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ライトノベルの召巻術師  作者: 右町田みとむ
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「あ……ったく、どうしてこうなるんだか」

 スマホを片手に道長は隣駅にあるショッピングモールへと向かう。

 スマホの画面には、「中学生 ファッション」で画像検索された結果が映されている。


 着る服を全て中古品でまかなっている道長はファッションセンスが皆無である。

 自分の服でさえまともに選べないのに、果たしてライアにぴったりの服を選べるであろうか。

 スマホの検索結果を眺めても、これといってライアに似合うような服は見当たらない。


「髪色が違うからかなぁ」

 服のモデルが黒髪や茶髪であったことに気づき、「中学生 ファッション 金髪」で検索しなおす。

 出てきたのは、金髪に染めてバリバリに着飾ったギャルの数々であった。

「……、」

 無言でスマホの画面を閉じる。


 はぁ、とため息ひとつ。

「無茶ぶりが過ぎる」


 結局何を買えばいいのか構想が全く練られないまま、気づけば道長はショッピングモールにある女性向け服飾店の前に着いてしまった。


 そこは高品質かつリーズナブルをコンセプトにしている店で、幅広い顧客層をターゲットにしているのが特長だ。

 店内は明るい雰囲気でとても入りやすそうであるのだが、一方で取り扱っているのはレディース商品だけであるからか、店内は女性しかいない。

 ここにしがない男子高校生が一人入っていくのはさすがに奇妙だ。


 しかし、虎穴に入らずんばなんとやら。ここで買ってしまうのが最適解であるのは間違いない。

 道長は勇気を振り絞り店に足を踏み入れる。

 とりあえず、実際に置いてある服を見れば何かとっかかりがつかめるかもしれない。そう思ったわけだが、


「………………………………わからん」

 ファッション知識がない道長に選べるはずがなかった。


「なんだガーリーとフェミニンの違いって。日本語にすればどっちも同じ『女』じゃないか! しかも同じような服でも値段が二倍近く違ったりするし。これじゃあみんな安い方を買うんじゃないのか?」

 わからんわからんと唸っていると、それを見兼ねたのか店員が道長の方へとやってきた。

 この際店員に任せてしまおう、そう思った道長は、まくしたてるようにして用件を話した。


「あのあの、女性用の服を一式買いたいんですよ! 身長がこれぐらいの金髪中学生が着るモンなんですけど、俺ちょっとファッションセンスないんで店員さんに選んで欲しくてですね! ちょっと急いでいるんで、パパッと決めてもらえないっすかね!」

「は、はぁ」

 店員は戸惑っているがそれもそのはず。どう考えても完全な無茶振りである。

 さすがに身長と髪色の情報だけで服を選ぶことは難しいのだろうか。


 道長が己の無茶な希望に後悔していると、「ちょっと待っててくださいね」と言って店員が奥へと消えていった。

 そして数分後、さっきの店員が戻ってきた。

「一応このようなものが定番ではありますが……」

 腕にはニットTシャツとショートパンツを抱えている。

 道長にはよくわからないが、定番というのだから間違いないだろう。


「オッケーです! グッドです! ありがとうございます!」

 この際選り好みしている余裕はない。というより、選り好みできるような知識は道長になかった。

 ペコペコと頭を下げて道長はお礼を言うと、早足でレジへ向かって会計を済ませ、店を出た。


 去り際に店員が「彼女さんが喜んでくれるといいですねー」なんて言っていたけれど気にしなくてもいいだろう。「これは王女様のために買うんですよ」なんて口が裂けても言えない。

「そんなこと話したら確実に通報されるっての。それより、意外と楽に服が買えたな! 意外と、な!」

 次に服を買うときがあればこの店を使おう。そんなことを思う道長であったが、あいにく次に女性用の服を買う機会はなさそうだ。


「さってと、次は靴だな!」

 先が思いやられるが、買いに行くしかないであろう。

 妙な使命感を持って、道長は靴売り場へと向かった。


§


 靴を買うのに関して特に問題はなかった。

 というのも、服を買うときと同じように店員に事情を話したところ、買った服を見せたことで靴はすぐに決まったのである。

「あんなにパパッと服を決められてしまうんだし、アパレル業界の人ってすげぇよなぁ。さて、あと買うべきものは……下着」


 下着。

 女性用の下着である。

 道長の額から嫌な汗が流れる。


「異性の服や靴はなんとかなっても、下着ってなんだよ……。普通に買うだけなら完全に変態じゃないか! どんな理由で買えというんだよ」

 彼女へのプレゼント? いやだめだ。高校生が彼女にプレゼントするのにはあまりに不純すぎる。

 高校の授業で使う? いや意味わからんって。女性モノの下着を扱う授業ってなんなんだよ。下手すると学校に問い合わされるし危険だ。

 俺が使う? 何に?

 男が女性の下着を使う理由って............なんだ?

 そして結論が出ないまま、道長はランジェリーショップの前へ来てしまった。


§


 敵前逃亡という言葉がある。

 兵士などが任務を受けたにもかかわらず、それを放棄し、戦わずに逃げることだ。

 敵前逃亡は多くの軍隊で重刑となり、事実、第二次世界大戦中に敵前逃亡を行ったものとして銃殺刑にされているのだ。

 しかし、もしも敵前逃亡に刑が科されなかったら、戦場で兵士はどう行動するのであろうか。

 さらに言えば、それが見たことがないような強敵であったら、兵士の行動はほぼ一つに限られるであろう。


 そして、今の道長も同様の心境に陥っていた。

 ランジェリーショップを前に、一歩を踏み出すことができない。

 目の前のランジェリーショップはピンクのカーペットにピンクの壁紙。何より、陳列されている下着の数々。

 入る、入らないという話以前に、道長はどこに目線を合わせればいいのかわからない。


「……帰りてー」

 そんな気持ちが頭の中でぐるぐると回っている。

「でもなあ」

 道長は広告として貼ってあるポスターに写された、金髪のモデルに目をやった。


 寮に戻っても銃殺刑にはされない。が、待っているライアがいる。

 夕飯のときも同じ気持ちだった。別に何か借りを作ったわけでもないのに、道長には彼女のために行動しなければならない義理を感じていた。

 敵は強大だ。だが、

 道長は特攻する。そう決めた。

 止まっていた右足が、前へ動き出す。


「そうだ道長、何も考えるな。何も感じるな」

 少しずつ、けれど確実にランジェリーショップの中へと進んで行く。

「周りはみんな赤の他人だ。この一瞬が過ぎれば二度と会うようなことのない、ただの他人。それだけだ」

 やがて、目的のコーナーが見えてきた。

 そこにかかっている下着を持ってレジへ向かえば任務完了だ。

 道長はひるまない。


「周りは絶対に知り合いがいない。そう言い切れる。なぜなら俺には——————友達が、いないからだ!」

 道長は下着を手に取った。

 刹那、



「あれれ、ミッチー先輩じゃないですか」



 それは道長が高校二年生になってからよく聞き慣れた、蒼衣紫苑の声であった。

「あれれ、あれれれれれれ?」

 道長の舌が無意識に困惑の意を述べる。

「変だなー、俺、知り合いも友達もいないはずだったのになー。なんで知り合いに会っちゃうんだー?。しかもよりによってこんな所で会っちゃうだなんてなー。ああ、俺は、俺は——————」


「え、ちょっと、ミッチー先輩!」

 その声を聞いたのを最後に、道長の視界は、暗転した。


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