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ガロン島〜二人目〜

 澄みきった空に、朝日が優しく射し込み、それを水面が跳ね返してキラキラと光っている。



 夜が明けて、隠れ家を出たクロムたちは、小さな船に乗って海に出ていた。


 バルたち兄妹の家は、ナケシの街――クロムと兄妹が出会った街――の港からはっきり見えるほどの近さにある、メグニル諸島の島の一つであるガロン島にあるという。


 道のりは一時間とかからないようなものだったが、それでもクロムにとっては心の弾む体験だった。


 海鳥の鳴き声、心地よい波の揺れ、穏やかな潮風、そして何より自由であると実感できる解放感。


「やっぱりこうじゃなくっちゃあなぁ……」

 思わず独り言が漏れる。


「この辺は海も穏やかだからな。海路での交易が発達していて、本来は平和なところなんだけどな」


 独り言を聞きつけたバルが帆を操りながら説明してくれる。



 諸島と大陸を繋ぐのがナケシの街で、多くの富が集まるが、奴隷や禁制品など大都市特有の問題も多いという。



「まあその辺はよく分かっているよなー、お前は」


 ここの海は平和なのか……とか、どこにでも問題はあるんだな、とか、にしても意地悪な言い方だ、とか、色々言いたいことはあったが、


「もう着くよ!準備して!」


バルのハフナというそうだのその一声で話は終わりとなった。




 桟橋に船を停め、少し歩くと程なく小さな家が見えてきた。

 この島の家はヒノモトの家によく似ているが、雰囲気が少し違う。



「ただいまー」


 一番にハフナが入っていく。数日帰ってないだろうに、まるで散歩から帰ってきたような軽い調子だ。

 クロムがそう思っていると、バルが、

「お前も来い」

とだけ言って引っ張ってきた。

 家の中では、2、3人の小さな子供に囲まれて、やっと安心したような笑みを見せるハフナと、それらを嬉しそうに抱き抱える母親らしき女性がいた。




「……で、なんとか帰って来れました。心配かけてごめんなさい」 ハフナが母親に説明と謝りを終えると、母親は少し間を置いて、


「ハフナ、あんた勝手に一人で島を……まあ、叱るのは後にするよ」

 と言い、それを聞いたハフナが既に小さくなってしまうと、


「バル、あんたが返して来てくれるなんてね。でも、何も言わずに家を飛び出したの、まだ怒ってるからね」

 その言葉で兄も「あ〜……」と言って小さくなってしまった。



 でも、

「良く帰って来てくれたよ……二人とも……」


兄妹の母親は、とても嬉しそうにしていた。




 “市場”での行動は感情に任せてやったことだが、やっぱりあの時、思いきってよかったと、今ではそう思っている。 余り大した事はできなかったが、結果、この家族を助けられたのだ。


 それにしても、母親か……


 クロムがぼんやり考えていると、兄妹の母親が

「ところでクロム君……だよね。君とバルはこの子を助けてくれたけど、君はこれからどうするつもりだい?」

 と聞いてきた。


 当ては無いが、家族は居ないも同然だし、人に会いたくて旅をしている、と答えた。


 母親は“居ないも同然”という表現に少し疑問を感じた様子だったが、向こうも察したのか、余り多くは聞いてこなかった。




 気がつくと、空は日が少し傾き始めていた。

 外に出ていたバルがそれに気づいて戻ってくるなり

「あー、お袋。 じゃあオレ、もう行くから」

 とだけ言って、荷物をまとめ始めた。


 おい、家出か何か知らないけど急ぎすぎじゃあないのか。

 クロムはそう言って止めたかったが、


「せめてちびたちの相手と庭の掃き掃除をしていけ」


 母親の方が早かった。




 バルが外で弟、妹たちに囲まれて面倒臭そうに遊んでいる間、クロムは大陸風の服を用意してもらいながら兄弟妹の母親の話を聞いていた。


 話によると、バルが家出した理由は家の負担になりたくないからだと言う。


「聞かなくても分かるよ。うちはちびが多いからね。あいつなりに考えたんだろうさ」 であるらしい。以外と家族思いだったのだろうか。



「それと、あいつが帰ってきたワケはコレもあると思うね」

 と言って見せられたのは弩だった。大陸ではクロスボウと呼ぶそうだ。


(武器か……おれも……)


 そうだ、武器で思い出したが、刀を取られてそのままだった。


 それを兄弟妹の母親に話すと、何でも良いから武器を持てと怒られてしまった。なんでも、大陸では平野に森林、洞窟、沼地や河川などに夜盗や、魔物という危険な生き物が出るらしい。


 とにかく危険なことは分かった。早いとこ何か得物を手に入れなくては。


――――――



 大陸のことを色々と教えてもらったし、服なども用意して貰った。これはいつか返そうと思いながら兄弟妹の母親に礼を言うと、ちょうどバルがクロスボウの所在を母親に聞いてきた。

 母親は今持っていると言ってバルにクロスボウを見せたが、渡そうとしない。


「なあそれ返してくれよ。この先要るんだ」

 渡さない。


「遊びじゃねぇんだってば、渡してくれよ」

 渡さない。


「わーった、謝るよ。勝手に家を出てって悪かった、だから・・・痛ぇ!」


 お母さんは座りながら、バルの脛に裏拳を打つ。ちょうどぶつけると痛い箇所だ。



「今さらそんなこと言っても遅い、言葉だけじゃもう何言ってもダメだね」 母親はきっぱりと言いきる。



「おまえにコレを渡しても良いけど、この子に付いて旅を助けてやるんだ。それなら、コレを渡す」



……えっ?


「……あー分かったよ。それだけで良いのか?」


 急な話だったが、バルは慌てることなく、面倒臭そうにではあるが頷いた。

 余程クロスボウが重要なのだろうか、それともこういうことに慣れているのだろうか。

 何となく話に置いて行かれている気分のクロムだったが、確かに仲間がいるのはありがたい。




 夕焼けの眩しい海に、一隻の小舟を浮かべてバルとクロムが乗り込み、静かに舟が動き出す。

 目指すは大陸、改めて旅の始まりである。

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