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クレトの抜け穴

 やっと出すことができました・・・

 初めてのスマートフォンに定期考査に、いろいろありましたが、一応この小説は凍結していないので、宜しくお願いします。


 何本もの大きな松明で照らされた本道から脇道へ入ると、周囲は一気に狭く暗い廃坑へと姿を変えた。


 このクレトの抜け穴は、港街周辺の地域とクレト盆地とを南北に貫く本道を主体に、まるで木の枝のようにいくつもの脇道が延びている形の洞窟だ。

 元々鉱道だったのが、通行に丁度良いことと、鉱石が採れにくくなっていたこともあって、ほぼそのまま本道を拡張して道にしたせいでそんな形になったらしい。


 クロムたちは、その抜け穴にある脇道のひとつに入っていた。

 松明が据え付けられ、整備が行き届いた本道はともかく、脇道は廃坑になってからほとんどそのままの状態で放っておかれている。そのせいで、たまに鉱石が拾えたり、魔物が棲みついたりして主に冒険者や錬金術師など一部の人々に人気があるらしい。

 港街を出る前にその話を聞いた時は、クロムは魔物と戦って経験を積みたいと考えていたし、バルは鉱石に興味があるとのことで、話はすぐにまとまった。


 「おっ、鉄鉱石発見。へっへっへ」

 「・・・よく判るなぁバル」


 出口のすぐ横にあった脇道に入ってから少し経つが、バルは先程から鉱石探しがかなり好調らしく、片手に持った麻袋が早くも膨れ始めている。

 魔物にも時々遭ったが、二人が手こずるような強い魔物が出ることもなく、探索はのんびりと進んでいった。



 「ん、これは孔雀石か?・・・うーん」

 「どうかした?」

 「今気づいたけどな、奥に行けば行くほど出る石が珍しくなっていってんだ」

 「そう・・・なのか?まあ、確かに随分深いとこまで来たみたいだけど」


 狭い洞窟の中は、進むほどに空気が冷たく湿ってきている。

 マントを着ていて体は冷えていないが、顔が冷たくなってきた。その上、数歩先が真っ暗闇なので、今は松明の火がかなり頼もしく見える。

 もはや立って歩くことも出来ず、屈んだ状態でゆっくりと進む。心なしか、洞窟には不気味な雰囲気が出てきていた。


 (・・・そろそろ戻ることを考えようかな)

 クロムがそう考え、バルに相談しようとした時、


 「紫水晶!?何でこんなものが廃坑なんかで・・・クロム!」


 バルが拾い上げた石を松明で照らし、怪訝そうな声を上げた。相方も、ここに居るのは危険かもしれないと感じているようだ。

 すると突然、地響きがした。かなり近くで起こったらしいその音と振動は、二人を突き動かすのに充分だった。

 短くなっていた松明の火を予備の内の一本に付け、クロムとバルは来た道を戻り始めた。




 「やっと広いところに出れた・・・けど・・・」

 「ああ、真っ暗なままだな。でも寒くはねぇし、ここが本道のハズだけどな」


 少し調べてみると、出口の門が両方とも閉じられていることと、大きな松明の火が消えていることが分かった。恐らくは、クロムたちが廃坑に潜っている間に何かがあって、一時的に抜け穴は閉められているのだろう。つまり二人は現在閉じ込められていることになる。

 しかし、本当に危険なのは閉じ込められていることではない。真に危険なのは、比較的需要の高いこの抜け穴が閉じられるほどの「原因」と一緒に閉じ込められている、ということだ。


 「チッ・・・あーあ、まずったかな」

 「確かにまずいな。でもやれることはある。ほら、このでか松明は火が消されているだけみたいだから火付けないか?」

 「何をそんな張りきって・・・まあ、そーだけどな。じゃあ火ぃ付けてくれ。暗くてかなわねえ」


 門は閉じられて簡単には開きそうにないが、よく外の光と空気を通してくれていた。この分なら空気が淀む心配もなさそうだ。

 大松明に火を付け、辺りを照らす。すると、廃坑の横穴がいくつか崩れて塞がっているのが分かった。廃坑にいたときの地響きはこれが崩れた時の音だったようだ。


 近寄って調べようとすると、突然、ボコッ、と崩れた部分が盛り上がり、大きな手のようなものが飛び出してきた。

 すぐに距離を取り、様子を窺う。次に二つ目の手が飛び出し、最後に尖った鼻先が出てくる。

 人間より少しだけ小さい程の、異常な大きさのもぐらだった。こちらに向けて甲高い鳴き声を挙げ、敵意を向けている。


 「バル、こいつが廃坑を崩したのかな?」

 「ありえなくはないな、団体さんだったら特に」


 バルがそう言い終えるのとほぼ同時に二匹目、三匹目のもぐらが出てくる。そしてどちらとも、一匹目のようにこちらに顔を向けた。


 「明るくしてんのに逃げなくて、ご機嫌斜め。っつーことは」


 右手にクロスボウ、左手に大ぶりな短剣をかまえてバルが呟く。そのすぐ後、短く鋭い鳴き声を合図に、もぐら達が一斉に襲いかかって来た。


 「しょうがない、やるか!」


 クロムも木刀を抜き、間合いを取る。

 一匹のもぐらがクロムに突っ込んできた。少し大きめに横に跳び、大振りな一撃をかわす。


 「危なっ・・・この鋭さ、やっぱり!」

 間近で見て確信が持てたが、このもぐらの爪は、単に土を掘るためだけのものではない。恐らくは魔物だろう。

 しかし、いくら魔物といえど、やはりもぐらの動きはそう速くない。クロムが攻撃をかわした後で、無防備な頭部に一撃を入れるのはそれほど難しいことでは無かった。


 何度か打ち据えてもぐらを倒し、バルの方を見やる。こちらもさほど苦労なくもぐらを蹴散らせていたようだった。


 「お疲れ、何ともないみたいだな」

 「おう。でもこいつら、力だけは一丁前みたいだ。とろくて良かったな」


 見ると、少し離れた所の壁が爪の形に少し抉れていた。まともに受けたとしたら、確かに危険だろう。



 「それよりも、だ。これで地響きのことは良いとしても、外に出れねえままなんだよな。

 くそっ、すぐ次の街に着くと思って食い物あんま持ってねえんだよ」

 「あー、そう言えばおれもだ。うわ、気がついたら腹減ってきた・・・」


 抜け穴に入ってから、結構な時間が経っていた。心なしか、門から漏れる光も弱くなってきているように見える。


 二人が多くない食糧を大切にかじっていると、遠くで何かの地面から何かの音がしているのに気付いた。

 低く小さい唸りのようなその音は、次第に大きく、こちらに近づいているのが分かる。


 「クロム?」

 「分かってる。何か・・・あれ、もぐらは!?」


 いつの間にか、倒して転がしていたもぐら達が居なくなっていた。先の戦闘では昏倒させていただけなので、時間が経って目を覚まし、逃げた可能性はあった。


 そうしている間にも、音は大きくなって地面が震え、何かが近づいている音だというのがはっきりと分かるようになっていた。



 そして。


 崩れていた廃坑の土が吹き飛ばされ、音の主が現れる。

 天井も高く幅も広い抜け穴を、僅かな隙間を残してほとんど埋め尽くしてしまうような、巨大なもぐらだった。


 「・・・親分の登場ってか?」


 台詞こそ軽い調子だが、バルの表情は固まっていた。


 ギギギギギ、と金属が擦れるような嫌な音が響く。それがこのもぐらの鳴き声だと分かったのは、巨大な手がこちらに向けて振り上げられたからだった。


 クロムもバルも、もぐらに背を向けて走り、少しでもと距離を取る。それだけに、もぐらの手に当たった壁や天井が大きく抉られていったのがよく分かった。


 「うわ、何だあの威力っ!」

 「あれなら岩盤どころか鋼の壁でも余裕で破れそうだな」

 「っ、言ってる場合か!?」


 再び一撃。

 横薙ぎに振るわれた手は、洞窟の横壁に易々と穴を空ける。

 すると、それに合わせるようにして大きな地響きが起こり、もぐらの上で天井が崩れた。大きな土の塊がもぐらの目の前に落ちる。土はすぐに掻き分けられたが、それでも一瞬、もぐらの動きは止められたようで、二人は少し距離を稼げた。


 「おいクロム、このまま行くとあの閉じた門にぶつかるぞ。あの門、かんぬきのせいで開かねえぞ」

 「うん、それなんだけど・・・そうだ!

 いっそのこと、あいつに壊してもらおうか」

 「このもぐらに、か?

 まさかとは思うが、どうやってやらせる?」

 「・・・ぎりぎりまで引き付けて、門に攻撃を当てさせる?」

 「何でオレに聞くんだよ。

 ・・・危ねぇけど、まあ仕方ねえな」


 気がつくと、門の所まで走っていた。少し後ろで、もぐらも追いかけてきている。


 「よし、あった!ふう、崩れてなくて良かった・・・」


 最初に入った、出口近くの横穴も見つけた。

 もぐらが迫ってきた。壁や天井を崩しながら、段々と近づいている。


 「もう少し・・・今だ!」


 自分に向かって振り上げられる巨大な手。その恐怖に耐え、限界まで引き付けてから合図を出し、横穴に飛び込んだ。


 次の瞬間、背中に轟音を感じた。





 「た、助かった・・・」

 「あー、本当にひでぇ目にあった」


 門は豪快に吹き飛ばされ、夕方の強い橙色の日差しが洞窟の出口に差し込んでいた。

 もぐらは勢い余って外に出た後、すぐに穴を掘って地中深くに潜ってしまった。もしかするともぐらは眩しいのが嫌いな生き物なのかも知れない。


 何はともあれ、脱出は果たした。仲間も無事だ。


 「次の街に着いたら、当分休むぜ。当分今日みてぇなのはいらねぇ」

 「あはは・・・今日、大変だったもんな」

 「笑ってごまかすなよ。お前にもひやひやさせられたんだからな」

 「あ、あはは」


 日は傾いているが、沈む前には街に着けるだろう。本来なら、それほどに近い所なのだ。


 「爆弾とか持ってねえのかよ、そしたらすぐ出られたのによ」

 「・・・それは無茶振りじゃないか?」



 二人が向かう先はクレイの街。

 街の宿や民家には、ぽつぽつとあかりが灯り始めていた。

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