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ライトノベルの召巻術師  作者: 右町田みとむ
15/28

14


「また会ったね。白河道長」

「……俺はもう会いたくなかったけどな」


 道長とライアは『武器』を作った後、着替えて寮を出た。そして数分駅に向かって歩いた先に、昨日の女は立っていた。

 ライアが着ているのは昨日道長が買ってきたものだ。ニットTシャツとショートパンツという姿はドレスのときよりも格段に動きやすそうである。

 一方で、女は昨日と同様にメタル系の服装で身を包んでいたが、こめかみの辺りから右目にかけて包帯を巻いていた。察するに、昨日の爆発で被害を受けたのだろう。


「昨夜は実に見事だったと思うよ。君が数々の機転を利かせたことで、私は見てのとおりの様だ。君は自分の無能力さながら、その頭脳で私を突破してみせたのだ! 面白い、 実に面白い。面白いが不愉快だ!」

 女はその左目で道長を睨みつけた。その目は昨日のような無感情なものでなく、明確な殺意が読み取れる。

「だが君をあなどっていたのは私の責任だ。私は猛省に猛省を重ねた。そして誓った、万全の準備をして、次に会った時は確実に殺すと。しかし、その日がこんなにも早くやってくるとは実に幸運だ! しかも君の隣の少女は『鏡の檻姫』ではないか! ありがたいね。これでわざわざ君の自宅に赴いて回収する手間が省けた」

 女は本を開いた。いつ襲いかかってきても不思議ではない。


「さあ始めよう白河道長。今日が君の命日だ。そして、君たちの計画が終了する時だ! 出でよ、『青龍』ッ!」

 女の声に呼応し、光の龍が本の見開きから現れる。

 そして間髪いれずに、道長向かって突進してきた。

「ミチナガ! 来るぞ!」

「ああ、任せろ!」


 その途端、道長はリュックから、あろうことか水鉄砲を取り出した。

 それはハンドガンのような大きさと見た目ではあるが、似ても似つかぬ、何の細工もされていないおもちゃ。

 そして道長はそれを龍に向け、発射した。

 発射された水は吸い込まれるように龍へと向かい、着弾。


 刹那、龍は昨日のように苦しみだしたのだ。

 完全に龍は方向を見失い、道長の足元一メートル手前に激突。

 そのまま、消失した。


「————————————————ッ」

 女は目の前の事態を理解できず、言葉にできない。

 対し、道長は勝利を確信したような表情だ。


「気づいたんですよ。あなたの召巻能力が何なのか」

 道長は一歩ずつ女へと近づいていく。

「昨日の別れ際に『青龍』は炎ではなく油に反応して苦しんでいました。今のようにね。俺にはそれが疑問でなりませんでした。どうしてサラダ油なんていう一見無害なもので、あそこまで苦しむのか。そしてその答えはあなたの能力名にあった」


 さらに一歩。まるで昨日とは立場が逆転したかのようだ。女は顔を引きつらせその場から動かない。

「『蜉蝣』が『陽炎』、であるならば、『青龍』は『清流』だ。そこで俺は確信した。あなたは清流使いの召巻術師だ!」

「な——————」

 女は驚愕の意を示すかのように声をもらす。

 道長の歩幅が大きくなる。


「そしてその弱点は汚水の類。であれば寮の近くで能力が使えないのも納得がいく。あの寮の水道は錆びきっているからね。完全に汚水同然。というわけで、この水鉄砲にはその錆び入りの赤い水が入っているんだ。普通の人にとってはただの水鉄砲であっても、今のあなたにとっては本物の銃より恐ろしい!」

 道長は走り出す。

「これで決着だ!」

 水鉄砲を女に向け、至近距離で撃ち込む。

 女は間一髪、それを後ろに退いてかわす。


「ふざけた真似をしてくれるな! 『蜉蝣』ッ!」

 途端に女の本から大量の羽虫が湧き出し、道長を襲う。

 これを水鉄砲で一匹一匹撃ち落とすのは至難の技だ。

「数に任せても無駄だ!」

 道長は動じない。リュックに手を入れると、赤く染まった水風船を取り出した。

 それを羽虫の大群に向かい投げつける。

 水風船は大群の真ん中で破裂し、錆びた赤い水が空中で飛び散った。

 群れをなしていた羽虫は散り散りになる。


「さあ、これで!」

 そう言って、道長がもう一度女に向かって駆けようとしたときだった。



「実にくだらない」



 女が、吐き捨てるようにして言い放った。

 その声は、道長が今までに感じたことのない、不快感をあらわにしたような声。

 それにひるみ、道長の足は止まってしまう。


「君の言う通りだ。私は清流使いの召巻術師。この本は『中国清流史』という題名でね。古来中国に流れていた清流と、それを信仰する人々について書かれたものでね」

 そして、女は手に持っていた本、『中国清流史』を閉じた。それに応じて、残っていた羽虫が一瞬にして消失する。

「だが、これはもう不要。私は言ったはずだ。万全の準備をすると。どうか思い上がらないでほしい。君を殺す手段は、召巻術だけではないのだよ」

「——————は?」

「水鉄砲が本物の銃とはよく言ったものだね。では、本物の銃で撃たれてみるかい?」

 おもむろに女が取り出したそれは、黒光りする鉄の物体。

 それは本物の、銃だ。


 女は道長の脳天に照準を合わせるようにして、道長に銃を向けた。

 その銃口を覗いた瞬間、道長に恐怖と現実感が一気に押し寄せる。

「おい、やめろって…………」

 女は銃を下ろそうとはしない。そして、

「目には目を、銃には銃を。さようなら、白河道長」


 道長は思わず目をつむる。

 終わりだと思った。

 そして、ひどく落胆した。

 果たせなかった、ライアとの約束を。

「ライア、すまない——————」



「いや、実に見事であった」



 刹那、銃声。

 しかし道長に苦痛はない。

 恐る恐る目を開けた道長は驚愕した。

 あろうことか、銃弾が道長の眼前で静止していたからだ。

 これには女も驚いていたのか、無言で銃弾を見つめているだけだった。


「『物体静止』だ」


 沈黙を切り裂いたのは、少女、ライアの声であった。

「我の作者はなんとも卑しいやつでな、これを含めて数個の軽い魔法しか我に授けてくれなかったのだよ」

 ライアはパチンと指を鳴らす。すると、運動量を失った銃弾は重力に従いまっすぐに地面へ落ちた。

「だが、これで十分だ。普通の人間を倒すのに関しては、これで事足りる。さあ、女。ここから先は我が相手だ!」

「チッ、『鏡の檻姫』がッ……」

 女はライアに向かって銃を撃つ。しかしその全ては、道長に撃たれた銃弾同様、空中でピタリと止まってしまう。

「貴様の攻撃はその程度か! なら我の番、『』ッ!」

 ライアの声とともに、女は後方に吹っ飛び、地面に叩きつけられた。

「……………………………………………………………………、」

 女に反撃の意思は見られない。

「我々の、勝利だな」

 戦いに終わりを告げるように、ライアは呟いた。


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