第1話:登校
四月は入学式の季節。
日差しもうららかな春のある日、二人の学生が道を歩いていた。
「今日からいよいよ高校生か。しかし今ひとつ実感が湧かないな」
一人は身長140cmくらい、幼さの残る顔に丸い眼鏡をかけていた。
「それはまだ高校に着いていないからですよ、兄さん」
もう一人は身長180cm以上で、人のよさそうな笑顔を浮かべていた。
この二人は双子の兄弟である。とてもそうは見えないが。
名前は兄が晶、弟は秋彦という。
「おまえのいう事は時々わからん」
小学生にしか見えない兄がつぶやく。
「はい? 何ですか兄さん」
高校の一年生には見えない弟が聞き返す。
「いや、まだ着かないのかと思ってな」
「もうすぐですよ、そこの角を曲がれば校門です」
そう言って秋彦が指を指した角、そのあたりから朝の喧騒が聞こえてくる。
「そうか、いよいよだな」
「高校生活の始まりですね」
二人が角を曲がると、そこにはパトカー数台と大勢の警官、その周りを野次馬が取り囲み校門の前に集まっていた。
生徒達の朝のざわめきを期待していた二人は、顔を見合わせた。
「何だこれは。道を間違えたか?」
「いえ、道は間違っていません。ここが私たちの高校です」
「何で警察が……機動隊までいるぞ」
「今日から警察学校になったんでしょうか」
「そんなバカな話が……」
二人が途方にくれていると、後ろの方から大きな声が聞こえてきた。振り返ると、ワイドショーのレポーターと思しき人物がカメラの前でがなりたてている。
「昨日、銀行を襲った強盗団がここ、私立今泉学園に逃げ込んだ模様です! 強盗団は拳銃や爆弾で武装して現在も立て篭もっている模様です! スタジオどうぞ!」
晶は肩をすくめた。
「これが俺たちの高校生活の始まりか?」
「派手ですね」
レポーターがまた大声を張り上げる。
「新しい情報が入ってきました! 校舎内にいた生徒の一人が強盗団の人質になっている模様です!」
「強盗団は校舎内に爆弾を仕掛けたといっているようです! それと人質解放の条件として、逃走用の飛行機を要求しています!」
レポーターの大声を聞きながら、二人は校舎を見上げてみる。
「入学式はどうなるんだろうな」
「明日に延期じゃないですか」
校舎を見上げていた晶が呟いた。
「せっかくだから、どんな学校か見て回るか」
「しかし中には入れそうも無いですよ」
「それならそれで周りをぐるっとまわってみようかと思ってな」
「なるほど、いいかもしれませんね」
二人は騒々しい校門前を離れて、学校の壁沿いに歩き出した。
校門前よりもましとは言え、マスコミ関係や野次馬はあちらこちらにいて落ち着かない。
春のうららかな日差しの下、二人は壁に沿ってのんびりと歩く。
「とりあえずなんだな、綺麗な学校だな」
「出来たばかりの校舎ですから」
「中に入るのが楽しみだな」
「今は強盗が入っていますね」
さらに5分ほど歩くと、マスコミも野次馬もいないところに出た。
「ふーん、この辺には誰もいないんだな」
「結構広い学校ですからね」
晶の眼鏡がきらりと光る。
「せっかくだから忍び込んでみるか?」
「というと、あちらの方のようにですか?」
そういう秋彦の指差す先を見ると、誰かが壁をよじ登っていた。
「そうそう、あんな感じで……って誰だ」
「さあ? 私達と同じ制服を着ていますからこの学校の生徒だと思いますが」
二人が見つめる中、よじ登っていた誰かは壁の向こうに消えていった。
「どうします? 兄さん」
「負けられんな」
晶はそう言うと、軽快な足取りで壁に向かって走りだした。
「うりゃっ」
掛け声と共にジャンプした晶は、三メートルはありそうな壁の上に手をかけると、羽の生えたような動きで壁の上に立った。
「さすが兄さん。ついでに私も引き上げてくれるとうれしいのですが」
秋彦は懐からロープを取り出して晶に向かって投げた。晶は受け取ったロープを下にたらす。
「お前も少しは体を鍛えたらどうだ」
「私の担当ではありませんし、鍛えた所で兄さんや姉さんの身体能力に追いつくのは無理です」
喋りながらたらされたロープを掴んだ秋彦。それを見た晶は、軽やかにロープを手繰り寄せる。見る見るうちに秋彦は壁の上までやって来た。
「さすがですね」
「ところでお前、今体重何キロだっけ?」
「75ですが」
「前より減ってるじゃないか。少しは鍛えて太れ」
壁の上で二人は校舎を眺めた。
朝の喧騒とは無縁の静けさに包まれた校舎。
災いは、まだ目を覚まさない。




