プロローグ
ーー人を呪わば穴二つ。
他人を害すれば、必ず自分も害される。墓穴、二人分お待ちでい。
つまり、そういう事だった。
「っあー!! テメエやりやがったな!」
そう叫んだアホ、こと木屋町長治20歳は、残念ながら僕の大学の同期であり、バイト仲間であり、友人であった。
短く刈り込んだ髪を掻きむしった後、手にしていたゲームのコントローラーを放り投げる。
「先に呪ってきたのはお前じゃないか」
「畜生、あと二ターンもあればゴール、そして逆転! って計画だったのによぉ……」
悔しそうにボヤく長治は地面に転がったスナック菓子の袋を取ろうとする。が、その手は空を切った。
「あっ、テメエ! 夏希!」
「アンタ、この前ウチの持ってきたポテチちゃんゼーンブ食うてしもたやん。あの時の恨み、忘れてへんで~」
取り上げた菓子袋を摘んで、ヒラヒラと見せびらかしているのは、大宮 夏希20歳。蛍光色のタンクトップにハーフパンツという露出の高い装い、後ろで一つに纏めた明るい色の髪が同じ様に揺れる。
それは、タンクトップの内から主張する豊かな膨らみも同じであり、たゆたゆとたゆたうソレに僕ら2人は目を奪われる。
「クッ……コイツ、判ってやってるだろ……ッ」
血涙を流し、握り拳を震わせる長治の肩に、僕はそっと手を置いた。
「仕方ないよ……。というか、今の全部長治の自業自得だからね」
「お前は鬼か! 血も涙もない悪魔共めぇ!!」
叫びながら後ろに倒れる長治。開け放たれた窓から、うるせえぞ! だなんて声も飛び込んできた。
先週の事だった。
同じ様に3人で集まり、同じ様に遊んだ時の事だ。
夏希が持ち込み、それはそれは大層楽しみにしていたであろうポテチちゃん期間限定ワサビソフトクリーム味を、長治は1人で食べてしまったのだ。
しかも、中身をグチャグチャに砕きつつ、袋まま口の中へ流し込むという悪業ぶり。これには流石の夏希もブチ切れ、蹴った張ったの大立ち回り。 因みにその際、夏希の素晴らしい双房は揺れに揺れ、僕個人としては非常に楽しませてもらった事は口に出せないが。
そして本日、先週アレだけ喧嘩したというのにケロリとした2人と僕はいつもの様に集まり、昼間からゲームに興じていたのだった。実に大学生らしい生活ぶりである。
金太郎電鉄。有名なTVゲームだ。双六のようにサイコロを回し、各駅の物件を購入しながら目的の駅を目指し、最終的な資産を競うゲームだか、そのゲーム性故に、他人への妨害は必須だ。
中盤までは調子のよかった長治だったが、後半へなるにつれ不運が続くこととなる。そこで長治は一発逆転の強カード『呪術師カード』を使ったのだった。このカードの能力は非常に高い金額を支払う代わりに、対象に選んだ人物の資産を0に出来る、正に逆転の一手だった。
但し、僕の手札に『カウンターカード』が無ければ、の話だったが。
長治はそれこそ、文字通りのカウンターを受け、唯でさえなけなしだった資産を0にされ、更に呪術師を雇った金額で借金まみれに。
終盤も終盤。もはやゲームは決まったものだ。
そう、自業自得。因果応報。身から出た錆。自分で蒔いた種。人を呪わば穴二つ。
この話は、そういう話だ。
自分の業により自分の首を絞め、
原因は結果を生み、
自分の至らなさから錆が零れ落ち、
無意識にでも蒔いた種が花を咲かせ、
人を呪った自分へ呪いが帰ってくる。
そんな、身も蓋もない、よく考えればなんでもない、当たり前の話だ。
そんな話を、これからしようと思う。
君からすれば、つまらない話かもしれない。
何せ、因には果があり、それは必然なのであれば、それは判り切った結果なのだから。
なんでもない、これは僕の失敗の話であり、僕の人生にして唯一と言ってもいい、人生の岐路にして足を踏み外した馬鹿話なのだから。
大仰な言い方をして申し訳ないが、こうまで注意書きをしてなんだが、どうか、君が僕と同じ失敗をしない様に。
そんな『呪い』をここに込めながら、話を始めようと思う。
始まりは、去年、ちょうど夏休みだった。