ラン友以上恋人未満
朝6時。
髪を整え、勇み足で外に出る青年がいた。
名を富士山天龍。
彼の視線の先には橋の上でストレッチを行う、一人の女子高生が写っていた。
彼女はこちらに気づいて手を振ってきた。
空野ひまり、天龍の幼馴染であり、ラン友である。
「おっはよー!よく起きれました!」
朝から非常に元気だ。俺も軽く手を振りながら近づく。
栗色の髪のポニーテール。パッチリとした目。可愛い顔。
健康的な肌で、女性らしくも、スポーツマンとしての引き締まった体。
何度見ても見惚れてしまう。芸能人ですかあなたは。
神よ、今日も彼女と合わせていただきありがとうございます。
さて、今日のひまりの最初の一言は褒める系、1週間に1度くらいの頻度である。
人の印象は第一印象が大きく占めるらしいが、俺が思うに、印象とは毎日リセットされるものなのではないだろうか。
実際、今日のひまりは昨日よりも可愛いし、明日はもっと可愛いだろう。
つまりその日の第一印象が、その日の運命を握っているのだ。
だから俺は、この朝の一言を、非常に大事にしている。
「もう慣れたもんだね」
用意していた言葉を提示する。そこまで誇らしげにはせず、しかし自身をのぞかせる言葉のチョイス。考え抜いた自信の一言だ。これは何かしらのアクションがあるに違いない。
「さすがー」
、、、、まあいいさ。印象なんて後からいくらでも変えられる。
俺たちの朝はこれからだ……!
☆☆☆
「じゃねー、また明日!」
「……おう、また明日」
そう言いながらひまりは、跳ねるように去っていく。
やはり初手でかっこいいと思ってもらはないときついのか、、、?
ひまりとの朝ランを始めてからすでに3ヶ月と4日が経つが、特に関係性の変化はない。
誘いにのってもらえた時は、勝利を確信していたが、毎朝会っても、ひまりはいつも通りの表情、いつも通りの口調でいつも通りの会話しかしない。
このまま何も起こらないのだろうか。
一抹の不安を抱えながら、後ろ姿を見つめていると、急にこちらを振り返ったひまりと目が合う。
「ッ、、!」
まずい。別れの挨拶をしたのに、まだ見ているかなんて、まるで俺がひまりとまだ一緒にいたいと思っているみたいじゃないか。
実際にそうだが、それを気取られるのはまずい。
自称IQ300の頭をフル稼働させ、富士山天龍は打開の糸口を探す。
たまたまそっち見てだけ〜、
明らかに嘘。駄目だ。
ちょっと考え事してたー、
んー、ちょっと嘘くさい。駄目。
後ろ姿に見惚れててー。
ただの本心、絶対駄目。
そもそも俺は別れてから一歩も動いていない。
これはひまりにずっと釘付けだった確固たる証拠!
ひまりがこっちに戻ってきた。
……詰みか。
「なんだー、走り足りないなら先言ってよ。
さ、いっこか」
「あ、うす」
すでに4キロ走ったんだけどな、、、
まあ、ここはバレなかっただけよしとしよう。
こうして俺とひまりの朝ランタイムは延長戦に突入した。
☆☆☆
「たっだいまー!」
上機嫌で帰ってきたひまりを出迎えたのは、仁王立ちしたひまりの兄、謙之助であった。
「今日はいつもより15分も遅かった。理由は」
「えー、ただ長めに走ってただけだよ」
横を通り過ぎようとするひまりの肩を健之助が掴む。
「本当か?もうお前たちが付き合い始めてから3ヶ月と5日だ。なにが起きてもおかしくない時期に来ている。
さあひまり正直に話しなさいお兄さん怒らないから」
そう言いながらも、目は全く笑っていない。
こうなったら兄は非常にめんどくさい。
登校まであまり時間もないため、ひまりは奥の手を使うことを決める。
「お兄ちゃん、ちょっとキモい」
謙之助の膝が崩れ落ちる。
「き、きも、、?キモい、、、、、?」
わなわなと震えながら現実を受け止めきれていない兄を相手ひよりは風呂場へ行く。
そして堪えきれないと言ったように、吹き出してしまう。
「めっっっちゃこっち見てた…….」
残念ながら天龍の思いはバレバレであった。
それは今朝の失態が原因というわけではなく、朝ランに誘われたその瞬間から。
彼女は常に挙動不審な天龍を面白がっているだけであった。
一方気持ちを隠せていると勘違いしている天龍は、まぐまぐとご飯を食べながら、明日の作戦を組み立てていた。
これは富士山天龍と空野ひまり、二人のラン友の物語である
最頻出最初の一言は
「さ、今日も走るよー!」
天龍メモ
「おー」以外に返す言葉が見当たらない。第一印象は諦め、それ以降の会話に全てをかけよう。




