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ライトノベルの召巻術師  作者: 右町田みとむ
14/28

13


 道長は自室のベッドの上で目を覚ました

 窓からは朝日が射し込んでいる。気づかぬうちに、夜が開けていたらしい。

 ベッドから周りを見渡す。それはいつもと変わらない自分の部屋。

 ————ただ一点、ベッドのふちに腰掛ける金髪の少女を除いては。


「ライア?」

「……ああ、ミチナガか。よかった。目を覚まさないかと心配したのだよ」

 金髪の少女はひどく疲れているようだが、道長を見つめるその目には確固たる心配の意が読み取れた。

 そして道長の両肩をつかみ、思い切り揺さぶってみせた。


「いったい何があったというのだ! 我は日が沈むまでに帰って来いと伝えた。なのに貴様は一向に戻ってこないではないか。そればかりか、夜に突然《召巻》されたと思いきや、やはり帰ってくる気配がない。嫌な予感がして外に出てみたら、ミチナガが寮の正面玄関に倒れ伏していた! なんだ、敵襲か? 現代の日本では敵襲はないのではなかったのか!」

「いや、俺も驚いたさ。服を買った帰りにいきなり女が現れたと思いきや、それが召巻術師で……」

 それから道長は昨夜にあった一連の出来事を事細かく話した。女との戦闘、女の召巻能力。そして戦闘の結末。

「……で、投げた一斗缶が爆発。それに女は巻き込まれた。それで、死に物狂いで寮の方向へ走って、寮の玄関についたところで俺の視界は暗転、ってわけだ」


 ライアが急に召巻されたのは、周りに助けを求めた所で無意識にライアにも助けを求めてしまったのであろう。

 ライアは道長の説明を黙って聞いた後、深く頭を下げた。

「こんなことに巻き込んでしまって本当に申し訳が立たない。迫り来る危険を予測できず、ろくな説明もなしに『鏡の檻姫』の持ち主探しを任せた、我の責任だ」


 顔を上げたライアは、自分の責任を強く感じているのか、今にも泣きそうな顔をしている。

「正直なところ、我は自分自身が元の所持者の元へ帰らなくてはならないという意思はあるのだが、その理由は自覚していないのだ。半ば本能的というか、機械的な意思で元の所持者を探している」

「そうだったのか。理由はないけど使命がある。難しい、というか、複雑なんだな」

「そうだ。だからミチナガ————」

 長い、沈黙の後、


「これが最後の確認となる。報酬もない、危険は伴う、それでも、貴様は我の持ち主を探してくれるのか」

 ライアの目は本気であった。しかし、期待と不安が混じったような、すぐに壊れてしまうような目。

 たとえ創作物から生み出された少女であっても、その目は本物よりも、少女らしい。

「————ああ、やるさ」


 これまでの道長の人生はひどく凡庸であった。

 他人と同じように勉学に励み、学校に通い、卒業し、また入学し、卒業し、

 他人が取って代わっても、何ら差し支えのないような、人並みな生活。

 でも今はどうだ?

 ライアの意志に応えられるのは自分だけだ。これは自分だけに与えられた使命。

 それを遂行せずして、何が自分らしい人生であろうか。


「どんな結末になろうと構わない。俺は成し遂げてみせるさ」

「ミチナガ、貴様は…………」

 ライアは満面の笑顔をみせる。それはこれまで見たことのないような、最高の笑顔だ。

 道長は少し恥ずかしくなって、やにわにベッドから立ち上がった。

「さあ! そうと決まったら準備をしなくちゃ! 今日が過ぎたらまた平日で遠出はできなくなってしまう。法律事務所に行くなら今日しかない。それに、もたもたしていたら次の敵が現れてしまうからね」


「うむ、だが待て。その件だが本当に女は襲ってこないと断定できるのか? 相手は召巻術師だ。一度の攻撃で諦めるとは考え難い」

 急に冷静になったライアが、顎に手を置いてつぶやく。

「でも女は炎に正面から突っ込んだんだぜ。到底無傷だとは思えないがなあ」

「ミチナガよ、この場で調べごとはできるか?」

「調べごとって。一応スマホからインターネットで何かしら調べることはできるけど」

「話を聞く限り、女の『陽炎』の能力は貴様と女の身体、そして女の召巻能力のみを他人から視認できなくさせる能力だ。よって一般人からすれば、昨日の一件は『トラックの荷台に載せられた一斗缶が唐突に宙を舞い大爆発』という不可解な事として捉えられているはず。人通りがあったならば、それは事件として広まっているのではないだろうか?」

「なるほど。確かにあそこまでの爆発がニュースにならないはずがない!」


 言うが早いが、道長はポケットに入ったスマホを取り出し、地元のニュースサイトに検索をかける。

 すると確かに、『軽トラックの一斗缶、不可解な爆発』という見出しの記事が存在した。

「ええと、昨日の夜、大通りを走っていた軽トラックの荷台にあった一斗缶が突如として爆発。後続のワンボックスカー一台が被害に。幸い、被害者はワンボックスカーの運転手一人が軽傷を負ったのみで付近を歩いていた人々の中にけが人はなし————、待て、おかしいぞ」


 ワンボックスカーの運転手が被害にあったのは当然だ。しかし、その上に乗っていた女はどうしたのだ?

 記事に載っていない、ということは、その場で取材が行われた時点で女がその場にいなかった、ということだ。

「つまり、女にはその場から逃げるだけの力が残っていた……」

「そういうことになるな」

 ライアが納得したように首を縦に振った。


「気をつけるのだミチナガ。昨日の時点で逃げ帰る力が残っていたならば、今日には再び戦えるだけの力を持ち直している。運が悪ければ、今日も交戦する可能性があるぞ」

 ライアの言葉を聞いてミチナガの背筋が凍る。

 またあの女と戦わなくてはならないのか。

 道長は自分の足元を見つめる。昨日は大きな傷は足首だけであったが、次会った時はどうされるかわからない。


「しかも今回は昨日と違う。逃げるのではなく勝たなくてはならない。本質的に戦闘方法は異なるし、はるかに難しくなる」

「なあ、それなら今日はやめておいたほうがいいんじゃないか?」

「だめだ」

「ええ!」

「よく考えるのだ。昨日の一件で女は多少なりともダメージを負っている。これは時間が経つほどに回復するものと考えていい。そうなると、なるべく早く、相手が弱っているうちに叩く必要があるとは思わぬか?」


 ライアは自信満々に説明するが、道長の顔は真っ青だ。なんせ、あの強敵相手にどう勝てばいいのかまったく見当がつかなかったからだ。

「そう諦めたような顔をするな、ミチナガ。どんな結末になっても約束を果たしてくれるのだろう。それに、召巻術は人間の能力を大幅に高めるものだが、一方で人よりも大幅に弱体化する部分も存在する。昨日の戦闘、相手の特徴をよく思い出せ。そこに、相手の弱点は存在するはずだ」

「相手の特徴か…………」


 道長は昨日の戦闘、女の発言をできる限り思い出す。

 そしてしばらく考えた後、一つの違和感が道長の頭に残った。

 ————あの光の龍はどうして、一斗缶の爆発時にあそこまで苦しそうに体をくねらせていたんだ?

 別に爆発の影響で苦しんだと断定するのが早いが、本当にそうなのであろうか。

 あの光の龍は高温であった。それは道長の足にある火傷を見れば明らかな事実。

 よって、油の炎で苦しんだとは考え難い。

 ならば、龍が苦しんだのは、炎ではなく油本体に対してではなかろうか?

 そして第二の疑問。女は道長の寮の周りでは召巻能力が使えないと話していた。

 この寮の特徴は、なんといっても古いところだ。

 それと彼女の弱点に関係があるのだろうか。

 最後に、女の召巻能力。

 『蜉蝣』の『陽炎』と女は話していたが、あの二つには関係があるのだろうか。

 そして、『青龍』には————


「————————————————ハッ」

 途端、道長は笑った。

「おや、ミチナガ。何かひらめいたような顔ではないか」

「ああ。わかったんだよ、奴の召巻能力、そして弱点がね。確証はない、だけど、この予想に俺は賭けることにした」

 言うや否や、道長は自室のキッチンを指差した。

「さあ、『武器』作りだ。少し面倒だが、これこそが現状を打開する突破口だ!」


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