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プロローグ
今日の市場は一段と人で賑わっていた。
それもそのはず、今日は各地方の族長が一堂に会する4年に1度の1大祭りなのである。
「おっさん、いつものくれ」
黒髪に灰色の瞳をした端正な顔立ちの青年は、市場の中でも行きつけの売り場で夕飯の買い出しをしていた。この市場は都市ミラルの中心地に属しており、多くの商人や市民、武装をした衛兵などが行き交う町である。
「あいよ、ルキの調子はどうなんだ。ハン、お前ひとりが全て抱え込む必要はないんだぞ」
ハンがいつも買う物を袋に入れながら、売り場の大男は班に向かって言った。
これはサービスな、というアイコンタクトをして袋の中に芋を2つ入れた。
騒がしい市場を抜け、夏であれば草木が生い茂っている道を歩いていくと、ハンとルキが暮らしている小さな家に辿り着く。ハンが家につく頃には、辺りはすっかり夕暮れになっていた。
「ただいま」
ハンは暗い家の中にこだまする自分の声を聞きながら、ゆっくりと戸を開けた。