不思議な絵本~彼氏の浮気~
『そろそろこの店にも飽きちゃったなぁ。もうずいぶんとここに居るからねぇ。そろそろ面白そうな客、来ないかなぁ?』
その時、1人の若い女が店に入って来た。若いと言っても、それほど若いわけではない。おばさんでは無いというくらいの若さだ。こんな古びた古本屋におばさんでは無い程度の若い女(次からは単に女と記すことにする)が来るなんて、信じられないほどめずらしい事だ。女は何かの本を探している様だ。
「あのー、すみません」
その女は、店の奥で居眠りをしていた店主に声をかけた。寝ぼけ眼に眼鏡を掛け直しながら、店主が答える。
「はいはい、いらっしゃい。なにかお探しですかな?」
女はカバンから出したメモを見せながら、店主に言った。
「このような本はありませんか?」
店主はメモを眺めながら女に告げる。
「こんな貴重な本が、こんな店に有るわけがないですよ。もっと大店に行った方が良いですよ。うちは古本屋のネットワークにも入っていないから、貴重な本は手に入らないんですよ」
「そうですか、ありがとうございます」
女は店を出て行こうとしている。
『良い感じの客じゃない! 私の好みのタイプだし、逃がすわけにはいかないよね。何とか気を引かなくては……』
パタリ!
女の前に一冊の絵本が落ちた。女は絵本を拾い上げ、表紙を見つめた。絵本といえば子供向けの本という印象があるが、この絵本の表紙は決して子供向けとは思えない。だいたい何の絵が描かれているのかさえわからない。
「おじさん、この店には絵本も置いて有るんですね」
「どれどれ、あれぇ、こんな絵本有ったかなぁ」
女は絵本を開いて中を見た。絵本の中には、確かに絵と日本語で書かれた文字が並んでいる。それなのに、何の絵が描かれているのか、どんなことが書かれているのか、全くわからない。もちろん、女は日本人で普通に日本語を使っているし、裸眼で本を読めるだけの視力を持っている。女は当惑した。
「おじさん、この絵本はどんな絵本ですか?」
店主は絵本を受け取ると、ぱらぱらとページをめくった。
「うーん、昔話の絵本ですかね。私の知らない話ししか書いてありませんね。あまり一般的な絵本ではないですね」
女は気になっていた。店主には読めているのに、自分には読むことが出来ないのはなぜなのだろう?
「この絵本はおいくらですか?」
店主は絵本をチェックしたが、どこにも金額が書き込まれていない。入庫した本は、書棚に並べる前に、内容をチェックして価格を書いたラベルを貼り付けてあるはずだ。それが無いとはどういう事かといぶかしんだが、目の前の女を逃したら、この絵本は永遠に売れる事はない気がした。店主は適当な値段を言って、この女に売ってしまうことに決めた。
「1200円でどうでしょう?」
「1200円ですかぁ」
女の言葉に慌てた店主は、すぐに値を下げた。
「うーん、この際だから1000円で良いですよ」
店主は女の反応をうかがっている。
「わかりました。頂いていきます」
女は財布から千円札をだし、店主に渡した。店主はお金を受け取ると、絵本を紙袋に入れて女に渡した。
「ありがとうございました」
店主の声を背中で聞きながら、女は店を後にした。
女は新橋駅前のSL広場にいた。時計を確認しながら、駅の改札口を気にしている。誰かを待っているのは明白だ。10分ほどで、待ち人が現れた。
「遥、待った?」
「さっき来たばっかり」
「そう、じゃあ行こうか」
女は、日向遥、28歳・独身・OL。 男は、高坂優輝、30歳・独身・遥の会社の先輩だ。
遥と優輝は大学のサークルでしりあって交際を始めた。それからずっとだから、ふたりの付き合いはもう10年になる。今日は優輝の誕生日を祝うため、遥がレストランを予約していた。ふたりは並んでレストランまでの道のりを歩いた。
「ここよ、ちょっとお洒落で良いでしょう」
「うん、良いね。でも、高いんじゃないのか?」
「大丈夫よ。そんなに高くないし、今日は優輝の誕生日だしね」
ふたりがウェイターに案内されて席につくと、ウェイターから今日のコースについての説明が有った。ウェイターが去るのを待って、遥が言った。
「これ、誕生日のプレゼント」
遥は紙袋からプレゼントをとりだして、優輝に渡した。
「あけて良い?」
遥がうなずくのを確認してから、優輝はプレゼントを開けた。
「おっ、この本欲しかったんだ。遥、ありがとう。でも、良く見つかったな、この本はもう、絶版になっているから、なかなか見つからなかったんだ」
「古本屋を4件も回っちゃったわよ。でも、喜んでくれて良かったわ」
ふたりは、会話を楽しみながら食事をし、その後バーで少し飲んでから、遥のマンションへと向かった。10年も付き合っていれば、それなりの関係になっていて当然だ。ふたりはベッドで抱きあった。そんな行為も、今では特別な事では無くなっている。翌日も仕事なので、優輝は帰って行った。
部屋で1人になった遥は、独り言をつぶやいた。
「あーあ、今日もプロポーズは無かったか……。ちょっとは期待していたのになぁ。次の可能性は、私の誕生日かな?」
女の1人暮らしも長くなると、独り言が増える様だ。
『どうかな? あいつ、あんたと結婚する気が有るのかねぇ』
「えっ! なに、今の」
遥には確かに声が聞こえた。部屋中を見渡し、トイレや浴室まで確認したが、誰も居ない。居るわけは無いのだ。
「とうとう幻聴まで聞こえてきちゃったのかなぁ? 私、大丈夫かなぁ?」
『幻聴じゃないよ。私が話しているんだから』
「だれ! 誰かいるの?」
遥は恐ろしかった。誰かが遥に話しかけている。部屋には自分以外誰も居ないはずだ。遥は状況を分析した。可能性の一番目に上がったのは、遥の精神に何かしらの問題が発生していることだった。これは認めたくないが、可能性としては一番あり得るのではないだろうか? 二番目に浮かんだのは、何者かが部屋に潜んでいる。あるいは、盗聴したうえで、どこかに設置されたスピーカーから話をしていることだった。しかし、遥の部屋は、それほど広い部屋では無い。さっき確認した場所以外に姿を隠せるような場所は無い。盗聴の可能性は有るかもしれないが、スピーカーを使ってわざわざ話しかける意味がわからない。この考えは否定するべきだろう。だとしたら、やはり遥自身に問題が発生しているのだろうか?
『大丈夫だよ。あんたの気が変になったわけじゃないから安心して』
また声が聞こえた。
「私の問題じゃないなら、あなたは誰? なんで私に話しかけるのよ!」
遥はちょっとキレぎみに言った。
『そんなに怒らないでよ。私は今日あんたが買った絵本よ。早く袋から出してよね!』
「絵本? あの何が書いて有るのかわからない、変な絵本?」
『そうよ、変な絵本で悪かったわね!』
遥は絵本を紙袋から出して、表紙を見つめながら言った。
「本当にアンタなの?」
『まだ信じてないの? ほかに誰も居ないじゃない』
「ほかに居なくたって、絵本が喋るなんてそう簡単に信じられないでしょう?」
『わかったわよ、証明すれば良いんでしょう。じゃあ、表紙を見て』
「さっきから見ているわよ!」
『あっそう! じゃあ、姿を見せるからね』
絵本がそう言うと、表紙に人の顔の様な模様が浮かび上がって来た。その模様は、しだいにハッキリして来て、きれいな女の人の顔になった。
『これが私の顔よ。どう? きれいでしょう』
「美人だけれど、どうやって出しているのよ。美人の顔を出したって、アンタはしょせん絵本なんだから、この美人とは関係ないでしょう!」
『あんた、素直じゃ無いねぇ。私が私の顔だって言っているんだから、それで良いじゃないの! そんなだから彼氏に浮気されるんだよ!』
絵本による突然の暴言に遥は激昂した。
「浮気ってなんなのよ! 絵本のくせに、なにわかった様なこと言っているのよ!」
『あんた、ちょっと落ち着きなよ。ね、お願いだから落ち着いてよ。浮気しているなんて、突然言い出す様な事じゃ無かったよね。ごめんなさい』
遥は絵本の謝罪に、少しだけ落ち着きを取り戻した。大きく深呼吸をしてから言った。
「信じ難い事だけれども、アンタが絵本だって言う事は事実みたいだから、一応信じる事にするけれど、なんで絵本が喋るのよ。まずはそこから説明してよ」
『やっと会話になりそうね。こんなのは初めてよ。それでは説明するから、ちゃんと聞いてね』
「前置きは良いから、早く話しなさいよ!」
『はい、はい、わかったわよ。私の名前はチヂヒメ、本の女神よ』
「ちょっと待ってよ、チヂヒメってもしかして栲幡千千姫のこと?」
『よく知っているわね、その通りよ』
「あんたねぇ、栲幡千千姫って機織物の神様じゃない! 何が本の女神よ」
『いやいや、私のお兄ちゃんは思兼命よ! あの有名な高天原の知恵袋なのよ。私だって頭良いんだからね!』
「はいはい、わかったわよ。そう言うことにしておいてあげるから、続きをどうぞ」
『えっと、私はチヂヒメ、本の女神なの。それで、私はこの絵本になって迷える人々に知恵を与えているのよ。そして今日、あの古本屋で迷えるあなたを見付けたってわけよ』
「それで私に知恵を授けようって? 偉そうに?」
『あのねぇ、こんな時は、普通ありがたがるものよ』
「はいはい、ありがたや、ありがたや」
『あんた、バカにしているでしょう!』
「いえいえ、そんなことはありません。って、そんなことはどうでも良いから、優輝が浮気しているってどういうことよ!」
『ああ、それは言葉通りの意味よ。あいつ浮気しているわよ』
「だれと?」
『若くって、可愛い感じの娘。あんたも知っている娘よ』
「だれ? 名前は?」
『日比野芽依、知っている娘でしょう? この娘、やりてだねぇ。あんたの彼氏、完全に狙われたね』
遥は考えていた、日比野芽依がなぜ優輝を狙うのか? 優輝は仕事が出来ないわけじゃないけれど、それほど出世するタイプでは無い。容姿もブサイクでは無いけれど、イケメンというわけではない。日比野芽依の見た目は本当に可愛い。そこいら辺のアイドルでは太刀打ち出来ないだろう。そんな日比野芽依ならば、もっと良い男がいるだろうと思う。
「なんで日比野さんが優輝を狙うのよ。言っちゃなんだけれど、あの娘なら優輝よりもっと良い男を狙えるでしょう? なんで優輝なのよ」
『あんたのせいね。あんたのことが面白くないから、あんたの男を横取りしようとしているんじゃない?』
遥には思い当たる理由が見付からない。
「わたし? 私があの娘になにかした?」
『直接的な事じゃ無くても、女は恨みを増幅できるものよ』
「だって、なにも思い当たらないよ」
『あんた、意外と男受け良いでしょう? 仕事もちゃんと出来るし……。その辺が気に入らないんじゃないの?』
「そんなことで他人の男を取る? 自分の将来にだって影響するんだよ」
『普通の娘ならやらないだろうね。でも、あの日比野芽依ならきっとやるよ』
遥は恐ろしくなった。その程度のことで、そこまでやる娘がいるなんて……、遥には信じられなかった。
「それで、私はどうしたら良いの?」
『そうねぇ、対決、かな?』
「対決ってなに? 誰と?」
『決まっているじゃない! 日比野芽依とだよ!』
「日比野さんと対決? どう対決するのよ」
『どこかに呼び出して、直接対決しかないでしょう? あの娘の家まで押し掛けるって言うのも良いかも? そうね、そうしよう!』
遥は想像していた。遥が芽依の住む部屋を訪れる。芽依が遥を部屋に入れ、勝ち誇ったような笑顔を見せる。遥は何を言って良いのかわからない。「優輝を返して!」 違う気がする。「優輝に手を出さないで!」ますます違っている。「あんた、私に何の恨みが有るのよ!」これも違うだろう?
「押し掛けるって! そんなこと出来るはず無いじゃない! 押し掛けて何を言ったら良いのよ!」
『まぁ、私に任せなさいって。今から行くよ。私をバッグに入れて行きなさい。私の声はあんたにしか聞こえないから安心して』
チヂヒメの言っている事は本当なのか? 遥には優輝が芽依と浮気している事自体信じられない。もし、浮気が間違いだったらどうしようという不安が有った。芽依の所へ行って、チヂヒメの言う通りに対決なんか出来るのだろうか? しかし、チヂヒメの自信ありげな言葉に、遥は従う事にした。
バッグに絵本を詰め込んだ遥は、日比野芽依が住むマンションに来ていた。インターホンのボタンを押した。
「はい、どちらさまでしょう?」
芽依の声だ。
「こんばんは、日向です。日向遥」
「日向さん?日向さんがこんな時間にどうしたんですか?」
「ちょっと、あなたと話をしなくてはならないと思って……」
「今、ロックを解除しますから、上がって来て下さい」
マンションのオートロックが解除され、自動ドアが開いた。遥は3階の芽依の部屋へと向かった。
『なんか、あんたのマンションより立派ね。あんたももう少し良い所に住んだら?』
「大きなお世話よ!」
『はいはい、あと、私に話しかける時は、声に出さなくても大丈夫だからね。ふたりしか居ない部屋で、あんたがふたりに話しかけていたらおかしいでしょう?』
「わかった。頼りにしているからね」
『任せなさい』
芽依の部屋に着いた。芽依は遥を部屋に招き入れた。やたらと可愛らしさを強調している芽依だったので、当然それらしい部屋を想像していたのに、芽依の部屋は意外にシンプルだった。家具はモノトーンで統一されている。ギャップを狙っているのか? それとも、本質はこっちで、いつも振りまいているピンクのオーラは演技なのか?
「なんだか日比野さんらしくない部屋ね」
「そうですか? 私はこの方が落ち着くんですよね。ゴテゴテしているのはあまり好きじゃないですから……」
遥は心の中で言った。(性格はかなりゴテゴテだけれどもね!)
「日向さん、私に話が有るって、どんな話ですか?」
『ほら、言ってやりなよ。あんた、優輝と付き合っているでしょうって』
(いきなりそこ!)心の中でチヂヒメに言った。
『じゃあ、とりあえず、あんたこそ私に話さなくちゃいけない事が有るんじゃない? とか言ってみたら』
遥はチヂヒメの指示に従う事にした。
「こんな時間に押し掛けてごめんなさい。日比野さんに話が有るって言うより、日比野さんが私に話さなくてはならない事があると思ってね。その話を聞きに来たのよ」
芽依は微笑と呼ぶべきか、薄笑いと呼ぶべきか、判断に迷う様な笑みを浮かべながら言った。
「私から日向さんへの話しですかぁ? うーん、高坂さんの事ですかねぇ? 高坂さんって素敵ですよね。日向さんと高坂さんって、ずいぶん長い付き合いなんでしょう? 結婚とかは考えていないんですか?」
『こいつ、良く言うよ! ハルカ、ガツンと言ってやりな!』
チヂヒメも興奮状態になっている。
「結婚ねぇ、私も今じゃアラサ―って言う歳になっちゃたからねぇ、真剣に考えないとね」
「日向さんと高坂さんだったら、お似合いですよね。私、応援しています」
(なんだよ、こいつ! ひとの男を取ろうとしている癖に!)
その時だった、玄関のインターホンが鳴らされた。日比野芽依がインターホンに応える。
「はい」
「あっ、俺。ちょっと良いか?」
優輝の声だ。なんで優輝が……こんな時間に……日比野芽依の部屋に……。遥はパニックを起こしかけていた。そんな遥にお構いなしで、芽依は玄関ドアを開けに行った。
部屋に入って来た優輝は驚いた。
「なんで遥が居るんだ? おい、芽依、どういうことだ?」
「さっき、日向先輩が訪ねて来たのよ。お兄ちゃんの事が心配になったんじゃないの? この前、ふたりでいるところ、会社の人に見られちゃったじゃない。噂になっちゃったのかも……」
ふたりでいた? 噂になる? それよりも、お兄ちゃん? なんなのよ!
動揺する遥に優輝が話し始めた。
「遥、ずっと前に俺の両親が離婚したことは話したよな」
遥はこんな状況で冷静に話し始めた優輝の気持ちがわからなかった。通常慌ててこの場を取りつくろうものでは無いのか? それとも、もう私の事なんかで慌てる必要も無いって言う事なの?
「学生の時に聞いたわ」
「両親が離婚して、俺は母親と一緒に暮らしていた。芽依は父親と一緒だった。芽依がうちの会社に入社して来た時はビックリしたけれどね。親父も元気らしいし、芽依も立派に育っていたからホッとしたよ。俺だけ幸せになっていたら妹に申し訳ないからな。それで、喫茶店で遥の事を相談して居たら、会社のヤツに見られちゃってね。変な噂になったら困るなって話していたんだ」
遥の頭は混乱していた。いもうと? (チヂヒメ、どう言う事よ!)
チヂヒメは黙っている。(何か言いなさいよ!)話をしたのは、芽依だった。
「お兄ちゃんと日向さんの付き合いって長いじゃない。お兄ちゃん、プロポーズする機会を逸してしまった。とか、今更プロポーズってどうだろう? とか思い悩んじゃっていてね。私が相談に乗っていたんだ」
「日比野さん……」
「やだなぁ、妹になる人に日比野さんは無いと思いません? 芽依って読んで下さい。芽依のこと、妹にしてくれますよね」
「ちょっと、ちょっと待って。あのさぁ、私まだ、優輝からプロポーズされて無いんだけれど……」
「えっ! お兄ちゃん、今日プロポーズするって言っていたじゃない! なんでしていないのよ!」
優輝が事の展開に戸惑いながら言った。
「何か……タイミングがつかめなくって……」
芽依が怒りながら優輝に言った。
「指輪だって用意していたじゃない! 全くもう、サプライズも何もないけれど、今プロポーズしちゃいなさいよ!」
優輝は遥にプロポーズすることを決めた。
「は、遥、きっと、いや、絶対に遥の事を幸せにするから……お、俺と結婚して下さい」
遥の目から涙があふれた。こんなムードのかけらも無い状況で、グダグダのプロポーズだったけれど、ある意味ものすごいサプライズだった。遥が10年間待ち続けた瞬間だった。
「はい、よろしくお願いします」
帰り道、遥はチヂヒメにいった。
「あんた、何なのよ! 優輝は浮気なんてしていなかったじゃない!」
『ご、ごめん……ちょっと間違えたみたい……。まだ、力が戻っていないのかなぁ……』
「なにが間違えたみたいよ! 相手の名前まで特定出来るのに、肝心なところを間違えるなんて信じられないよ。そのうえ上から目線でさんざん言って! 何が本の女神よ!」
『だから……謝っているじゃないの』
「私の事は片付いたから、もうお別れね。じゃあ、元気でね」
遥は絵本を植え込みの中に置いた。
『えっ、なに? こんな所に置いて行かないでよ! お願いだから……』
遥は振り向かずに手だけ振って歩き去った。
『くそー、誰か通り掛からないかなぁ。この前の古本屋よりは人通りが有るけれど、早く次のターゲットを見付けないと……。雨なんか降ってきたら大変な事になっちゃうじゃない!』
空にはどんよりとした雲が広がっている。チヂヒメにとって、次のターゲットを探す時間はあまり無いかも知れない。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
もしかしたらシリーズ化するかも知れませんが、ファンタジーっぽいのは、ちょっと苦手なので、どうなるかわかりませんが……。
「感想など頂けたら良いなぁ」などと思っています。




