第8話 賭け
キィン…
男の指によって弾かれたコインが大きく宙に舞いくるくると綺麗に回転した。コインは周りの光を反射させ輝きながら、男の手元に戻っていった。
「さあ、裏表どっちだ?」
ハンは、ほんの僅かな時間で考えを巡らせる。
――普通に考えれば、裏か表の2択だから可能性は2分の1。運のみに頼る本当の賭けゲームだ。しかし、さっき見ていた中で男の動きに何か違和感があった。それが分からない…。
「表」
男は不気味な顔で、コインが入っている手のひらを外した。コインが照明に照らされ、ハンは少し目が眩んだ。
「裏だ。まぁ、確率は2分の1だからそういう時もあるさ。次は俺の番だな」
男は大きな口が裂けるほどに笑みを浮かべていた。周りの観衆は今にもこの青年が負けてしまうと見てもいられない気持ちになる者が多かった。しかし、その青年である当の本人は全く焦っている様子はなかった。
――今の一連の動作でおかしな点は見つからなかった。つまり、勝負はこの次のターンということ。男が何か仕掛けをしてくるのはこのタイミングしかない。
ハンは、男の動き全てに目を凝らし、集中して男の動きを見ていた。
キィン…
先程と同じようにコインは宙を舞い、静かに男の手元へと戻っていった。
――何かが今、おかしかった。それがまだ掴めない…。
ハンがイカサマの種を見つけようと必死になっている様を見ながら男は口を開けた。
「うーん、考えても仕方ないしなぁ。うーん、表」
男の大きな手からコインが現れる。熱気に包まれた場の雰囲気が、一気に閑散とした空気に変わった。
――表だ。この男、やはり何か周りの気が付かないところでイカサマをしているんだ。そうでなければ、ここまで勝ち続けられるはずがない。何が何でも次は確実に当てなければ…。
「っだーはっは。また勝っちまった。申し訳ねぇなぁ、坊主よぉ!次お前が当てることができなかったら、俺様の勝利だぜぇ!」
男はあと1回で勝負が決まるかもしれないこと、次ハンが当てたとしても確実に自分が勝てるという確信に興奮していた。ハンが睨んでいた通り、男はイカサマをしていたのである。