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ライトノベルの召巻術師  作者: 右町田みとむ
13/28

12-2

「死は怖くない。誰にでも訪れる当たり前のことが、偶然今になって訪れた。それだけだ」


 その瞬間、一つの賭けが道長の脳内に浮かんだ。道長の口がゆっくりと開く。


「死は、誰にでも訪れる、か」

 膝の震えが、止まる。

「確かに俺はここであなたに殺されるかもしれない。だけど、あなたも生きて帰れるとは思わないでほしい」

 それまで、つまらなさそうに表情一つ変えなかった女の目元がピクリと動いたこと、道長は見落とさなかった。


「出来すぎた話だとなぜ疑わなかったんですか? 俺のような一般人が『鏡の檻姫』の所持者であることに」

「君は、何を言っているんだ」

 女は明らかな困惑の意を見せる

「俺が持っているのが一番安全だからだよ。つまり、俺はあなたを倒す手段を持っていることですよッ!」

 火傷で傷ついた足で、道長はもう一度地面を蹴りつけた。


 今度は逃げるわけではなかった。あろうことか、横断歩道を走り渡り、女へと近づいていったのだ。

「俺と共に死ね————ッ!」

 道長は怒鳴りつけ、横断歩道の上を全速力で駆ける。

 そして女との距離がおおむね車線一本分程度になったとき、道長は大きく跳び上がった。

「跳びかかって自爆する気か!」

「違う!」


 瞬間、女の視界に一台の軽トラックが左方から現れた。

 別に、この軽トラックは特別道長の力によって現れたものではない。『陽炎』の能力によって二人に気づいていない人間が運転する、どこにでも走っている普通の軽トラック。それがこの道路を通っていただけのこと。

 ただ、女は道長の挙動に集中していたゆえ、やってくる軽トラックの存在に気付かなかったのだ。

 軽トラックは二人のわずかな間に入っていく、そして、


 道長は着地した、軽トラックの荷台の上に。

「————ッ! 君は初めから荷台に乗って逃げるために跳んだというのか!」

「当たり前だ! 俺みたいな一般人がまともに戦えるかっての」

 女の言っていた通り、二人の姿は他の人には見えていないようだった。軽トラックのドライバーは車体が揺れたのに違和感を覚え荷台を確認したが、すぐに前を向き直し何事もなかったかのように運転を続けた。

 そして、歩道に立つ女と道長との距離は広がっていく。

「これで、なんとか逃げ————」


「逃げられる、とでも?」


「は?」


 後方を振り帰る道長。

 そこには、同じようにしてワンボックスカーのルーフに乗り、道長を追いかける女の姿があった。


「おい、嘘だろ!」

「私も嘘だと疑いたいぐらいだよ! こうして二度も逃げる隙を与えてしまうとはね。でもこれでもう終わりだ、今度こそ君には死んでもらう!」

 女の怒号に応ずるように『青龍』の体が膨張していく。

 このままだと、軽トラックから飛び降りたところで避けることはできない。


 道長は軽トラックの荷台をチラと見る。

 そして、怪我をした足首を手で触れた。

 これは間違いなく火傷。『青龍』はかなりの高熱であることは確かだ。

 道長は腹を決める。これが最後の好機だ。


「貫け、『青龍』————」

 まばゆいばかりの光と共に、鳴き声を轟かせた龍が道長に接近する。

「俺は、死なないッ!」

 そう叫び、道長は荷台に載っていた一斗缶を『青龍』に向けて投げつけた。

 一斗缶の中身は使用済みのサラダ油だ。

 それはまっすぐに『青龍』へ向かっていく。


 そして一斗缶が龍の鱗に触れた途端、紅蓮の炎を上げて、爆ぜた。


 光の龍は激しく身体をくねらせた後、火が消えるかのように消失。

 ワンボックスカーのドライバーが爆発に気がついて減速するも、すでに手遅れ。

 女もろとも、炎の中へと突っ込んだ。


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