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ライトノベルの召巻術師  作者: 右町田みとむ
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 道長が目を開けると、見知らぬ天井が見えた。

「ここ、どこだ……」

 どうやら、気を失い、今まで横になっていたらしい。


 体を起こそうとすると、赤髪の少女、もとい蒼衣紫苑の姿が目に入った。

「ここは救護室ですよ、ショッピングモールの。あとこれ、先輩が欲しかったやつです」

 声の主が渡してきたのは、道長がランジェリーショップで最後に見た下着、つまりライアのために買うものであった。

「本当にびっくりしたんですよ。ランジェリーショップで偶然会ったと思えば突然倒れちゃうんですから。さらにいつまでもその下着を手放さないんですもの。仕方なく、あたしが買った、というわけです」

「そんなことしてたのか、俺」

 道長が周りをよく見渡すと、なるほど、確かにここは救護室で間違いないらしい。道長はベッドの上に寝転んでおり、隣のベッドには紫苑が腰かけていた。


「で、どうしてランジェリーショップなんかに?」

 紫苑が、当然の疑問というように道長に投げかける。

「あ…………、やっぱ答えなきゃだめかな、その理由」

「いえ、別に答えたくないのであれば結構ですよ」

「いいのかよ! 紫苑、気にならないのか?」

 紫苑の意外な返事に、道長は驚かされた。


「そりゃあ、気になるに決まっているじゃないですか。でも、だからといって相手の気持ちを考えずに詮索するのはよくないですから」

 紫苑は暖かい眼差しをして笑っている。夕日を受けたその表情は、仏そのもののように見えた。

「人は誰しも秘密にしたいことがある。互いの秘密に干渉し合わないのが、友達という関係ですよ。行きましょうミッチー先輩。もう体の方も大丈夫そうですし」

 紫苑はベッドから立ち上がると、道長の手を引いた。

「行くって、どこへだよ?」


 それを聞いた紫苑が、左指を立ててこう返す。

「決まっているじゃないですか。フードコートですよ。それに、まだまだあたしは買いたいものがありますから、今日はとことん付き合っていただきますよ!」

「付き合うって……ちょ、待てって!」

「青春は待ってくれませんよ!」

「いや、青春とかよくわかんないから!」

 紫苑に引かれるようにして、道長は救護室の外へ出た。



 それからの時間は文字通り矢のように過ぎ去っていった。

 道長と紫苑はフードコートで昼飯を食べた後、紫苑が行きたいと話していたアパレルショップ五店舗ほどでウィンドウショッピングをして、ショッピングモールからほど近い喫茶店でコーヒーを二人で飲むことにした。

「なあ、紫苑。なんでお前はこんなに俺のこと、かまってくれるんだ」

 コーヒーを一足先に飲み終えた道長が尋ねる。

「別にかまっているつもりはありません。あたしがやりたいからこうしているんですよ。それに、これが青春ってやつじゃないですか!」

「ハッ。青春か……」


 道長はふと思う。

 これが青春だというのであれば、この先もずっと同じような時間が続いてくれれば嬉しいと。

 そして、

「昔もこんな日々を過ごせたら、どうだったんだろうな」

 ふと、そんなことが道長の口から漏れる。


 それを聞いた紫苑が、コーヒーカップを追いて尋ねてきた。

「……………………ミッチー先輩は、もしも過去をやり直せるとしたら、どうします」

 唐突な質問であったが、紫苑は真面目な顔をしていた。

 道長は少し惑う。

「なんだよ突然。それに、過去をやり直すって言われてもなあ。現実味がなくて俺にはちょっと想像つかねえなあ」

「そう、ですか」

 紫苑が少しうつむいた気がした。


「つか、いきなりどうしてこんな質問をしてきたんだ?」

「いえ、ただの気まぐれな質問ってやつですよ。あたし、気まぐれの申し子ですから!」

「気まぐれの申し子か。確かに紫苑に似合ってる言葉だな」

「なんですかーそれ、褒めてるのか貶してるのかどっちなんすかね?」

「さあ、どっちだろうな!」

「もう、先輩はいじわるですね」

「お前の方が断然いじわるそうに笑っているけどな」

 またいつものように、道長と紫苑は他愛もない会話を始めていた。


 しばらくして、紫苑が何かを思い出したかのように壁にかかっていた時計を見た。

「いつの間にかこんな時間です。あたしの寮、門限あるんでそろそろ帰らないとです」

 紫苑の言う通り、時刻はもう七時を過ぎていた。道長の寮と違って、紫苑の寮では夕飯が出るので門限が早い。

 空はもう真っ暗だ。喫茶店の鏡には、二人の姿が映し出されている。


 道長と紫苑は席を立ち、喫茶店の外へ出た。四月も終わるというのに、外の空気は少し肌寒い。

「あたしは少し寄るところがありますので、これで失礼しますね。では!」

 外に出て早々、紫苑はそう言って夜の街へと駆けて行った。

 その後ろ姿がだんだんと小さく見えていく。


「帰りは、一人か」

 紫苑が見えなくなってから、道長はぼそりと呟いた。

 風が、冷たい。


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