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道長が目を開けると、見知らぬ天井が見えた。
だが、道長はこの天井に見覚えがある。
寝転ぶ体を上体だけ起こし周りを見ると、予想通り、そこにはギターやアンプが無造作に積まれていた。
どう考えても、そこは霧咲殺姫の部屋であった。
しかし、ただ一点、霧咲殺姫が道長の寝ていたベッドのすぐ脇で座っているのは、前と違っていた。
「やっとお目覚めか。とはいえ、起きてくれて本当に安心したよ」
「霧咲さん……?」
「おっと、聞かれなくとも教えてあげよう。君がまた傲慢にも私のベッドで寝ていた理由が知りたいのだろう?」
またも道長は質問よりも先を越されてしまった。
「君が扉の向こうへ行ってから数時間後のことだったかな。急にあたりがまぶしくなったんだ。思わず目をつむったね。次に目を開けた時には、君が私の目の前でぶっ倒れていたんだから驚きだよ。しかも外傷一つ無いのに脈が止まっているから焦ったって。すぐに応急処置をしてここまで運んだけれど、起きるかどうかは心配でしょうがなかったよ」
「そう、でしたか……」
道長は少し恥ずかしかった。一時は命を狙ってきた霧咲殺姫に、こうして二度も助けられるだなんて。
その旨を霧咲殺姫に伝えると、彼女は大笑いをしてこう話した。
「なんで君が恥ずかしがるんだい? それよりも、元から蒼衣親子の計画を止めようとしていたのに、結局君任せにした私の方が恥ずかしいってのに!」
こんなに笑う霧咲殺姫を見たのは初めてだった。よほど、嬉しいことがあったのだろうか。
「霧咲さん、結局蒼衣親子の計画はどうなったんですか?」
「ああ、彼らの計画は失敗した。現に蒼衣来亜とその母は生き返っていない。だが一方で失敗による被害者も出なかった。だがどうして失敗したのか、そして、失敗にもかかわらず被害者が出なかった理由を私は知らない。このあたりは、《召巻》に立ち会った君の方が詳しんじゃないか?」
確かに、道長はその理由を知っている。
蒼衣十二郎は過去を改変しようとしたものの失敗。結果として、世界全体を幻惑に包み、世界を破壊しかけるという事態を招いた。
そして、世界がまさに破壊されかけたその時、『鏡の檻姫』の原文を変えることで、滅亡を防ぐことができたのだ。
「まあ、事件の真相とは往々にして追って判明するというものだ。それより、いつまでもこんな所で話してて大丈夫か君。何があったとしても君は元来普通の男子高校生だ。学生なら学校にいくのが本業であろう」
道長はベッドの脇にあったデジタル時計を手に取った。
ディスプレイには、金曜日の十一時と表示されている。
「やっべ、今から寮に戻って支度しても完全に遅刻だ……」
「遅刻で済んだらいいけれどね? なんたって、君は月曜の夜に蒼衣紫苑から忘却術をかけられて以来、実に三日も無断欠席をしているのだから」
「そ、そうだった————————ッ!」
道長は思わず頭を抱える。三日連続無断欠席とあらば、当然先生たちは怒り心頭であろう。
「冒険は終わりだよ、白河道長。幸いここから君の寮までは距離が短いから、今から急げば午後には学校へ行けるんじゃないか」
笑う霧咲殺姫をよそに、道長は部屋の出口へと駆けて行った。




