02
結局長治がカフェテリアに着いたのは、僕らコーヒーを購入して、席に座った時だった。
「お前らぁ……ハァッ……ハァッ、幾ら何でも置いてくのは白状過ぎないかい?!」
「フン、自業自得やん」
予め長治用のアイスコーヒーを購入しておいたツンデレ、こと夏希はそっぽを向きつつ手に持ったソレを長治に渡す。
一気に飲み干した長治は青い顔をした後、
「なんだこれ?! 甘すぎる?!」
叫んだ。
「ハッ。ガムシロ6つじゃ足りなかったぁ?」
「6つ?! 6つって言いました今?! 俺甘いの苦手なのよぉぉく判ってますよね夏希さぁん?!」
「ほんなん知っとるわ。ほい、400円」
「金までとるのかァ?! ……この女、やっぱやめといた方がいいぞ、泰生」
ゲッソリとした顔を浮かべ、こちらに向き直る長治。一部始終を見過ごした自分が言えた義理ではないが、どうか安らかに眠れ。
余談ではあるが、ガムシロップを6つ開けて入れ、かき混ぜている夏希の顔はとても幸せそうだったのが、何となくモヤッとしたのは誰にも言えない。自分だけの秘密だ。
「ほんで、結局肝試しってなんなん?」
夏希が本題に切り込む。
「だーかーらー、貴船神社の……」
「それはもう聞いた!」
相変わらずどこからか飛び出てきたハリセンが長治の頭頂部を穿つ。あれだけ勢いよく盛大に振りかぶっているのに、周りに被害が及ばないのは流石と言えよう。皆は真似しないように。
「具体的な計画があるんだろ? 話してくれよ」
僕も話に乗っかる。
肝試しなんて、暗黒の小中高校生活だった僕としては、初めて聞く楽しげなイベントだ。この2人となら面白くない訳が無い。
「クク、フフフ。いいだろう。ならば聞くがいい! 心して拝聴するのだ! 我が偉大なる肝試し計画を!」
「ハイハイいいから話してどうぞ」
律儀に靴を脱いでから椅子に立ち、身振り手振りをしながら大仰に話す長治だったが、夏希の冷めた一言によって、バーニングだったやる気も一瞬にして消化される。
「アッハイ。ごめんなさい。ちゃんと話します」
曰く、
開催日時は本日の深夜2時。集合は地下鉄北山駅。高校生活3年間で貯めに貯めた貯金を叩いて購入したと豪語する長治のマイカーで出発し、例の脇道まで行く。
脇道は車が通れるほどの幅はないそうだから、そこからは話通り徒歩で20分ほど歩く。そこに神社が本当にあれば探索。なければ帰って宅飲み。
大仰な名乗りとは裏腹に、非常にシンプルで普通の計画だった。
「ハイハイしつもーん」
夏希が手を上げる。
「なんだね大宮くん」
眼鏡をクイッとあげる仕草をする長治。しかし眼鏡など掛けてはいない。
「その仕草キモイからやめーや。諸々の準備は出来てるってことなん?懐中電灯とか」
「クククッ、ヌカリはなーい」
相変わらずドヤ顔の似合う男だ。
「虫除けスプレーとかちゃんと用意しとるんやろな」
「そんなもの、霊が逃げちゃうでしょーが!」
「そんなんで逃げてたら霊媒師いらんっちゅーに!」
まあその通りなのだが、この世の中には色々な除霊方法があるのだ。びっくりするほどユートピアとか。
ワーキャーと騒ぐ2人は静まる気配がなく、そろそろ周りの目も厳しくなってきた頃合だ。
「じゃあ、計画はそれでいこう。今夜2時に、北山駅集合で。各自必要なものは各自用意すること。それでいい?」
あわや、掴み合いの喧嘩に発展しそうだった2人は、顔を見合わせた後、僕の方を見て頷くのだった。