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おや? 彼の能力は全裸にならないと発動しないようだぞ。  作者: 安藤 兎六羽
第一章 おや? 彼は奴隷になるようだぞ。
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13、おや? オルレイウスの《福音》は《天真爛漫》――《ボーン・トゥー・ビー・ワイルド》というようだぞ。



「確実に炊煙なんかじゃないな。……ハギル、話はあとだ。いいな?」

「……ん、大将チーフ


 混乱するオルレイウスをよそに、さきほどまで言い争いをしていたはずのふたりは太い線を描いて上昇し続ける黒煙を見ながら短く言葉を交わした。

 クァルカスが状況の確認を始める。


「ロス、あの規模の煤煙は大規模交戦の可能性が高いが、《ノクトゥム》を攻撃するような人族・他種族勢力の可能性は?」

「わしが知る限り《魔術師民会》と《冒険者民会》のほうからは無い。わしらがルエルヴァを出立したあとで情勢が変化したということは考えられるが。クァルのほうはどうじゃ?」

「同じく。この短期間で情勢が大きく変化したと考えることのほうが不自然だな。……不自然といえばハギル、《スノウ・ハーピー》の動きがおかしいと言っていたな?」


 ロスと話していたクァルカスがハギルに水を向ける。


「ああ、大将チーフ。《ロクトノ平原》みてえな低地までヤツらが出張ることもまあおかしいっちゃおかしいが、あんな大群は見たことねえ。ヤツらの基本は多くても百程度の群れだ」

「何か、《スノウ・ハーピー》の習性に影響を与えるような外圧や内圧が加わった、ということか?」

「あるな。食いもんかもしんねえし、今年はオスの《魔鳥ディナ》が大量に産まれたとかな。あとは別の《魔獣種モンストゥルム》がヤツらのねぐらにやってきたとか、か」

「ここいら一帯の《魔獣種モンストゥルム》の生態地図の変化は確実だ、と?」

「じゃなきゃ、あんな大群はありえねえ」

「もうひとつ、《ノクトゥム》で補給が不可能な場合、我々が採り得る選択肢は?」

「時間をかけて寒村めぐりか、雑草をパン代わりに、ルエルヴァまで強行軍か」

「最悪だな」

「同感だ、大将チーフ


 さきほどまで言い争っていたはずのふたりが、同じような苦笑を浮かべている。

 オルにはなんだかわけがわからない。

 クァルカスが再びロスを見る。


「ロス。私の推論によれば《スノウ・ハーピー》の大群か、それに匹敵する未確認の《魔獣種モンストゥルム》との交戦が予想されるが、現在、付近に冬営中の軍団はあるか?」

「最も近いところでも、ここから東の属領都市ゲナワに一個大隊じゃな。しかし《ノクトゥム》の守護に共和国軍が動くとは思えんが?」

「《ノクトゥム》の宰相を動かせばいいだろう? まあ《ゲナワ》じゃ、少々遠いか……」


 亀甲縛りのままのレシルがおそるおそるという感じで発言する。


「レインフォート殿、お言葉ですが……少し大げさではありませんか? ただの黒煙ではありませんか?」


 レシルに賛同するのは少しイヤだが、オルもそう思った。

 確かに《魔獣種》との交戦の可能性はあるかもしれないが、《ノクトゥム》という都市もそれなり大きそうな印象を受けたし、それなりの戦備はあるんじゃないだろうか、と。


「デモニアクス殿。忠言痛み入りますが、《冒険者》は常に最悪を想定して動くものです。用心こそが最高の装備です」

「なるほど……」


 感心したようなレシルの声。


「とりあえず、ハギル、ルドニス……それに……オルレイウスは《ノクトゥム》へ先行してくれ」


 クァルカスがオルを見ていた。

 オルはその視線を受けて、力強く頷き返した。

 名誉を挽回するチャンスかもしれない、と。


「加えて、次の夜が明けるまでの警護任務の契約延長を依頼する。報酬は別途出させてもらう……もちろん、《義侠神ヴォルカリウス》の神名に誓って」

「はい! お受けします!」

「報酬についてはあとで、冒険者ギルド規定の則って、これまでのぶんと延長ぶんまとめて相応の支払いを約束しよう」


 オルは再び首肯する。

 そこで、ハギルが疑問の声を上げる。


大将チーフ? 俺ひとりでもいいんじゃねえか?」

「ハギルを信用していないわけじゃない。だが、少し気になることがある」

「……おいおい、大将チーフ? まさか、いつものヤツじゃねえよな?」


 クァルカスは硬い顔をして頷いた。


「……嫌な予感がする」



 〓〓〓



「ハギル。クァルカスは怒っていたのですか?」


 息を切らしながら、ルドニスとハギルと並ぶようにしてオルは《オバル街道》を駆けていた。

 周囲の景色は林や茂みから、森と呼べるほどの林立した樹木に蔽われ始めている。

 《呼吸法技能》と《歩法技能》の《きしょうな技能レア・スキル》を持っているはずなのに、現在の虚弱体質では足の速いふたりについて行くのが精いっぱいだった。

 自分の虚弱さに、少しだけ落ち込んだ。


「ああ、キレてたな。五分ギレってとこだ。……こえぇだろ?」


 オルは深く頷いてみせた。あれで五分なら、ほんとうに怒ったならさぞ怖いことだろう。


「ああいう口論は頻繁にあるのですか?」

「あそこまでいくこたぁ滅多にねえな」

「そう言えば、あの人・・・というのは? あなた方のパーティー名と」

「オル。そいつは、俺には言えねえさ。聞きたきゃ大将チーフに訊きな」


 ハギルの拒絶の言葉にオルは自分が立ち入った質問をしたのだと理解した。


「ハギル、もうひとつ訊いていいですか? クァルカスの『嫌な予感』という言葉にはどのような意味があるのですか?」

「まんまの意味さ!」


 え、それだけ?

 ロスのように解説が長すぎても困るが、これではちょっと斥候役が三人も出された意味がわからない。

 そうだ! オルの頭に閃きが走った。


「ハ、ハギルの兄貴。教えてもらえませんか?」


 なんだろうか、『兄貴』という言葉は、口に出すと妙に恥ずかしい。


「……なんだあ? ものわかりのワリいヤツだなあ! しょうがねえ! いいぜ、オル!! ハギルの兄貴が教えてやろうじゃねえかっ!!」


 ハギルの気勢がふたたび上昇するのが手に取るようにわかる。

 なんてチョロ……気のいい性格なんだろうか、とオルは思った。


「と、その前に……オルから見て大将チーフの実力はどんなモンだ?」

「えー……と」


 オルは思い返す。《鑑定》などの便利な技術は《祈り》に入るため、オルには使うことができないし、《魔法使い》の窯も無い。

 しかし、クァルカスの普段の動きを見ていれば自ずと知れることもある。

 何より、オルは実際にクァルカスの戦闘をこの目で見ている。

 《スノウ・ハーピー》と闘っていた時のクァルカスは、同じ場にいたレシルよりも明らかに動きが滑らかだった。


 だが、一昨日のレシルと比較すると一段落ちる。

 おそらくはレシルの戦闘経験の不足、あるいは視界不良などの劣悪環境に対応するための《技能》の不足もあるだろう。

 しかしながら、一対一での戦闘となった場合、オルが闘いを避けたいと思うのはレシルのほうだ。


 クァルカスが高レベルの《技能》保持者だということはオルも気がついていた。

 ふだんの足の運びや、荷物を担ぐときの振る舞い。身のこなしや、洞察力は身につけた《技能》の高さを物語っていた。


 それでも、それだけだ。

 たぶん、《あんまりみない技能マイナー・スキル》を幾つか持っている程度。

 飛び抜けた《技能》は持っていないだろう。剣については《ふつうじゃない技能アンコモン・スキル》を持っているかもしれないが、決して高い領域には達していない。

 あとは肉体強度がかなり高そうだというぐらいだろうか。


 母のイルマを基準に考える癖のあるオルにとっては、ひどく平凡な《戦士》。

 それが、《戦士》としてのクァルカス・カイト・レインフォートに対する、オルレイウスの率直な評価だった。


「……良い《戦士》だと、思います」


 ウソではない。たとえば、指揮をする姿などを見れば、クァルカスが有能なリーダーなのだとオルにも理解できた。

 苦慮した結果のオルの答えに、ハギルは走りながら器用に笑い声を上げる。


「ははっ! 気にするこたあ、ねえ! オルの言う通り『良い戦士グッド・ウォーリア』止まりの戦士、それが大将チーフだ! ご当人も認めてる!」

「……ええ?」


 ハギルの答えにオルは当惑した。

 冒険者とは、《技能》の水準に思い悩むものだと思っていたからだ。

 当惑するオルに向かって、「だがなあ」とハギルが言葉を続ける。


「それでも、《テオ・フラーテル》はルエルヴァに七組しかない《最上位冒険者トップ・アルゴノーツ》に入ってるし、大将チーフは《最良者》なんて異名まで頂戴してる。……なあ、オルよ。《冒険者アルゴノーツ》にとっての《最良》って言葉の意味がわかるかよ?」

「……より、多くの報酬を貰うことですか?」


 オルのイメージはそれだった。

 一獲千金の《冒険者》。それこそが、もっとも世間のイメージにも近いのではないだろうか。


「おしいな。……生きて・・・、その金を手にすることだ。死んでちゃ金は使えねえ」


 当然のことをハギルは言ったようにオルには思えた。


大将チーフひとりフリーで冒険者やってる時から、組んだパーティーメンバーを一人たりとも死なせたことがねえ」

「……それは、凄いのですか?」

「まあ、冒険者にとっちゃ生き残ることはあたりまえ。だが、死亡率もそれなりだ。この稼業を二、三年もやってりゃ、同じパーティーの誰かの死に目に遭う。特に《ふつうコモン》クラスぐらいの時にゃあな」


 オルには少し想像しにくかった。


「戦争、に出た時のようなものでしょうか?」

「一概には言えねえ。だが、近い」

「なるほど」


 オルは冒険者稼業に詳しくはないが、戦闘経験はイヤというほどあった。

 味方を、守るべき者を死なせたこともあった。……死を望む者もあったが。


 人間が複数集まれば、いろいろな人がいるものだ。

 お調子者もいれば大人しい者もいるし、強い者もいれば弱い者もいる。

 足並みが揃わなければ、大きな隙ができる。

 味方の損害がゼロなんて戦闘は、SFなどの完全に機械化された戦場が実現でもしない限り難しいだろう。


「んで、大将チーフにつけられた異名が《最良者》ってわけだ。判断を間違えねえ、仲間を死なせねえ、必ず生きて全員連れ帰る、って意味がある。……まあ、《悪運者》なんて、揶揄やゆして言うヤツも《冒険者》ん中にはいるがな」


 前世では、人事を尽くして天命を待つ、なんて言葉もあった。

 そう、オルは思い出す。

 この世界には神々がいる。確かにそこここにいるはず。

 きっと、運にも何かしらの力が働いているはず、とも考えた。


「本題だ、オル。……《最良者》クァルカス・カイト・レインフォートが言う『嫌な予感』には、それ相応の重さがある」

「それは?」

「毎回、ありえねえ横槍が入るのさ! 低級の魔獣を狩ってたはずが、急に何段かすっとばして上級の魔獣が出てくるとか、な」

「……恐ろしいですね」


 だろ? と隣を走るハギルが顔をゆがめて見せた。


大将チーフがそいつを口にしたのを俺も何度か耳にしてるが、毎度ひと悶着あるんだよ、これが」

「具体的には何が?」

「一歩間違えりゃ誰か死んでたな……なんて後から考えて思うヤツばっかだ。最近だと……ルディ? ああ、そうだったな! 簡単な魔物討伐のはずが、南下して来たギレヌミア人の部族に囲まれかけてた、なんてな?」


 オルは思い出した。

 自分がギレヌミア人に囲まれたときのことを。

 あれも死ぬかと思わされた事件だった。


大将チーフが例の言葉と一緒に『引き上げよう』って言わなけりゃ、今ごろ、俺ら全員《深潭カルヴァロス》の《ディース》のおひざ元さ」


 ハギルを挟んで向こう側のルドニスを窺うと苦笑を浮かべて大げさに頷いている。


「……話は変わりますが。そう言えば、ルドニスは喋れるのですか?」


 そう。ルドニスは確かにさきほど下手くそな詩のようなものを詠っていたはず。

 なぜ、無言に戻ったんだろうか?


「喋れねえわけじゃねえさ。……まあ、あとにしようぜ。……そろそろ、《ノクトゥム》が見えてくる」


 ハギルの声が緊張に強張っているのがわかった。

 ルドニスの顔にも力が入っている。


 急にどこまでも続くように思えた森が割れて、開けた少しだけ小高い台地とそれを囲むような雪野が目に飛び込んだ。

 その視界、台地の上に《ノクトゥム》の街の外壁を捉えて、なるほど、とオルは思った。

 これは凄い、と。


 だだっ広い雪原の中に現れた《オバル街道》が行き当たる《ノクトゥム》の街の外景。それが視界にすっぽりとおさまっていた。

 街というよりは城という威容。高さ7、8メートルはありそうな円柱型の街壁。

 その内側からたくさんの細い黒煙が上がって、上空で集合し、太い一本の黒煙となっていた。


 ぱらぱらと喚声が聞こえる。

 加えて、聞き覚えのある硬質な響き――


『キィヤアアアアア』


 雲霞のような、夏の蚊柱のような。《ノクトゥム》の外壁のすぐ上に集った《スノウ・ハーピー》の大群。

 無茶苦茶な数。


 ハギルがぽん、とオルの肩をひとつ叩いた。

 見れば「とまれ」と唇がゆっくり動いている。

 速度を落としてゆっくりと停止する。

 

 ハギルに手招きされて、オルとルドニスは広い《オバル街道》の脇、木立の中へと身を隠す。

 なるほど、とオルは思った。

 あれほどの数の《スノウ・ハーピー》。このまま無策で突っ込んではこちらにも被害が出る。冒険者は生きて帰ることが第一。

 ハギルはどのような策を持ち出すのだろう? ……そう考えるオルに、ハギルは一言。


「……よし。引き上げるか」

「え?」


 オルは耳を疑った。

 思わずルドニスのほうを見ると、瞑目しながら頷いている。


「《ノクトゥム》の防衛に参加するのではないのですか? あの規模の街でも、あの数の《スノウ・ハーピー》を撃退するのは厳しいと思いますが?」

「は?」


 今度はハギルが、耳を疑っているような顔をしてみせる。


「……そらあ、そうだろ。だって、あれ、数千単位の大群だぜ? 《ノクトゥム》は陥るわ」

「それがわかっていて、助勢しないのですか? 僕らが助勢すれば助かるかもしれないのに?」

「ばかか、てめえ? あんなんと闘り合うぐらいなら草食ってたほうがましだろ?」


 いや、そうなのか?

 オルにも経済観念ぐらいはある。冒険者だって霞を食べて生きていけないことぐらいわかっている。

 しかし、大きな街から出される報酬ならば、危険に立ち向かう価値があるほど大きなものなのではないだろうか?


「《最上位冒険者》なのですよね?」

「おいおい、買いかぶんなよ? ありゃ、どう見ても無理だろ?」


 そうなのか?

 母のイルマならば、喜び勇んで飛び込んで行きそうなものだが……。


 そこまで考えて、とりあえずオルレイウスはローブを脱ぐことにした。


「……は?」


 ハギルとルドニスがぽかんとした顔をする。


「ハギル、ルドニス。あれほどの数の《スノウ・ハーピー》が街を襲うことは珍しいのですか?」

「……いや、そりゃ、聞いたことねえ大事件だが……は? てめえ、なにして」

「統御者、あるいは統率個体がいる可能性は?」

「いや、ほぼ確実にいるだろうがっ?」

「どのような存在がかかわっていると思いますか?」

「いや、最悪は神々、次点で《天魔インクブス》、その次が同系太古の《妖獣種レムレース》、その次が《突然変異個体》……いや、待て。……は?」

「ハギルはそのうちだと、どの可能性が高いと考えますか?」

「《突然変異個体》あたりじゃ……いや、待て、てめえ、何して」

「では、行きますので。ハギルとルドニスはクァルカスへの報告と《ノクトゥム》との報酬の交渉をお願いします。また、ここで落ち合いましょう」

「はあ? ……まっ」


 オルはローブをキレイに畳んで地面に置いた。


 オルレイウスの身体に《福音ギフト》、《天真ボーン・トゥー・爛漫ビー・ワイルド》が満ちる。

 『全裸になれば人族最優である』というその能力が発動する――


「なにを……?」


 ハギルの疑問の声を背に聞きながら、剣だけを掴んで、《ノクトゥム》へ、その閉じられた正面門へと向かってオルレイウスは跳躍した。


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