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十四  航空自衛隊、スクランブル

(世界は、それ自体が大きな機械じかけである。国家はその世界たる機械を構成し、そして動かすひとつの部品なのだ)

(国家という歯車が精緻に噛み合い、人間の世界は回っている)

(いわゆる大国は大きな歯車となって、その駆動はほかの多くの歯車に影響をあたえる。大きな歯車が止まってしまえば、ほかの歯車たちも動くことはできない)

(アメリカという歯車が、いまおそるべき難局に直面し、錆びて軋り声をあげている。アメリカほどの巨大な歯車が狂えば、それはほかのほとんどの歯車にとっても無関係ではない。回転が滞る歯車もあれば、止まる歯車もある)

(アメリカの在外米軍撤退、本土の潰滅的な被害という、歴史的な転換期。歯車は、これまでにない回りかたをみせる。それによって生じたゆがみが、全世界の国々にあらゆる形で波及している)

(そのゆがみが、たとえば日本だけを見逃してくれるなどということはないのだ)


  ◇


 始まりは、一件のスクランブル・オーダーだった。中部地方、裏日本を眺む能登半島からみて、北北西の方角から日本海を南下してくる航空機を、新潟県佐渡島のレーダーサイトと、能登半島の先端に配備された輪島航空警戒管制部隊のレーダーサイトが発見。日本海の護り手たる石川県小松基地に緊急発進が発令された。

「彼我不明機、わが国の防空識別圏に侵入。なおも南進中。機体は複数。現在十二機までを確認」

「フライトスケジュールに該当機なし」

 小松基地のアラートハンガーから出てきたF-15J二機が滑走路に進入。編隊長機、僚機の順で発進していく。その素早さは、スクランブル(先を争う)の言葉のとおりに疾風迅雷。アフターバーナー全開でいち早く高度をかせぎ、アンノウンのいる空域へ急行する。

 空自では、戦闘機は二機編隊が最小単位として出撃がおこなわれるが、スクランブル発進においては基本的に要撃機の数がアンノウンの数を上回ることと定められている。よって、たったいま発進した二機にくわえ、予備に待機していた二機、そしてこの日アラート勤務についていない二機編隊五個までもが追加で空に上げられた。とてつもない大所帯である。

 基地を離陸した要撃機を誘導する中部航空方面隊司令部の防空指令所(DC)では、レーダーサイトからの情報をもとにアンノウンの位置を捕捉していた。

「小松よりシクリード1、シクリード2緊急発進。後続も発進しています。現在、輪島航空警戒管制部隊によりレーダー誘導中」

「警戒航空隊より入電。AWACS発進を確認」

 薄暗い指令所の正面には、壁そのものといってもよい大型のモニターが鎮座している。モニターには、能登半島を中心に据えた、中部航空方面隊の管轄空域の地図。半島の付け根に位置する小松基地から上がった十四機の要撃機が緑のシンボルマークとして表示され、日本海へ北上している。それに対し、『Unknown』と記されたオレンジのシンボルマークが十二、針路を南東にとってまっすぐ日本列島へむけ南下してきている。彼我不明機アンノウンがこのまま変針せずに直進をつづければ、領空侵犯されるのはだれの目にもあきらかだ。

 司令の蒼鷹空将補がうめく。

「定期便ではないな。機種はわかるか」

 レーダースコープを見つめていた隊員が首をふった。

「いまだ判然としません。かろうじて、いずれも機体のサイズが旅客機大であること、四発のプロペラを装備していることがおぼろげにわかるくらいです」

 レーダー波の反射波の情報から目標の大きさや垂直尾翼の数、あるいはエンジンのファンブレードの数などを計測することで、レーダー上でもある程度の機種判別はつく。しかし、距離が遠い場合、それだけ反射波が減衰しているため、鮮明な像が得られない。

「赤熊か? 方角は合わんでもない」

 蒼鷹の呟きが管制所に落ちる。

 Tu-95“ベア”は、ロシアがソ連だったころに爆撃機の名門ツポレフ設計局が開発し、そしていまだに現役の長距離戦略爆撃機だ。ターボプロップ・エンジン、つまりプロペラで飛ぶ、一見して時代錯誤な飛行機だが、搭載量や航続距離など、その性能は爆撃機としては現代でもじゅうぶん第一線級である。

 また、Tu-95とそれを洋上哨戒と対潜哨戒用に改造したTu-142は、日本の領空侵犯措置における、いわば常連でもある。

 蒼鷹らが彼我不明機群を“ベア”の編隊と憶測するにじゅうぶんな材料だった。“ベア”は二重反転プロペラを四つもっているので実質八発のプロペラをもっているのだが、やはり距離の問題でレーダー波が詳細な機影を捉えられず、四発プロペラのように見えているだけなのだろうと考えていたのである。いずれにせよ、直接人間の目でたしかめるに越したことはない。

 やはり、スクランブル発進させた要撃機に目視確認させるしかない。

「しかし、数が多い」

 スクランブル発進そのものはけっして珍しいことではない。ただし、これまで空自がスクランブルで相手にしてきた目標は、だいたいはロシアあるいは中国の電子偵察機が公海と領空の境界線を一機で飛行している場合が過半で、そうでなければ航路を見失って迷い込んできたただの民間機というのが相場であった。これほどの大編隊がいちどに押し寄せてくるなど、前例のないことであった。

「警告には応じたか?」

「いえ。国際緊急周波数で呼びかけをつづけていますが、どの機もまったく応答しません」

「統合幕僚監部に情報を送れ。小松の全パイロットに通達。コクピット・スタンバイ。百里にも連絡しろ。応援が必要になるかもしれん」

 ねばつく汗を拭いながら、司令ははやる動悸をおさえつけた。不安と緊張が交感神経の興奮をあおる。とはいえ、彼が心配だったのは、じぶんの在任期間中にとんだ問題が起こって経歴に傷がつきはしまいかといったようなことであり、とてもその後に襲いくるかもしれない憂慮すべき事態に対し、先んじて懸念をいだいていたわけではない。

 それは責められる態度ではなかった。平和な国では平和な国に適応できた人間が身を立てる。蒼鷹空将補はただ自衛隊という官僚組織に順応しただけであり、その立場になればだれでも彼のような考え方になる。

 だが、思考の方向性はちがえど、DCの面々は心底においてみな同じことを考えていた。それは、この国籍不明機たちも、中露のいつものようなただの示威行動の一環であればいいのだが、というものであった。

 F-15J十四機とアンノウンとの距離が刻々と縮まっていく。反航のかたちなので接敵までもうすぐのはずだ。

「レーダーサイトと要撃機とのレーダーリンクをカット。要撃機のFCSレーダーの使用を許可する。無線封鎖を解除せよ」

 ここまで近づければ、音声無線を傍受されても戦闘機のレーダーを逆探知されても問題はすくない。管制官ごしの蒼鷹の命をうけたF-15Jがしたがう。

「DC、シクリード1。自機のレーダー使用を開始する」

 封鎖を解かれたF-15Jパイロットからの無線通信が指令所に響く。

「シクリード1、まもなく会敵するはずだ。ターゲットを目視にて確認せよ」

 管制官の指示にシクリード1パイロットが「了解」と返す。

「ボギーズ・タリホー。12オクロック、ロー!」

 そう言ったのはシクリード2のパイロットだ。続いてシクリード1も発見できたらしい。

「DC。アンノウンは全機、同型だ。四発プロペラ……大型機」

 シクリード1の通信に蒼鷹が身を乗り出す。

「ベアーズか?」

 一瞬の、不自然な沈黙。

「ターゲットとすれちがう。旋回して後方より接近をこころみる」

 シクリード1パイロットの声には、まるで信じられないものを見たとでもいうような興奮と焦燥があった。

 主モニタースクリーンで、緑の三角形ふたつが十二のオレンジの三角形と交わる。緑の三角形が反転し、オレンジの群れのうしろから追いかける。

「確認した」シクリード1が二番機に尋ねる。「ディスカス、おまえにも同じものが見えてるか? それともおれの目が節穴なのか?」

 ディスカスというのはシクリード二番機パイロットのTACネームだ。ディスカスが応じる。

「オスカー、こちらディスカス。あんたの目は節穴じゃない。たぶん、おれに見えているのもあんたのといっしょだ」

 交わされる謎の会話に蒼鷹ががまんしきれず割り込む。

「シクリード・フライト、ターゲットはなんなんだ?」

 オスカーが大きく息を吐く音が無線で届けられる。呼吸をととのえている。

 シクリード1パイロットが意を決したように報告した。

「こちらシクリード1。ターゲットを肉眼で確認。外見的特徴から、ターゲットの機種は、B-29と思われる。指示をねがう」

 瞬間、DCは水を打ったような静謐に支配された。だれもが、要撃機から寄せられた報告の内容を理解できないでいる。B-29……? B-29とは、あのB-29か?……

 冷静さを失わなかった管制官がヘッドセットのマイクに問いかける。

「国籍マークは確認できるか」

 蒼鷹をはじめとした隊員らはその管制官のことばでわれに返ったように職務を再開した。

「これより接近してみる。ディスカス、おれが行く。援護してくれ」

「ウィルコ」

 ディスプレイ上でシクリード1を表すシンボルが、国籍不明機群に肉薄する。両者の間隔は二、三百メートルもない。やや離れたところでシクリード2の三角形、そして残りの十二機の三角形が光っている。モニターの上では記号の集合体でしかないが、じっさいの空では最悪の場合、攻撃をうける危険さえも背負いながらシクリード1がアンノウンのすぐそばにまでにじり寄っている。それくらい近づかなければ国籍マークは確認できない。

「中国か、ロシアか。まさか韓国か? しかしどれも、いや、世界のどの国もいまどきB-29を配備などしていないはずだぞ。なにがどうなってるんだ」

 蒼鷹の疑問が、照明をおさえたDCの床をクサリヘビのように這った。

 やがてシクリード1パイロットが無線を通じて報告した。その内容が信じられず、管制官は思わず問い返した。

「シクリード1、もう一度たのむ。現在接敵中のアンノウンの国籍はなにか」

 指令所のスピーカーから、オスカーの緊張で上ずった声が絞りだされた。

「アンノウンの国籍マークは、青と赤の二重丸の中に赤い星。目標は、北朝鮮空軍機です。……」


  ◇


「ボーイングスキー?」

 茨城県は百里基地のアラートハンガー待機所で、深刻な面持ちで訪れた長良2佐の、ともすれば妄言かともとれる言葉を聞いて、浅間は無意識的に反駁した。

 荘重に頷いた長良2佐は、アラート待機のために詰めているポリプテルス・フライトの四人、すなわち浅間、金本、早蕨さわらび占守しゅむしゅを順に見ながら、

「当初はB-29とも思われたが、北の国籍マークからTu-4と判明した。小松から十四機が要撃にあたっているが、無線にも応答せず変針するようすもない。DCの見立てでは、もうあと一時間で領空に侵入する」

 と噛みしめるようにいった。

 浅間と金本は顔を見合わせた。

 ツポレフTu-4“ブル”は、かつてスターリンの時代にソ連がアメリカのボーイングB-29をまるごとコピーして開発した戦略爆撃機だ。この機の製造によって戦略爆撃機の設計ノウハウを獲得したソ連そしてロシアは、のちにTu-95“ベア”やTu-160“ブラックジャック”といった高性能な長距離爆撃機を開発していく。


 その意味ではTu-4は銘機といえなくもないが、どちらかといえば技術開発のための踏み台としての意味合いが強く、Tu-4そのものの戦力としての能力は当時でさえ時代遅れとなっており、少数が生産されたのみで、それも早々に退役させられてしまった。いまではロシアや中国の航空博物館で見世物にされている程度である。

 ロシアはアメリカの兵器をよくまねするが、Tu-4はまねどころではない。アメリカのB-1ランサーと、それをまねてロシアが開発したTu-160“ブラックジャック”を見間違える空自パイロットはいないが、Tu-4はむかしソ連領に不時着したB-29を解体し、部品のひとつひとつにいたるまで模造してつくられたものなので、外見はほぼ瓜二つである。小松の要撃機がB-29だと思ってしまってもむりはない。

 問題は、いままさに領空に接近してきているTu-4編隊が、こともあろうに北朝鮮所属であるということだ。北朝鮮がTu-4を配備しているという話は聞いたことがないが、拉致問題に代表されるようにすべてが嘘のかたまりの国だけに表面化している情報はあてにできない。ソヴィエトロシア、あるいは中国から供与されていたのかもしれない。

「高射部隊はどうなっているんですか」

 早蕨が長良2佐に尋ねた。高射部隊はペトリオット対空ミサイルを運用しており、空からの脅威に対する高く険しい城壁として日本を守っている。

 長良2佐は首を横に振った。

「防衛省や首相官邸に申し入れはしているが、なんの音沙汰もない。情報伝達がうまくいっていない」

 長良2佐の口調には苛立たしさがあらわれていた。

 日本は戦前から情報にうとい国だ。阪神大震災のときには、首相に正式に地震の一報が入るまで十時間も要した。もちろんそのころには各種メディアによって烈震のようすが報道されていた。霞ヶ関の連絡網はテレビよりも遅い。今回もまた、伝えられるべき情報がどこかで止まってしまっているのだろう。「そんなのっぴきならない情報を官邸に上げて、もし間違いだったら、わたしの立場はどうなるんだ」とわめいている官僚がいるのかもしれない。

「PAC-3は現場の判断で発射できるのでは?」

 浅間の問いにも、長良2佐の顔は晴れない。

「いま来てるのが弾道弾なら、それも可能だ。だが目標は飛行機だ。こちらを攻撃する意図があるかどうかもわからない。敵性と判断されるまでは、こちらから攻撃することはできない」

 専守防衛、かくあるべし、というわけだ。

「おまえらにも要撃の応援がかかるかもしれん」

「おれたちにですか?」

 浅間が疑念をいだくのもとうぜんだ。おなじ中部地方の空を守っているとはいっても、小松は日本海側を、百里は太平洋側と役割がきまっている。目標は日本海から来ているのだ。百里基地から要撃に上がれば、わざわざ日本列島をまたいでいかなければならない。

 しかし、長良の表情には強い懸念があった。

「連中が、日本海で引き返してくれればその必要はないがな」

 浅間は見えない衝撃をうけた気がした。たしかに、ターゲットが日本海にいるうちは百里の飛行隊に出番はないだろう。しかし、もしそのまま北朝鮮空軍の爆撃機が本土領空に侵入して、あまつさえ首都圏をめざすなどという事態になったら……。そのときは、まさに首都圏唯一の戦闘機部隊たる百里の飛行隊しか、制空権確保の担い手がいない。

 しかも、もともと百里にはイーグルを装備する飛行隊として、浅間らの所属する第307飛行隊ともうひとつ、第205飛行隊が配備されていたが、第205飛行隊のほうは二〇〇九年に那覇へ異動となっている。中国の近年いちじるしい軍備増強と航空兵力の近代化に対し、沖縄にはベトナム戦争時代に原型が空を飛んだF-4EJ改ファントムの飛行隊しかなく、防衛力の維持のため、百里のF-15J飛行隊と配置転換となったのだ。だから、いま百里に常時配備されているイーグル・スコードロンは、第307飛行隊の十八人しかない。

「在日米軍がいない以上、われわれ自衛隊だけでなんとかしなければならない。心してかかれ」

 厳しい顔でそう言って、長良2佐は待機所を辞していった。アグレッサー部隊たる飛行教導隊はその任務上、アラート勤務にはつかない。要撃に上がれないじぶんたちのかわりに、空を頼む、と浅間たちに言外に伝えに来たのだろう。浅間は無言で金本と早蕨と占守に頷き、三人もまた頷きかえして、その意思を共有した。

 テーブルに地図を広げ、四人で万一のときにそなえ航路などの打ち合わせをする。どたどたと半長靴が走る音に浅間が顔を上げると、待機所の扉がおもいきり開け放たれた。築城から出張してきているF-2パイロットだった。その顔は緊張にゆがんでいた。

「DCから連絡が来ました。北のボーイングスキーの野郎が領空内に入ってきたそうです」

 彼は唾を飛ばしながら九州訛りでそれだけまくしたてると、一陣の嵐のように去っていった。

 しんかんたる沈黙が待機所に堆積した。

 浅間は、ふと、この一連の事象はすべてじぶんを嵌めるための悪い冗談なのではないかと思い始めた。よりにもよって北朝鮮の、それも実際に飛べるかどうかもあやしい骨董品級の爆撃機が昼日中から領空侵犯してくるなど……常識的にかんがえて、ありえないことであった。そんな奇天烈な状況をみんなででっち上げて、浅間が、あるいはポリプテルス隊がどんな反応をするかを影で覗き見て腹をかかえているのではないか……。

 それならどれだけありがたいことか。浅間は思った。これがよく練り上げられたどっきりなら、深刻な顔をさげているじぶんたちが仲間の物笑いの種にされるだけですむ。しかし、冗談でもなんでもないとしたら? その場合、もっとも憂慮しなければならない事態が、すぐ目の前に迫ってきていることを意味する。これまで何十年もその危険性が指摘されながら、必死になって否定してきたおそるべき可能性。それが具現化しようとしている。

 そのとき、待機所に火災報知器のような警報がけたたましく鳴り響いた。

「そら来たァ!」

 浅間はソファとテーブルを飛び越し、金本も弾かれたように猛然と走って、待機所の両側にふたつずつ併設されたアラートハンガーに出る。

 アラートハンガーでは、スクランブル発進用に空対空ミサイルAIM-9Lサイドワインダー二発と、胴体下に増槽一本を装備したF-15Jが、万全の用意をしてその時を待っていた。機体の周囲では整備員らがスクランブル発進にむけパイロット同様に鞅掌している。帽子をかぶった整備員が翼下のAIM-9Lから安全ピンを抜いているそばで、浅間がはしごをかけ上がり、コクピットに飛び乗る。ハーネスなどの装具を装着し、ヘルメットの無線コードや酸素マスクのホース二本をコクピット内の機械に連結。耐Gスーツのホースもつなぎ、シートベルトを締めて自身を座席に固定。はしごが取り外され、キャノピーが閉められてから、エンジンを始動する。動力とともに電子機器類が生き返り、各種電子音や女性の声の機内アナウンスによる大合唱の混沌のなか、外の機付長きづきちょうが浅間に親指を立て、発進準備が完了したことをつたえる。アイドル推力(惰性回転。アイドリング)に入れたエンジンの回転が安定しはじめたのを確認して、浅間もコクピットから了解との意を乗せて親指を立てかえす。

 戦闘機をハンガーから出すときは通常は牽引車トーイングカーで引っ張り出すが、スクランブル発進のさいは戦闘機が自力でアウトハンガーする。浅間は早急に機体をハンガーから誘導路へと走行させた。

 ハンガーから出たF-15Jとそれに乗る浅間とを、はるかかなたからあぐらを組んで地上を見下ろす入道雲と、透けるような水色に霞んだ青空がむかえる。真夏の午前の燦々たる陽光がまぶしい。

 アラートハンガーはひとつにつき一機の戦闘機が格納されている。浅間が乗機をアウトハンガーさせるのとほぼ同時に、金本の機もアラートハンガーから出てきた。スクランブルは編隊長機が先と決まっている。浅間が先行して誘導路タキシーウェイをタキシングした。

 滑走路は二機のために空けられている。スクランブル発進はすべてにおいて優先される。

 乗機を誘導路から滑走路に進入、離陸位置につく。左右のフットペダルと操縦桿を使い、二枚ある垂直尾翼の方向舵と、主翼後端の補助翼、昇降舵をかねる水平安定板を極限まで動かして、不調な箇所のないことをたしかめる。油圧アクチュエータも操縦増強システム(自動車でいえばパワーステアリングのようなもの)も異常なし。F-15の高い機動性に寄与している、補助翼と方向舵を結んだエルロン・ラダー連結(ARI)システムとピッチ・ロール・チャンネル結合装置(PRCA)も正常。きょうの機体もご機嫌だ。

 手早く、そして確実に確認をすませ、スロットルレバーを前に倒してエンジンを最大推力までふかせる。アフターバーナーに点火、ブレーキを解除すると、機体は舗装された滑走路上を辷るように動きだした。

 旅客機の離陸とはくらべものにならない急加速で背中がシートに押しつけられる。その圧力さえ心地いい。

 ある程度まで気速が達したとき、それまでタイヤごしにコクピットへ伝達されていた滑走路の感触と振動が唐突に消え失せ、機体がふわりと空中に浮かぶ。地上のくびきから解き放たれた余韻にひたるひまもなく、脚を収納した浅間は水平尾翼スタビレーターを動かしてさらに機首をあげ、アフターバーナー全開のハイレートクライムで蒼天をめざした。

 上昇しながらバックミラーを一瞥すると、金本のF-15Jもつづけて離陸してきているのが見えた。

 緊急発進発令から一機めの離陸まで、わずか四分の早業であった。

 高度三万二五〇〇フィートで二機は編隊を組み、地上レーダー施設の誘導にしたがって飛行した。

 速度は音速一歩手前のマッハ〇・九五。衝撃波こそ出ていないが、エンジンから発せられる爆音はさぞ地上のひとびとを驚かせていることだろう。

 眼下には、白雲まじる紺碧の空。青のなかに雲がなびいている風景は、波の打ち寄せる海のようでもあった。

 上を見れば、そこは雲さえもない蒼き天空。極限まで純化された、抜けるような深いブルーの空は果てがなく、じっと見ていると意識ごと吸い込まれそうでさえある。

 強烈な太陽光が、高空の薄い大気を貫いてキャノピーごしに降り注ぐ。まばゆい日光がじぶんの睫毛に反射して視界を虹いろに染める。浅間はヘルメットのバイザーを下ろした。


 戦闘機とレーダーサイトなどを全国規模で統括・管制する空自のJADGEジャッジシステムと連動しているディスプレイに気を払いながら、周囲の空を見張る。

 はるか下には、峻険きわまる劔岳や有明山などを擁する飛騨山脈が雄大な英姿を横たえている。高高度で北西に針路をとっているので、山々の先には富山県、能登半島、そして日本海も一望できるはずだが、大気に濾過された長い波長の光、つまり青色のなかに溶け込んでいて、そこまでは肉眼では見られない。それでも水平線は見える。ふしぎなものだ。その水平線の付近にとくに視線をそそぐ。地球はまるいので、相手が水平線のむこうからあらわれるときは、たとえ相手のほうが高度が低くても水平線のすこし上からでてくるからだ。

 首をひねって背後を確認すると、浅間たちにやや遅れるかたちで、早蕨、占守の二機も追いついてきていた。どうやら浅間と金本のペアだけでなく、のこりのふたりにまでスクランブルが発令されたようだ。基地にはつねに緊急発進の用意をととのえた戦闘機とパイロットが待機していなければならない。早蕨と占守も上がってきたということは、またほかのだれかがアラート待機につかなければならないことを意味する。機材と人のやりくりはそう都合よくいくものではないのにである。いかに防空指令所が事態を重くみているかがこれで知れる。

 傍受を警戒して封鎖されていた無線が予告もなくつながる。

「ポリプテルス1、DC。音声無線封鎖を解除。火器管制レーダー使用を許可する。自己誘導に移行せよ」

 抑揚のない管制官の通信。だがその声音の裏には、混乱と恐怖を、専門の教育をうけた防空指令所隊員としての理性とプロ意識でなんとか抑え込んでいるという葛藤のようなものが含有されていた。あくまでも冷静さを失うまいとするその姿勢に、浅間は好感をもった。

「DC、ポリプテルス1。了解。自機のレーダーを起動する」

 ほかの三機も同様の指示をうけているのだろう。つぎつぎに戦闘機に搭載のFCSレーダーを発信しはじめた。

 F-15Jが機首レドーム内に収納している大型のパルス・ドップラー・レーダーAN/APG-63は、長距離サーチ・モードの場合では、戦闘機ほどの大きさの目標でも八〇浬(一五〇キロメートル)先で発見することができる。レーダーを起動すると、計器板左側の変形四角形のレーダー・ディスプレイに、オレンジのシンボルが十二個、その左右と後方を取り囲んでいる緑の十四のシンボルが映った。オレンジのシンボルこそは本日の招かれざる客。味方機がなんとか針路を変えさせようとしているのだろうが、むしろ護衛しているようにさえ見える。

 レーダーやHUDも視界に収めつつキャノピーのむこうに目をこらす。彼我をへだてる距離は十八キロ。この好天ならじゅうぶん視認できるはずだ。

 水平線のわずか上で、なにかが見えた気がした。まばたきせずに目玉に神経を集中させる。まばたきすれば焦点を合わせ直さなければならないので、目標を見失ってしまう。

 海よりも濃いブルーの世界で、ゴマ粒よりも小さいものがぽつ、ぽつ、と現れはじめた。いちど見えると、なにかそれまで隠れていたのがあきらめて出てくるかのようにわっと見えはじめる。浅間はスロットル・レバーの上にある無線機の操作パネルを指で操作した。

「タリホー。ボギーズ、12オクロック、18エンジェル」

 目を離さないまま列機にターゲット発見を知らせる。黒い点だったのが、近づいてくるにつれて横に線を伸ばす。主翼だ。ここからでも大きいことがわかる。小松の味方機とおぼしき機影はまだゴマ粒のままだ。

「各機、スプリットSで追尾するぞ。おれの合図で右ロールだ」

 浅間たちと計二十六機の飛行機は、有峰湖上空にさしかかったあたりで上下に重なった。高度差は、浅間たちが三万二五〇〇とターゲットが一万八〇〇〇の一万四五〇〇フィート(四三五〇メートル)。じゅうぶんだ。

「レディ……」浅間の指示が飛ぶ。「ナウッ!」

 号令で四機がまったく同じ動作で右にロール(横転)、背面飛行状態になり、水平尾翼が動いて機首を引き上げる。

 スティック(操縦桿)を引く浅間のからだにGが重りとなってのしかかる。流体である血液が下半身へと引っ張られ、文字通り血の気が引く。耐Gスーツが作動、圧搾空気を送り込んで下肢をしめつけ、上半身、とくに脳が虚血状態におちいるのを防ぐ。Gメーターをちらと見ると、針が時計でいうところの十二時前を指していた。五Gだ。膝の上に見えない象が乗っかっている。腹筋に力をこめる。奥歯を噛みしめる。この程度のGで音をあげるようなら、ハイパワーなイーグルは乗りこなせない。

 計器板中央の姿勢指示器と水平状況指示器が、機体が水平にちかづいていることをしらせた。

 そして機首が水平線を指したところでループ状態を解除。もとの水平飛行にうつる。

 針路が北西だったのが南東と百八十度、逆になっている。高度を下げて進行方向を変換するスプリットSは戦闘機の基本的な機動だ。

 右計器板のいちばん内側に位置している高度計では、現在高度は二万七二〇〇フィート。五千三百(一六〇〇メートル)使ったことになる。それでもターゲットより高度はまだまだ余裕がある。われながら完璧だ。

 左右をみると三機とも編隊を崩さずについてきている。

 よし、と内心つぶやいた浅間は、音速を超えて衝撃波を出してしまわないよう推力を調節しながら、ゆるやかなダイブ飛行でターゲットの後方へむかった。

 ターゲットと、それに追随するF-15Jたちは、二三〇ノット(時速四〇〇キロ少々)という、なんとものんびりした速さ、いや遅さで飛んでいた。飛騨山脈を通り越し、いまは長野県上空だ。浅間は相対的にゆっくりとしんがりについた。

「百里の第307飛行隊、ポリプテルス・フライトだ。支援に来た。とはいっても、見るだけしかできないんだが」

 小松のF-15Jたちに声をかけると、

「おお、あのポリプテルスか。こちらは第310飛行隊、シクリード・フライトだ。オスカーと呼んでくれ。来てくれて感謝する。機体鑑賞しかできないのはわれわれも同じだ」

 と返答があった。一機のイーグルが機体を軽く左右に振っている。あれがオスカーの機体なのだろう。二枚の垂直尾翼に第310飛行隊のトレードマークたる龍が描かれている。しかも彼の乗機のエンブレムは、初夏の翠巒すいらんが姿を変えたような緑いろの龍に、でんでん太鼓をもった頑是ない幼子が乗っているというものだった。いまにも市原悦子と常田富士男の独特なナレーションが始まりそうだ。

「で、やっこさんはどんなだ。相変わらずフルシカトか?」

「イエス。韓国語、英語、中国語、はてはロシア語までためしてみたが、まったく反応がない。なめられてる」

「警告射撃は?」

「海上で何度も。しかしそれでもだめだ。おまけに領空侵犯後は、誤射の危険性もあるため射撃の許可さえおりない」

 オスカーの口調には歯ぎしりの音まで聞こえてきそうな悔しさが滲んでいた。機関砲の砲弾とていつかは重力にひかれて落ちる。そのとき、地上の民家や人の頭にでも当たる可能性がないとはいえない。可能性がある以上、司令官の立場にある者にその許可は出せまい。双肩にかかる責任は地球よりも重い。浅間の溜め息も、また重い。

「面倒だ。墜としちゃおう」

「本気かポリプテルス1」

「ポリプテルス1、こちらDC。そのような許可は出ていない。別命あるまで発砲は禁ずる」

「冗談だよ、冗談。百億の飛行機に乗ってできるのが見守ることだけとはな。涙がちょちょぎれるよ、まったく」

 わざとらしくため息をついた浅間は、推力をやや強めて前に出て、編隊の左側面に占位した。もともと武力行使ができないことは百も承知している。

 日本人にとってはあらゆる意味で馴染みの深い大型機群が、みごとなV字編隊で巡航していた。

「ほんとうにそっくりなんだな……」

 全幅四十メートルをこえる長大な直線翼に四発のプロペラをかかえ、機首は鯨の頭部のように丸っこい。まさに見た目はB-29そのものだ。以前、日米共同訓練のためにアメリカへ行ったさい、仕事ついでに訪れたスミソニアン航空宇宙博物館でエノラ・ゲイ号を見る機会があったが、塗装の色と国籍マーク以外はそれと完全に同一だ。そのほかに差異はない。Tu-4を見るのは浅間も初めてだが、たしかにこれではB-29にしか見えない。

 本家のB-29でさえ、現存して飛行できる実機といえば、大戦期の軍用機を保存している組織コメモラティブ・エアフォースが所有している一機が世界で唯一のものである。そのデッド・コピーが十機以上も編隊飛行しているなど、この目で見ても信じられない。

 Tu-4編隊の針路は1-1-9。浅間は地図を頭の中で思い浮かべた。このまま直進すればなにがあるのか。

 考えるまでもない。東京だ。すでに一団は長野の蓼科山を通りすぎている。針路を変えなければ、おおまかに埼玉県と神奈川県の県境をなぞって東京都にさしかかる。

「ビキール、まさかこいつら、東京大空襲ふたたび! ってなわけじゃないだろうな」

 金本が不吉な予言を舌に乗せる。ビキールとは、浅間のTACネームだ。無線を傍受されたさいに個人を特定されないために、パイロットは空の上では本名ではなくTACネームで互いを呼びあう。

「さあなローウェイ。前に北が発射したノドンだかテポドンだかみたいに、日本列島横断の旅でもしたいのかもな」

 浅間も金本のTACネームで返した。

「このご時世にボーイングスキーで暢気に遊覧飛行かよ。いい気なもんだぜ」

「ほんとにそう思うか? おれならあんなおじいちゃん飛行機になんか怖くて乗れねえよ。『飛べ! フェニックス』のほうがロマンがあるだけマシだ」

「あれだな、ビキール。こいつらはきっと、モノをだいじにしない日本に物持ちのよさの美徳を教えに来たんだよ。そうにちがいない」

「どちらかというとっていうか明らかに嫌がらせだろ、それは」

「ポリプテルス・フライト、DC。無駄な無線は控えろ。傍受される危険がある」

「傍受されているのなら万々歳だな。いちおうこっちの話を聞く気はあるってことだろ?」

 無駄話を重ねているうちにもTu-4の群れはどんどん東京に接近している。とうとうがまんしきれなくなったのか、早蕨が無線に割り込んだ。

「なんでぼくたちがこんな領空侵犯機のエスコートみたいな真似しなきゃならないんですか。無線で警告して、威嚇射撃もして、それでもかまわず領空侵犯までされてるんですから、もう撃墜したっていいでしょう。だれにも文句をいわれる筋合いはありません」

 早蕨のことばには、義憤しかなかった。一見正論に聞こえる早蕨の訴えに、むかしはおれにもこんな年頃の時代があったなと想念しながら浅間がなだめようとすると、

「パルマス、自衛隊法第八十四条、忘れたわけじゃないでしょ?」

 占守の凛とした声がヘッドセットに響いた。パルマスこと早蕨が、千載の恨事とでもいいたげに息を吐いた。空自パイロットともあろう者が、スクランブルの手順を定めた自衛隊法第八十四条を失念しているはずもない。

 ふつう、空軍というものは勝手に領空内に侵入してきた不明機に対し、無線で警告し、聞かない場合は威嚇射撃をおこなうことが国際的にゆるされている。航空自衛隊もそれはおなじだ。だが空自と他国の空軍との最大の違いはここからである。他国の場合は、警告にしたがわない不明機を実弾で撃墜する、つまり実力行使が許可されているのだ。

 あたりまえのことではないのか? 世界ではあたりまえだ。しかし日本ではあたりまえではない。

 空自は自衛隊法第八十四条によりアンノウンへの対応が決められていて、領空侵犯するアンノウンに無線で退去勧告をするか(「出てってよ! 出てってったらぁ!」)、当ててしまわないように威嚇射撃をするか(「もう! 怒るよ!」)、それでも聞いてもらえないときは国内の飛行場に強制着陸させる(「しかたがないからここに下りて。下りてよう」)以外の手段がとれないことになっている。しかし、強制着陸させるとはいってもまさか外部から操縦をハッキングできるわけでもなし、けっきょくは辛抱づよく無線でよびかけるしかない。空自がアンノウンへの攻撃をゆるされるのは、アンノウンからの攻撃をうけて正当防衛が成立する状況のみである。

 要約するとこうだ。自衛隊機に手出しをしないかぎり、日本の領空をいくら侵犯しても撃墜されることはない……。

「でも、じゃあなんのために実弾のミサイル積んでぼくたちは……」

 とうぜんだがスクランブル発進で出撃する戦闘機が搭載しているミサイルは訓練用ではなく実弾である。シーカーも生きているし、炸薬も装填されている。許可さえあればじっさいにロックオンして、発射できる。

「わたしたち自衛隊は撃つために武器を持っているわけじゃない。あくまでも自衛の組織。権限をもつ司令官が命令した場合はともかく、相手からの明確な攻撃もないのに現場の判断で先制攻撃することは、文民統制の観点からみてもゆるされない」

「文民統制って……ならはやく命令さえくれれば」

「それはないわ」

 占守は断言した。

「いうまでもないけど文民統制のトップは内閣総理大臣よね。総理といえどもかならずしも国防に理解があるというわけじゃない。決断を下して命令が末端のわたしたちに来るまでには状況が終了している。だからトップからの命令には残念ながら期待はできない」

 占守はそう前置きをして、

「こちらに発砲してきているのなら正当防衛になる。でも、そうじゃない場合、たとえば国内の都市部に核爆弾を落とそうとしている侵犯機に対して、総理の認可なく勝手に撃墜命令を出したら、その司令官は最悪、殺人未遂か殺人教唆に問われるおそれがある」

「なんだよそれ……国を守るのに、その守り手が罪に問われるなんて、そんなのぜったい変ですよ」

「法律でそうなっているのよ。まがりなりにも武力をもっているのだから、自衛隊は法律を遵守しなければならない。わたしたちが相手にミサイルを射てるのは、実質、相手側からの攻撃があったときのみ。やられ待ちね」

「そうは言ってもエンドリ、飛行機が先制攻撃くらって、それでどう反撃するんです。最初の一発で撃墜ってことだってあるじゃないですか」

 早蕨がエンドリのTACネームを有する占守に反論した。

「いや、先制攻撃くらうのが自衛隊ならまだしも、その標的が民間人だったら? 敵からの攻撃ありきって言うけど、それじゃあとどのつまり、ぼくらは防げたはずの国民への被害をみすみす見逃して、人が殺されるところを空から見てなきゃいけないってことじゃないですか。自衛隊って国と国民を守るためのものでしょ。なのに、武器を使うための口実づくりに国民を見殺しにしなきゃならない防衛組織なんて、そんなのぜったいにおかしい」

 早蕨の慟哭にもひとしい叫びが無線を駆け巡った。自衛隊という、軍隊にあって軍隊にあらずというその矛盾した存在がもつ問題が、いまあらためて浮き彫りになっていた。

「それが現実よ。いやなら法律でも変えるしかないわ」

 占守はあくまで恬淡と答えた。早蕨が不服そうに声を洩らす。

「なんでエンドリはそんなに冷静なんですか。なんとも思わないんですか」

「思ってどうにかなるものでもないでしょう。理想や哲学で飛行機は飛ばない。あるのは物理法則という現実だけ。目の前の現実と向き合って、そのなかで最善の方法を選ぶことしか人間にはできないのよ。あなたも、わたしもね」

 列機の会話を聴いていた浅間の無線機に、金本から専用回線が繋がれた。

「で、じっさい、このお客さんたちが友好的じゃないってわかったときはどうするんだ、大将」

 浅間は少々考えて、苦笑いしながら返した。

「神祐をあてにするしかないだろうな」



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