僕のお姫様
学園の卒業パーティでエリザベス様は婚約破棄を突き付けられた。
方々の怒りを買いながらも、お花畑の面々は相変わらずというよりも舞台を学園から宮廷に移した分質が悪いともいえるかもしれない。
けれど、学園内であれば子供として許されていたことが、許されなくなる。
宮廷には沢山の貴族も文官もいて、今まで通りの事を続ければただひたすら恥をかくし、人も離れていく。
ケイン様はあらかじめ準備をしていたのだろう。
第一王子のそばを簡単に離れて、初めからそうだったかの様に王弟殿下の腹心として働いている。
そして、ついにあの男爵令嬢が大きくしでかした。
第一王子の婚約者“候補”となったことで気が大きくなりすぎたのか、酷く散財を始めた。
婚約者候補程度の予算ではとても賄いきれないドレスや宝石を購入し、予算を超えた分は帳簿をごまかした。
帳簿をごまかしたのは、学園時代の男爵令嬢の取り巻きだった男の一人だ。
第一王子と男爵令嬢は、学園を卒業するとすぐに、彼らの取り巻きを王宮に次々と採用した。
能力の無いものも多かったという。
その中の数人がずさんな予算の管理をした。
男爵令嬢の言うままに横領をした。
勿論彼らは不正に手を染めた対価を男爵令嬢に求めた。
ケイン様が最初に言ってらした糞ビッチという言葉は、かなり正確な表現だった。
伝聞ですがそう聞きました。
宰相と王妃様を連れた第一王子が偶然彼女の部屋を訪れると、令嬢とその取り巻きはのっぴきならない状態でまぐわっていたそうだ。
それを見て逆上して暴れる第一王子。私は悪くないと泣き叫ぶ男爵令嬢。
ケイン様の父親である宰相がその場に居合わせたのは偶然だったのだろうか。
「思わず慌てて、人を呼んでしまったらしいですよ」
と言ってケイン様がとてもいい笑顔を浮かべていらしたので、予想はついている。
王子たちは事実上の地位はく奪に近い形で離宮に幽閉状態らしい。
病気療養のためという公式な布告が最近なされた。
* * *
夕食を一緒にと言われて向かった侯爵邸で、ケイン様はワインボトルとグラスを準備していた。
私はワインについてはよく分からない。
やっと飲める年になったばかりなので良し悪し以前に何も知らない。
どこの領地の名産になってるか程度の知識しかない。
「今日は祝杯ですから」
それに、まだ酒を飲んだことが無いので限界が知りたいんですよ。
ケイン様はそう言ってワイングラスに赤ワインを注ぐ。
何の祝杯かは言われなくても何となくわかった。
「リーゼもどうぞ」
勧められて飲むワインは思ったよりも甘くて飲みやすい。
「嬉しそうですね」
「当たり前ですよ。これで邪魔者がいなくなったので、リーゼと義務的だと信じ込ませるような行動取らなくていいんですから」
ケイン様の頬は少し赤い。
朗らかな声色が彼が少しだけ酔い始めてる証拠の様に見える。
ケイン様がハイペースでワインボトルを開けていく。
今日は対面ではなくて並びの席に座らせてもらっている。
使用人たちは皆さげられて、ワインを注ぐのはケイン様がしてくれる。
学園時代からの懸案がやっと片付いた。
その祝杯だから、酒量も増えてしまう。
相変わらずケイン様は放言が多くブタだの糞だのと言っている。
私もお酒を飲んだからでしょうか。少しだけふわふわする。
だからずっと気になっていたことを思わず聞いてしまった。
「ねえ、私のあだ名は何なの?」
私も少しだけ酔っていたのかもしれない。
婚約者か地味とでも返ってくると思っていた返事は、ケイン様がうっとりと赤くなった瞼を細めた後、吐息交じりで言った言葉で全く違うものだと気が付く。
「僕の可愛いお姫様」
トロリとした笑顔を向けられて、それから一瞬経って、それが私の事を言っているのだとようやく理解した。
態と面白がって言っている様には思えなかった。
彼の頭の中では私がお姫様として扱われている。
そのことをちゃんと頭が理解すると、気恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。
ケイン様は私のその様子を見ても意地悪な笑みは浮かべない。
そっと隣に座るケイン様は私の髪の毛を一房手にとってそこに口付けをした。
普段こんな風な極端にキザな真似はしない。
酔っているのだろう。
明日になったらもしかして忘れてしまっているかもしれない。
「君は僕のお姫様ですよ」
いつもより柔らかな声でそう言って、もう一度ケイン様はへにゃりと笑った。
相当酔っぱらっているのであろう。
何か言ってもきっと意味が無いので、照れ笑いだけ返した。
翌日。
残念ながらお酒には弱いけれど、全部を覚えているタイプだったらしいケイン様は盛大に頭を抱えていらして、思わず声を出して笑ってしまった。
とりあえず今書きたいものは書けたので一旦完結にします。
また何か二人の話を思い浮かんだら不定期更新するかもしれません。