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ライトノベルの召巻術師  作者: 右町田みとむ
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 霧咲殺姫曰く、蒼衣十二郎の所在は前回道長が立ち寄ったルイズ法律事務所と変わらないらしい。

 道長と霧咲殺姫は最寄駅に着くとすぐに法律事務所のビルへ直行し、エレベーターへ乗り込んだ。

 行き先階は前と同じ、十階である。

「居場所が変わらないって、ずいぶんと詰めが甘い気がするのですが」

「言っただろう。彼は有力な迷宮使いだ。居場所を移すより、より迷宮を複雑化させるのに時間を費やした方が確実だと考えたのだろう。現に私の能力は居場所を確実に特定できるが迷宮を解くのは苦手ときている。まったく面倒な話だ」

 霧咲殺姫の能力を見据えた対策をしてくる様子から、蒼衣十二郎は相当頭脳的であることが読み取れる。

 本当に自分自身が迷宮を解いて、六年前の事故の再来を防げるのか。

 道長に緊張感がまとわりつく。

 しかし、そんな道長の気持ちをないがしろにするかのように、エレベーターは等速でビルを上がっていく。

 そして、エレベーターの速度が急速に落ち、十階で停止する。

 慣性力が体にかかる。ふわりとした感覚が非常に心地悪かった。

「エレベーターのドアが開いたらそこは迷宮だ。覚悟してくれ」

 エレベーターのドアがギシリと音を立てて開く。

 そこには、学校で使われるような学習机と、その上に一枚の紙だけが置かれていた。

 それ以外の家具などは一切置かれていない。とてもシンプルな部屋。

 紙には次のような文章が手書きで書いてあった。


 今年は何が欲しい?


「……ということだ。この問いに答えられれば蒼衣十二郎の元へ進めそうだが、いかんせん問題の意味さえわからない」

 霧咲殺姫は自分ではどうにもならないことを示すかのように深いため息をつく。しかし、問題の意味がわからないのは道長も同じだ。

 答えるにはあまりに問題文が短すぎる。とてもヒントが掴めそうにない。

「この部屋って、この紙と机以外で何か変わった所はなかったですか?」

「ああ、見ての通り何もないし、実際に探ってみたり銃弾を壁に撃ったりしたが本当に何もなかった」

「探りを入れるのに拳銃まで使っていたんすか…………」

 壁には傷一つついていない。やはり、この問いに答えるしかなさそうだ。

「しかし…………」

 しばらく思案していくうちに、道長は一つの違和感に直面した。

「霧咲さん、一つ聞きたいのですが、この問いって必要あったんですか?」

「問いが必要かって? まあ迷宮なんだから、このような仕掛けがなくてはしょうがないと思うが。問いがなければそれは迷宮ではなく行き止まりになるであろう」

「そうなんですよ。問いがなければそれはただの行き止まり。ここから先へは誰にも通させない。でも、あえて問いを設けることで行き止まりにしていない、そう捉えられる気がするんです」

「つまり、どういうことかね?」

「蒼衣十二郎はあえてこの問いを作ることで、侵入者全員をシャットアウトすることなく、誰か特定の人物を通すようにしているのではないか、と」

 しかしここへ来る人物は蒼衣十二郎の企みを阻止する目的があることは彼も重々承知しているはずだ。

 では、侵入者に迷宮が解かれるリスクを冒してまで通したかった人物とは誰だ?

 そして、今年『は』何が欲しい、という文面も妙だ。

 今年があるなら、去年や一昨年もあったのであろうか。

 道長は今までの出来事を振り返る。登下校での紫苑の言葉、初めてルイズ法律事務所に来た時の印象、蒼衣十二郎の発言。

 道長の脳内で疑問がからまり合い、交差する、そして、

「…………そうか」

 一つの結論にたどり着いた。

「おや、何か気づいたようだね」

「ああ、不確定だが、これが最善手です」

 不確定、という言葉とは裏腹に、道長は自信を露わにするかのような口調で語りだす。

「まずは問題文の解釈だ。今年『は』という言い回しから、今年、昨年、一昨年と、年周期で『欲しがられる』ものであることは推測できる。一年周期で欲しがる、または与えられるものといえば、誕生日プレゼントかクリスマスプレゼントだ。お年玉という路線も考えたけれど、お年玉は普通現金以外では渡されないから、わざわざ内容を聞く必要はない」

 道長は机にもたれかけた。机は床と接着されているのか、ビクとも動かない。

「次に蒼衣十二郎がリスクを冒してまでも通したかった人間の特定だ。これは簡単だ。蒼衣十二郎が通すのは彼の味方のみ。すなわち、娘である蒼衣紫苑ただ一人。彼女と蒼衣十二郎は呪いによって会うことができないが、何かの奇跡で会えるのではと、望みをかけたのかもしれない」

「なんとなく理解できたよ、白河道長。つまり、この迷宮は蒼衣紫苑のために作られていて、彼女が今年の誕生日かクリスマスに何が欲しいか当てることができれば道は開かれる、ということだろう?」

 そこまで言ったところで、霧咲殺姫はある疑問に直面した。

「では、蒼衣紫苑が欲しがるプレゼントというのは一体なんなんだ?」

「そう、そこが一番重要な話なんです」

 道長は不安な様子を一切見せない。まるですべてを見通すことができているかのように。

「本来プレゼントで欲しいものは蒼衣紫苑本人しか知りえない。それが問いになっているということは、父である蒼衣十二郎も欲しいものを把握している、つまり元から欲しいものは決まっていたと断定できるんです。召巻術の呪いによって六年前から蒼衣親子が対話不可能になっていることを考慮すると、答えはただ一つ」

 ここで道長は、いつかの登校時に紫苑が話していた内容を思い出した。

 ————小学校の頃から写真研究部に入りたいと思っていたんです。


「答えは、カメラ、だ」


 次の瞬間、道長の声に呼応して、部屋の正面の壁に扉が現れた。


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