 しかし目覚まし時計とは厄介なもので、寝ながら手探りをしても目覚まし時計がみつからないのが常である。


 そこまでならまだいい、多くの人は目覚まし時計を叩いて止めるであろうが、誤ってべつのものを叩いてしまうこともある。もし机の上に置いた目覚まし時計ではなく多くの尖った鉛筆が入っているペンスタンドを叩いてしまったらどうなるか——想像しただけでも恐ろしい。

 だが幸いなことに、眠っている道長の周りにはそのような突起物などなく、むしろベッドは道長一人が横になるには十分すぎる広さがあった。

 むしろ目覚まし時計が見つからないのはベッドが広いせいではあるのだが。


「むぐぅ、どこだ、俺の目覚まし時計……」

 寝返りをうち、別方向を探ってみる道長。手を伸ばすと、やわらかく、なめらかな感触。そう、まるで人肌のような。

 ……人肌?

 道長は跳ね起きた。目をこすってさっき触れたものの正体を確認する。

 人肌、その印象に間違いはなかったようだ。

 道長が触れたのはライアの体だったのだから。

 しかもライアがローブのような寝間着姿で、その隙間から胸元の白肌が見え隠れするというのだから、純情少年である道長の脳内はパニック状態に陥ってしまう。


「いやいやいやちょっと待て! なんなんだこの状況は。なんで朝起きたら寝間着姿の美少女が横で寝ているなんていうイベントが発生するんだよオイ! この様はなんだ? ラノベか? いつの間に俺はラノベの主人公もびっくりな強運を身につけてしまったのか?」

 道長が発狂していると、その声がうるさかったのかライアもまた目を覚ましたようだ。むくりと起き上がると、こんなことをつぶやき始めた。


「む……やかましいのう。敵襲か? ならば問題ない。我の力をもってすれば敵の百や二百朝飯前で……ウニャウニャ」

 ライアはひどく寝ぼけているようだった。自分が本の世界、ライアが本来いる『鏡の檻姫』の中にいると勘違いしているらしい。

「敵襲なんてあるか! ここは平成の日本だぞ。とりあえず起きてその格好どうにかしろっての!」

 その声を聞いて完全に目覚めたのか、ライアは大きなあくびを一つすると首を振って周囲を見渡している。

「おお、もう朝か。惜しいのう、我はもう少し寝ていたかったというのに。そしてミチナガよ、なぜお前は朝からそんなにも騒々しいのだ?」

「なぜってそりゃあ朝起きたら隣で年頃の異性が寝ていたら誰でもびっくりするっての。むしろどうしてライアはそんなに平然としていられるんだよ!」


 道長がそう言うと、ライアはひどく戸惑った顔をしてみせた。

「平然もなにも、そもそも我をここに呼んだのはミチナガであろう」

「呼んだ? 俺が?」

「うむ。しかも我を呼んだと思えばお前は寝ているし、我は自分の意思で元の世界に戻れないし散々であったわ。それで仕方なく隣で寝ていたのだぞ」


 道長は状況が理解できない。

「ええっと、ということは俺が寝ぼけて『鏡の檻姫』を開いちゃって、それでライアが《召巻》されたってことか? しかし、寝ぼけて本なんて開くかな」

 しかし、昨日の一件から察する限り、ライアは『鏡の檻姫』を開くと《召巻》され、閉じれば消えるはずである。

 道長が原因を見つけようと唸っていると、「うむ」と言ってライアがうなずいた。


「一つ言い忘れていたことがあったな。召巻術における《召巻》の仕組みだ。昨日は本の開閉を用いていたが、本来《召巻》は召巻術師の意思によって行われるのだ。つまり、ミチナガが我を召したいと思うだけで我は《召巻》される。そして、用がなくなったと思えば我は消える、ということだ」

「つまり、俺は寝ながらにしてライアを呼んでいた……ってことか?」

「その通り」


 そう言ったライアが、なぜかニヤニヤした顔で道長を見ている。

「な、なんだよ」

「いやあ、眠っている間にも我を求めるだなんて、相当我を欲していたのだなと思ってな」

「欲したって……そんなことねえよ! たまたまだよ!」

「そうかのう?」

「そうだよ!」

「必死なのがまた怪しいのう」

「そうだっての!」


 道長が声を大きくしてそう言うと、ライアは何か知ったように「ふーん」と言いながらこう続けた。

「それともう一つ。ミチナガが目覚めたときから我はここにいるわけだが、これはどうしてかのう?」

 気のせいか、ライアはさっきにも増してニヤついているように見える。

「さっき話した通り、ミチナガが少しでも我に用がないと思えば我は消える。ミチナガが目を覚まし我を見てもなお我がここにいるのは、ミチナガが我を見ていたいからではないのか?」


 道長は冷や汗が止まらない。無意識に抱いていた何かが明るみにさらけ出された気分であった。

「う、」

「うむ、なんだ?」

「うわあああああああああああああああああああああああああ!」

 思わず叫ばないとやってられない。

 それは道長の人生史上、最も恥ずかしい朝であった。


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