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「なんだ、これ?」
寮に帰った道長は自分のポストに厚い封筒が入っているのを見つけたのだ。
一見すると対して不思議な状況とは思えないが、白河道長は寮で一人暮らしであり、さらに言えば新聞や雑誌を定期購読しているわけでもなく、ネット通販などもしない。
つまり、ポストの中に何かが入っているなんておかしいのだ。
では、この封筒には何が入っているのか。
不思議に思いつつ、道長は封筒を持って自分の部屋へと進む。
道長の部屋は寮ということもありそこまで広くない。玄関を入ってすぐ右のドアの先に洗面所があり、中央の廊下を進めばキッチンと居間へ至る。
部屋に入ると直進し、リビングにある自分の机に向かう。椅子に座り、机の上に封筒を置いた。
「爆弾とかじゃありませんように。札束とか入ってないかなぁ」
そんなくだらないことを思いつつ封筒を開ける。
さすがに爆弾が入った宅配テロということはなかった。
中に入っていたのは一冊の本。サイズは文庫本と同じで、表紙には美少女の絵とその敵と思われる魔人のようなキャラクターのイラストが描かれている。おそらくライトノベルの類であろう。そして、題名は『鏡の檻姫』と書かれていた。
道長は不審に思う。
高校一年間を帰宅部で過ごしていた中でかなりの数のラノベを読んでいたし、書店にもよく通っていたことから、道長は知らないラノベはないと自負していた。しかし、道長はこのラノベを知らない。
不思議な点は他にもある。普通ラノベに限らず本というのは出版元の会社があり、本に明記されているはずである。『鏡の檻姫』にはそれがない。よって、出版社が不明。
しかし出版社がわからないだけならよかった。あろうことかこの本には、著者の名前さえも書かれていなかったのだ。
これ、本当にラノベなのか? なんて思う道長であったが、とにかく読んでみないと始まらない。パラパラとページをめくり、冒頭部分に目を通した。
舞台は中世ヨーロッパ。破壊の邪神なる悪役によってヨーロッパの大部分が支配されてしまい、もともと住んでいた人々は鏡の世界に収容されてしまう。元のヨーロッパを取り戻すため、王女ライアが破壊の邪神に立ち向かう、というのが物語のはじまりであった。
しかし。
「つ、つまんねぇ」
何を隠そう。つまらないのである。
「序盤二十ページはひたすら物語の設定を書き並べているだけ! それが終わったかと思えば必要の無いキャラが一気に登場。しかも王女ライアがいかに美しいか説明するのに二ページ使ってるってどういうことだよ!」
見たことのないラノベだと思ったら、見たことないレベルのつまらなさ。思わぬ展開の連続に道長は少し困惑する。
もはやクソラノベなんて域を超えている。ラノベとして成り立ってない! そう道長が言いかけたその時。
「ずいぶんとケチをつけてくれたな。貴様、我に文句があるというのか?」
幼さが残るものの、凛とした声。
声は、道長が座る椅子のうしろ、部屋の中央に立っている美少女からであった。
はっとして道長は彼女の顔に目をやる。そして、驚きのあまり呆然としてしまう。
何を隠そう、そこに立っていたのは、本の表紙や、二ページ分使って描写されたものと全く同じ姿。
王女ライアが、そこにいた。




