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そして呪術師は感情を失った。  作者: なおさん
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 僕がカフェテリアを出た時に、事は起こった。

 

 片付けじゃんけんじゃんけんぽん。

 

 そんな言葉が三人の間で飛び交い、ぐーぐーちょき。勿論自分がちょきだ。

 

「後片付けよろしく~」


 手をヒラヒラと振り、先にカフェテリアを出る2人。仕方なく、プラスチックのコップを分別処理した後、僕もカフェテリアを出る。

 

 そこで、事件は起こった。

 

 否、起こっていた。

 

 背丈にして長治より10cmは高い男だ。

長治が166cmだったから170後半だろうか。染めた金髪をワックスであげ、上げているので少し伸びた自毛が根元から見える。耳にはピアスが、ひい、ふう、みい……あ、だめだこれ数えられない。首や両手服などにも金やら銀やらのアクセサリー多数。これ一体何ジャラだ? 顔面偏差値は70と言ったところか。それなりに美形で、体型も今流行りの細マッチョ。しかしその表情はニヤニヤと歪み、なんともチャラチャラしい雰囲気を醸し出していた。


 ふと、疑問が浮かぶ。


 この顔、どこかで見た覚えがある。しかし、いくら頭を捻ってみても、その記憶は朧気だった。

 

 まあいいや。

 

 そう断じて思い出すのを諦めた事を、僕は一生後悔するだろう。

 

 長治とイケメンチャラ男が対峙する形で、長治の後ろには夏希が不安げな表情で立っている。何かあったのだろうと確信し、仲裁に入ろうとした所にイケメンチャラ男が言葉を紡いだ。

 

「いや、だから。お前に話してるわけじゃネエんだよ。俺は大宮サンに話があるの」


「だからお前と夏希が話すことなんか何もねえって!」


 叫び返す長治。その表情は明らかに冷静ではない。僕は今にも殴りかかりそうになる長治の間に割って入り、仲裁を試みた。

 

「ストップ。長治熱くなりすぎだよ。一体どうしたって……」


「こいつが! 夏希をデートに誘いやがった!」


 デートに? その程度の事でここまでブチ切れるのか? 幾ら何でも、長治がここまで怒る理由が判らない。考えを巡らせようとするが、思考はチャラ男の言葉によって掻き消される。

 

「大体さぁ。お前は夏希のナンなんだよ? 別に付き合ってるわけじゃないンだろ?」


「そりゃ、そうだが……」


 悔しそうな表情を浮かべ、目線を足元へとやる長治に、チャラ男は畳み掛けた。

 

「だったらお前が大宮サンを縛れる理由なんて一つもないジャン? つーか、彼氏でも無いのに束縛ですかァ?」


 ため息を一つ吐き出し、ドヤ顔を一層深めたチャラ男は一言。


「そういうの、クソウゼェ」


 プツリ。


 そんな音が確かに聞こえた。

 この音は、長治が本気でキレた音だ。

 

「テメェ!!!!!!!」


 僕は即座に行動に移った。殴りかかろうとする長治を体全体で受け止め、なんとか落ち着かせようと声を張り上げる。

 

「やめろ長治! 今アイツを殴ったら不利なのはお前の方だ!」


「どけッ! 泰生! 俺は、コイツをぶん殴らなきゃ気がすまねぇ!!!」


 暴れ、今にもチャラ男に腕を振り抜きそうな長治。見下すような笑みを浮かべるチャラ男。だめだ、もう抑えきれない……!

 

 そう思った瞬間に、長治の戦意を喪失させたのは夏希の叫びだった。

 

「長治! もうやめ!」


 力を抜き、夏希の方へ振り返った長治は、怒りを抑えきれない様子で答える。

 

「けどお前……」


「けどちゃうわ! 少し黙らんか!」


 そう叫んだ夏希は毅然とした態度でチャラ男の前に立ち、しっかりと目を見て言う。

 

「ごめんなさい。アンタとはデート出来ひんわ。ほら、これで満足やろ。ほな、サイナラ」


 言い切った。

 

 夏希にキッパリと断られたチャラ男は、一瞬目を丸くした後、目を閉じてニヤリと笑った。

 

「フフフ、まあいいや。こんなにキッパリと断られちゃ仕方ないね。今回はやめとくわ。けどなァ……」


 そう言い切った後、チャラ男の目は一層イヤらしさを増す。目の奥の仄暗い光が怪しく揺らぎ、そして呟いた。

 

「俺は絶対に君を諦めない。絶対に」


「お生憎様。アンタとは次会ってもお話なんてしーひんから」


「フフフ。楽しみにしてるぜ」


 気色の悪い笑みのままチャラ男は立ち去る。あれだけ騒いだのが災いしたのか、周りはギャラリーだらけだ。まずはここを抜け出す事が重要だ。そう思い、まず長治に声を掛けようとして……、

 

「夏希! お前大丈夫か!」


 遅かったか。長治は夏希に駆け寄る。ここが野次馬の中心だなんてことに、気付いちゃいない。

 

 しかし、それは夏希も同じ様だった。

 

「アンタさぁ。私のなんやねん」


 その一言に、長治はビクリとたじろぐ。

 

「何って……そりゃあ」


「そりゃあ、なんや? 幼馴染か? 同級生か? それとも私の兄貴気取りか?」


 次々と図星を突かれ、長治は押し黙るしかない。

 

「なァ、私はアンタの妹でもなければ、彼女でもないよ」


 それだけ言い切った夏希は、悲しそうな表情を浮かべて野次馬の中に姿を消す。

 

 人混みの中から、「ドけや!」等と罵声が聞こえる辺り、夏希も相当苛ついていた事が伺える。

 

 それから、野次馬が一人、また一人と散っていき、何時ものカフェテリア前になっても、長治はその場に佇んだままだった。

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