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港街ナケシ 中

(目を……覚ましませんように……!)




 人買いに袋小路に追い詰められ、クロムは仕方なく道端の木箱に入って隠れた。



 しかし、クロムにとって今気がかりなのは、元から木箱に入っていた物の方だった。

 それは生きていたのだ。




 大きな布に包まれていて何の生き物までかは分からなかったが、狭い木箱の中で少しだけ体温が伝わってくる。

 眠っているのか、クロムが入ってきても反応は無かった。が、急いで隠れたために少し揺れたので、いつ目覚めてもおかしくない。



(早く行ってくれないかな、アイツ……)



 外では微かに靴音が聞こえる。恐らくあの人買いだろう。 なかなかしつこく、靴音が行ったかと思うとまた帰ってくる。




 隠れているのが分かっているのか、いないのか。クロムもいい加減焦れてきた時だ。

 突然、首根っこを捕まれて、木箱の内側に押しつけられた。



「……っ!!」



 思わず声が出そうになり、慌てて抑える。

 その時、弾みで木箱の横板が外れ、クロムの体は外に投げ出された。



「うわっ……と、何だ!?」



 急いで起き上がり、木箱に向き直る。



 壊れた木箱からも人影が立ち上がり、クロムを正面から見据えていた。

 布が体に巻き付いたままで姿が分かりづらいが、木箱で寝ていたのはこの人物のようだ。


 邪魔をしてしまったのは申し訳なく思うが、今は人買いに追われている。


 早く逃げなくては、とクロムが走り出そうとした矢先、その人買いに後ろを取られていた。




 気づいた時には真っ先に腕を取られ、後ろで抑えられた。素早く縛られ、もがいてもほどけない。




「全く……大人しくしたらどうです。貴方に勝ちは無かったんですから。

 貴方の身柄は、この人買いのラジが頂きました」



 後ろで人買いが余裕たっぷりに言ってくる。




「くっそ……!!」




 悔しい。




 仲間が捕まって、助けに行こうとして不意討ちで自分も捕まるだなんて、我ながら間抜け過ぎる。「良いじゃあないですか、お仲間にも会えることですし、ねぇ!

 と、そこの貴方、獲物も手に入ったので失礼します。ご迷惑お掛けしました」



 そう言って人買いがクロムを引いて小路を出ようとした時、




「ふうん?じゃああんたはあたしの獲物だ、ラジさん」



 そう言うが早いが、木箱で寝ていた女が人買いに飛び掛かり、鳩尾に拳を叩き込んだ。

 人買いがたまらず倒れた隙に、女は人買いを縛り上げ、その姿勢のまま人買いに尋問を始める。



「はい、捕まえた。

 ところで、次のアンタたちの“会合”の場所、教えてくれないかな?」

「ッ!誰が……ぐっ!?」

「んー?何だって?

 あのさ、…………。」

……



「ほい、お待たせ」


 尋問も終わり、女が放ったらかしになっていたクロムの縄を解いてくれた。



 クロムが礼を言った後に軽く自己紹介をすると、相手も返してくれた。





 彼女は名前をニトロと言い、賞金稼ぎをして旅をしているらしい。



 さっきの人買いを捕まえたのも、彼に情報を吐かせて仲間の連中を捕まえる為で、彼自身は大したことの無い小物で、捕まえるのも下手なのだそうだ。

 最後の部分を聞いてクロムは軽く落ち込んだ。




「がっかりしてる所悪いけどさ、帰るなら早くしなよ。

 あたしも今夜は忙しくなるから、のんびりしてられないんだ」

「……?それってもしかして!」


 ニトロはさっきまで、あの人買いに何かを聞いていた。



「そ。ああ、アイツ連れて来てくれたのは感謝するよ。だからクロム、あんたを助けたんだ。

 あんまり気を落とすんじゃないよ。それじゃあね……」



 偶然ではあるが、やっと手掛かりが掴めた。確かに、落ち込んでいる場合ではない。




「待って!おれにも“会合”の場所を教えて!」

「……へ?」

「仲間がこの街の人買いに捕まってるんだ。

 今のところ一人だけの仲間で、助けに行きたい。頼む!」



 知り合って日は浅いが、自分に行動を合わせてくれた仲間だ。それに、以前助けて貰った借りもある。


 その思いが伝わったかどうかは分からないが、ニトロは、



「……この裏通りの廃教会。連中の内の一人の根城なんだってさ」



 と、呟くように言った。



「……!」

「ただし!この際何でも良いから武器を持て!丸腰とかナメてるから!」

「う、はい……」



 確かにその通りだった。

 危険な場所に踏み込む以上、丸腰では心許ない。



「ま、見つからないのが一番だけど、見張りとか魔物とかも居るからねー。

 あとは……」





(えっと、武器と軽めの防具、薬に……)


 ニトロと一旦別れ、クロムは表通りに戻る。

(思えば本格的に戦うのは初めてだ……)



 バルを助けようと思った時に、なんとなく戦いになるだろうとは思っていた。


 しかし、今こうして準備に向かう中、クロムは小さく不安を感じていた。


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