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影のふりをする影子  作者: 夢二つ
【第一章】公園で過去巡り
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約束

『瞬がもう少し大人になったら説明してあげる』

 ブランコから跳ぶように着地をする影子。僕に振り返り、拳を自分の顔の高さまで持ってくる。そして、人差し指を一本突き出す。

『一つ! 私の存在が他の人にばれてはいけない! 』

 中指を今度は突き出す。

『二つ! 出来るだけ自分の身体を大切にして! 』

 薬指を突き出す。

『三つ! 私のことはいずれ忘れなければならない! 』

 ゆっくりと持ち上げた手を下ろす。両手を首の後ろで組んで笑う。

『この三つの事を守るなら、私はいつまでも貴方の側にいるわ』

 母さんの姿が僕の頭を過ぎる。影子を信用することが出来ない。

「母さんみたいにいなくなったりしないの? 」

 父さんは会社から帰って来る時間は遅いうえに、もう婆ちゃんは側にいない。遊ぶときは、一人なんだと決心したばかりだった。

『私は貴方の影よ。瞬が死んだって、墓まで一緒なんだから』

 影子の言った言葉が、酷く心を打ち付けた。僕は、まだ子供だ。

 -いつまでも貴方の側にいる。

 ただそれだけの言葉で、僕は顔が崩れ、涙でグシャグシャになる。

 どれだけ、泣けばいいんだろう? 自分が情けなくて、でも嬉しくて、泣きながらも笑いが漏れる。

「あはっ、うぐ、ありがと......」

『ちょっと、泣かないでよお~』と、手をパタパタさせる影子。

「ごめ、ゴメン、ゴメン」と、影子に大丈夫だと示すために、皺くちゃな笑顔を作る。

 言葉をハッキリと伝えるために僕は、涙を拭う。鼻を啜って、鼻水を処理する。

「うん、わかった。僕も守る。その変わり今言った言葉は絶対だからね」

 手を挙げ、小指だけを軽く差し出す。

『なに?』と、戸惑う影子。

「指切りだよ。これで約束を守ることが出来るようになるんだ」

『瞬。私は会話は出来ても、触れ合うことは出来ないのよ?』

 小馬鹿にするようにため息をつき、僕から顔を背ける。

『貴方と握手も出来なければ、ましてや指切りなんて出来るわけないでしょ?』

「いいから、いいから」と、催促するように小指をヒョコヒョコと動かす。

「やる振りをするだけでいいんだよ。」

 影子も指切りの真似をして、と半ば強制的に指切りを実行するための手の形を作らせる。

「僕は父さんと電話越しで、よく指切りをやったんだ」

 電話越しから伝わる父の声を思い出す。低くて力強い大人の声。

「父さんは指切りをしたら、約束を破ったことなんて一度も無いんだよ」

 影子は吹き出すように笑う。

「あー! 真面目に話してるのにー! 」

『だから、私は貴方の影よ? その時も、私は貴方の側にいたの』

 なおも笑い続ける影子。

『瞬が電話越しに、泣きついていたのも知ってるんだから』

 そういって、影子はその時のことを再現するかのように僕の物真似をする。僕も覚えている。父さんに早く帰ってきてねと、駄々をこねていた。その時にも、父さんは指切りをしてくれたんだ。

「ちょっとやめてよ」

 影子が僕を馬鹿にするので、腹を立てる。

 滑り台や鉄棒も使われておらず、この公園の敷地にいるのは僕と影子だけ。まるでここだけが街の喧騒から取り残された空間みたいだ。

『本当にいいの? 』

「いいの! 」

 まだ、先程の物真似でご立腹中の僕は、声が大きくなってしまう。

 影子が肩を揺すって笑う。そして、互いに心の中で小指を結ぶ。

『いいわ。約束しましょう。でも、きっと後悔するのは貴方よ』

 確かに僕たちは、小指を結んだ。

『こんなことは、本当はあってはならないの。それだけは覚えといて』

 僕は影子と出会ってしまった。それは変わらない。

「指切りの歌は覚えてる? 」

『モチロン! 』

 僕と影子は同時に腕を揺らしはじめる。

「ゆーびきーりげーんまん」

『ゆーびきーりげーんまん』

 僕は父さんの仕事の都合でこれからも、出会いと別れを繰り返すことになるだろう。だけど、僕は大丈夫だと思う。

「うそついたーら」

『うそついたーら』

 こうやって、常に付いて回るコイツがいてくれる。それだけで、僕は幸せを感じることが出来る。

「はーりせーんぼーん」

『はーりせーんぼーん』

 僕の影。名前は影子。意味はそのまんまだ。

「のーます! 」

『のーます! 』

 僕と影子の心の中で絡めた小指を、同時に離す。小指に影子の体温が残り、どこかへと向かう風が持って行く。

「ゆーびきったー! 」

『ゆーびきったー! 』

 僕の小指には確かに、影子の存在を教えてくれていた。

「これで、僕と影子は永遠の友達だ! 」

 影子はクルリと身体を反転させて、僕にお辞儀をする。

『死ぬまでヨロシクね』

 最後の言葉に引っ掛かったけれど、どうでもいいや。



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