表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

冷たい旦那様の甘過ぎる執着

作者: 結城斎太郎


私は、御園(みその) かえで

親同士の取り決めで、国内有数の財閥・久世家の御曹司――久世(くぜ) 怜司れいじと結婚した。


「愛なんて、俺には必要ない。形だけの結婚だ」


結婚初日、彼はそう言った。冷たくて、近づくことさえ許されない雰囲気。

私はただの“名ばかりの妻”。そう思っていた。


だけど――。


「誰にも触れさせないって言ったろ?」

「……怜司さん?」

「お前は俺の妻だ。それ以外、何もいらない」


気づけば、毎朝キスで起こされ、仕事中も頻繁に甘いメッセージが届く。

クールだった彼が豹変したように、私にだけは甘く、独占欲をむき出しにしてくるようになった。


これは、愛なんていらないと思っていたふたりが、

契約の中で本物の愛を見つけていく――甘くて激しい「白い結婚」の物語。


「今日、会食だ。準備してくれ」


怜司さんの声は相変わらず冷たい。

だけど、それ以上に――どこか、不器用な優しさが滲んでいる気がする。

仮面みたいな表情の奥を、私はまだ知らない。


「わかりました。服装は……フォーマルスーツでいいですか?」


「いや。ドレスにしろ。俺の“妻”だからな」

そう言った彼の頬が、わずかに赤く染まった――気がした。



---


会食会場のホテルは煌びやかで、まるで舞踏会のよう。

怜司さんの腕に手を添えて歩く私を、周囲は羨望の眼差しで見てくる。


「……よく似合ってる」


「え?」聞き返すと、怜司さんは視線を逸らした。

「ドレス。似合ってるって言ったんだ」


その瞬間、胸がきゅっと痛くなる。

こんな風に褒められたのは、初めてかもしれない。



---


会食の終盤、ワインで足元がおぼつかなくなった私に、怜司さんがさっと手を差し伸べた。


「……無理するな。俺が支えるから」


「怜司さん……?」


「お前が思ってるほど、俺は冷たくないよ」

耳元で囁く声に、心臓が跳ね上がった。

彼の手のひらが、こんなにあたたかいなんて――知らなかった。



---


その夜。帰宅後。

着替えようと寝室に戻ると、怜司さんが私の背後からそっと抱きしめてきた。


「どうして……急に優しくするんですか?」


「最初から、お前を手放す気なんてなかった。ただ……どうしていいかわからなかっただけだ」


「……怜司さん」


「俺はお前を、ちゃんと愛したい。契約なんかじゃなくて」


その言葉は、契約の壁を壊す魔法のように、私の胸に響いた。


怜司さんが本気で「愛したい」と言ってくれた夜から、私の世界は少しずつ変わり始めた。


朝、目が覚めると隣には彼がいる。

出勤前には「行ってくる」とキスをくれる。

まるで、本物の――夫婦みたい。


でも、どこかで私は怯えていた。

これは一時的なものなんじゃないかって。



---


そんなある日。

怜司さんが珍しく、早めに帰宅してきた。


「……外、歩こうか」


「え?」


「たまには、人目を気にせず、君と並んで歩きたいんだ」



---


夜の街を、手を繋いで歩く。

怜司さんはふと立ち止まり、静かに言った。


「俺の母親も、政略結婚だった。父は一度も母を見ようとしなかった。愛なんて、俺には無縁だと思ってた」


それは初めて聞く、彼の過去。


「でも……君が、笑ってくれるだけで……なんでだろうな。胸の奥が、温かくなる」


「怜司さん……」


「俺は君を幸せにしたい。……これは俺の“契約”じゃなく、“願い”だ」



---


その言葉に、私は思わず彼の胸に飛び込んでいた。


「私も、ずっとあなたのそばにいたい……。契約じゃなく、本当の妻として」


「……じゃあ、もう言葉はいらないな」


唇が重なり、夜の風がそっと包み込んだ。

これが「白い結婚」の終わりであり、

“本物の愛”の始まりだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ