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影のふりをする影子  作者: 夢二つ
【第一章】公園で過去巡り
9/25

これから

 呼吸が大分落ち着いてきたので、天を突き抜けろと思いっきり伸びをする。

 タイムトラベラー的な内容の映画を最近観たせいか、やけに自分の人生を客観的に分析をしてしまうのは良くない傾向だ。瞳を閉じながら、影子と出会ってからの自分が残した足跡をもう一度なぞるように過去を一通り振り返ってしまった。そして目を開けると同時に、春一番と思われる一際強い風が僕を現実へと引き寄せてしまう。

 一本だけ公園の中央にぽつねんとある太い根をはる大木。上を見上げると木漏れ日が揺れて幻想的な音色を奏でていた。木陰に埋もれるように老齢の大木にもたれ掛かっていたためなのか、僕の歩んできた人生はちっぽけなものであることを際立たせててしまう。

『瞬も飽きないわね。そんなに私とお喋りするのが好き? 』

 小学校を卒業して、引っ越しの作業に追われている途中にも関わらず、休憩のついでに影子の話相手をする。公園の敷地で古木にもたれて、ゆっくりとした時間を過ごす。鳩も自分の意思の向くまま足を動かし、暇さえあれば地面を突いている。ベンチは誰も座っておらず、誰かが座るのを待ち続けていた。人気が無いので、周りを気にすることなく影子と会話が出来る。父さんは昼ご飯の準備をしているので、僕は当てもなく家を飛び出したわけだが、本の整理をしている間も相変わらず影子がうるさかった。

「こっちが作業している時は静かにしとけよ! 」

 お喋りが好きなのはどっちだと言いたいが、あえて触れないことにする。

『だって、暇なんだもん! 』

 住居を移すために、僕と父さんは慌ただしく荷物の整理をしていた。とは言っても、僕は婆ちゃんの家に帰還するだけなので、本を段ボール箱に押し込むだけだった。単調な作業ではあるが、ゆうに千冊を超える冊数があったため時間はかかってしまうわけだが。父さんは、仕事があるので都心部のほうに住居を移し、別れることになる。僕自信は少し寂しいとは思うけど、これからは中学生になってしまうので、そんなことも言ってられない。自炊も洗濯も覚えたので、本当は婆ちゃんがいなくたって一人暮らしも出来るはずだ。婆ちゃんを楽させてやるのも一興ではないだろうか。それに、転校のことを恐れずに済むのだから。

『どっか、行こうよー』

「喧しい。ここで時間を潰したらすぐ戻るからな」

 五感を共有出来る影子は、僕が様々な場所へ出かけることを強く要望してくる。落ち着いた時間を過ごしたいのだが、影子と出会ってからはプライベートなんてなんのその、鼻くそすらまともにほじることが出来なくなってしまった。だから、ふと本を整理しながら考えてしまっていた。影子がいなければ、僕はこれまでの生活を我慢することができたのだろうか、父さんに文句ばかり言って悲しませてしまったんじゃないだろうかと想像してしまう。もしかしたら、神様を恨みながら、母さんにまでも傷付く言葉を言ってしまったんじゃないだろうか。何となく、今までの自分自身を振り返ってしまった。小学校を卒業するまでに、何を得ることが出来たのだろう?

 小学校から中学校へと環境が変わるというのに、自分自身というものがまだ、しっかりと確立しておらず、些細な衝撃で起き上がれなくなりそうだった。

『大丈夫よ』

「な、なにが? 」

 内心、驚いているのだが、表情には出さないようにする。

『今頃、宝箱を開けなかったことを後悔してるんじゃないかと思って』

「やっぱ、影子はうるさいよ」

 こうやって、遠回りに本質をついてくる。嫌らしい性格ったらありゃしない。

『青い春はこれからよ』

「はっ? 」

 意味がわからないために聞き返す。

『せいしゅ~ん』と、言いながら爪先を軸に身体を駒みたいに回転させる。

 回転したかと思えば、停止して人差し指を向ける。指を人に向けるなよ。

『これからが、大事だよ!』と、気合いを入れる影子。気合いを入れるのは僕自信だし、気合いを入れるとは何か違う。大切にするが、僕の語弊では精一杯だ。元々、青春なんてものがいつも見上げてる雲のように、形はあやふやなんだろう。

 これからか、と入道雲が流れる空を見上げる。まだまだ高く、包んでくる青空。

「ありがとう」

 少々照れてしまったが、素直に感謝の気持ちを言葉にする。影子は僕が悩んでいたことは知っていた。転校続きで、出会った人々から距離を置いて過ごしてきた結果だ。親友という、大事な宝物を一つも手に入れることが出来なかった。それを知っており、常に一緒に居てくれたこいつだから、抵抗もなく心に入ってくる。余計なお節介も多い訳だが。

『エヘヘー』と、照れ笑いをして言葉を繋ぐ。

『それじゃ、今から遊園地行きましょ』

「よし、家に帰るか! 」

『信じられない! 後悔するわよ! 』と、こんなに晴れてるのにと大袈裟にアピールする。

「後悔するのはお前だ。カレーの後にデザートはシュークリームだぞ」

『うはっ! 』

 うはって、一応曲がりなりにも女の子だよな。ま、いいんだけど。

『シュークリームのことすっかり忘れてた。速く帰りましょう』

 反省終わり。それを、結果につなげて見せる。

 友達は少なくても良い。ただ、一生物の親友と呼べる人を見つけていきたい。

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