第5話 首飾り
城の前に差し掛かると、甲冑に身を包み、腰には銀色に輝く鞘に納められた刀を帯びている衛兵がいた。衛兵は、ハンの体を触り、刃物や危険物を持っていないことを確認すると無言で首を動かし、行けと指示をした。初めて人にそのような態度をとられたハンは、怪訝そうな面持ちをしながら城の中へと歩みを進めた。
賭場会場の扉の前には、1人の男と2人の女がいた。男は黒い服に身を纏い2人の女の前に立ち、ハンを待っている様子だった。2人の女はどちらも華奢な体格をしており、常に目の前の男の側近としてついているように見えた。男と女共に、顔の前には黒い布が掛かっており、本人たちの顔が見えないようになっていた。
「どうぞお越しくださいました。早速ですが、何かお引き換えすることができる物はお持ちでしょうか」
――引き換え…そうか賭けるにはそれ相応の物がないと賭けることができないのは当然か。今持っている物は、食料と水、何かあった時のためのマッチ棒、金目の物は持ってないな…。
ハンは首にぶら下げている首飾りを思い出した。首飾りは勾玉のような形で綺麗な藍色に色付けられ、不思議な力を持っているようにも見えるほど輝いていた。今は亡き祖母から譲り受けた物で、実際どれほどの価値があるかわからなかったが、賭事終了後に引き戻すことも可能であると聞いたため、ハンは首飾りを引き換えることにした。
「これでお願いします」
「かしこまりました。こちらをお持ちになり、会場にお入りください」
そう言うと男は小さなチップを1つ後ろの女から貰い、ハンに渡した。チップは小さく簡単に持ち歩くことができるほど軽かった。しかし、そのチップの真ん中には宝石が埋め込まれていたのである。ハンはそのことに気が付かないまま会場へと足を踏み入れた。