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ライトノベルの召巻術師  作者: 右町田みとむ
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 高校デビューを白河道長が明確に意識したのは高校一年生の夏になってからだった。

 中学からサッカー部に所属していた道長は高校でもサッカー部に入部。中学の頃よりもサッカーのレベルが低い高校に入ったせいか、入部してすぐにレギュラーになることができた。

 一年生の夏休みを経て同じ学年の女子マネージャーから告白を受けた。そのことを道長がクラスの友達に話したときに言われたのが「それ、完全に高校デビューだな」という言葉である。

 言われてみれば高校に入ってからの道長の生活は何一つ失敗がない。全てが上手くいく、理想的な高校生活。そんな実感を、その言葉を言われた時に初めて意識した。

 そして半年後、二年生の春。

 例の女子マネージャーとは交際関係が依然として続いたままであった。友達も多いし、何一つ不自由無い生活が相変わらず続いている。

 今日は久々に部活の練習が無い日だ。道長が校門に向かうと、そこには道長が付き合っている女子マネージャーがふてくされたような顔をして待っていた。

「道長、おっそーい! いつまで待たせるのよ」

「わりぃ、教室で友達と喋ってたら時間経っちゃってさ」

「なにそれ。ウチと友達、どっちが大事なのよー?」

「それは、両方かな」

 なんて、道長と彼女は他愛も無い会話を交わす。

 しばらく通学路を歩いていたところで、突然雨が降り出した。

 そういえば、今日部活がないのは天気予報が雨だったからだと道長は思い出しつつ、傘を持ち合わせていなかったことに気がつく。

 そして、傘を持っていなかったのは隣で歩く彼女も同じだったようで。

 二人は顔を見合わせると、笑いながら走って屋根のある公民館の下まで走って行った。

「春の天気が、こんな変わりやすいとはね」

「ウチの制服、びちょびちょ……」

 道長は隣でタオルを被る彼女の方に目をやった。

 告白してきたのは彼女からだったが、正直な話、道長もまた彼女に好意を抱いていたのだ。

 中学までは彼女がいなかっただけに、初めてできた彼女が自分の好みの子であるというのは大変満足であった。

 そんな道長の浮ついた心とは一転、雨脚はどんどん強くなっていく。

 そればかりか、空も暗くなり、風も吹き始めた。

 そんな中で、傘もささずに道をさまよう一人の青年が道長の目に留まった。

 大雨の降る中、必死で何かを叫んでいるように見えたが、叩きつける雨のせいか、道長は青年が何を叫んでいるのか聞き取れなかった。

「道長、何見てるの?」

 彼女が道長の顔を覗き込むようにして言った。

「いや、あそこの男の人。傘ささずに大丈夫かなって」

「なーんだ。そんなことか」

 道長の言葉に対して、彼女はつまらなさそうに答えた。

「他人なんてどうでもよくない? ウチと道長が幸せなら、それでオッケーじゃん?」

「それはそうなんだがな」

 道長はもう一度、雨に濡れる男の姿に目をやった。

 彼はきっと、傘を貸してくれる友達なんていない、ましてや彼女さえも。

 そして、報われない人生を送るんだろう。

 どうしてだろう。道長はその青年と話したことさえ無いのに、彼の素性が明確に分かる気がした。

 それは、今の道長の人生とは真逆のものであるのに、自分とは全く関係の無いことなのに、道長は雨に濡れるその男が気になってしまう。

「ねえ、ウチの話、聞いてる?」

「聞いてるさ、聞いているけれど————」

 あの青年を、助けなきゃ。

 そう思った途端、今まで聞こえなかった青年の叫び声が、確かに道長の耳に届いた。


 ————助けてくれ、ライア——————


「ライア、だと」

 道長は目を見張る。

 ライアなんて名前、生まれて初めて聞いたはずなのに。

 なぜか道長は、その名前を知っていた。

「そうだ、俺は運動部で活躍しながら彼女を作る、なんて人生を望んでいた。だけど、本当の望みはこんなものじゃない」

 道長のまわりの景色が急変する。雨も、雨宿りしていた公民館も、隣にいた彼女も、全てが景色とともに溶けていく。

「俺はもう一度、ライアに会いたいんだ!」

 その言葉に呼応するかのように、変化していた景色が落ち着きを取り戻す。

 そして、道長の前には、道長がもう一度会いたいと願った、物語の少女。

 王女ライアが、そこにいた。


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