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公爵令嬢

侯爵邸のサロンはケイン様と二人で会うときよりも、物々しい結界魔法が何重にもはられていて、今日ここを訪れる人が特別な人なのだと再認識した。


ケイン様はその人と私を引き合わせたいのだと言った。

第一王子のアルフォンス殿下の婚約者の公爵令嬢エリザベス様。


今日侯爵邸におこしになられるのは彼女だ。


王子の婚約者と二人きりで会うのがまずいから、という事で私が同席するのだろうと思っていたけれど、それはどうも違うらしい。


「あれは、もう平民落ちでもすればいいのですわ」


すました顔でそう言ったのはエリザベス様だ。

私は私の横に座るケイン様が『馬鹿か!』と言う幻聴を聞いた気がした。


エリザベス様と王子との婚約は解消になるまで秒読みだと、噂を聞いたことがある。

王子があの男爵令嬢を伴侶とするために奔走しているらしいという噂と共に。


公爵家はこの事態をどうするつもりなのだろうと思っていたけれど、和やかな雰囲気で始まった筈のこの場はエリザベス様の言葉に一気に冷気を感じる様な空間になってしまう。

目の前のこの方は、第一王子との婚姻を望んではいないのか。

美しい姿は、国母にふさわしいと思うのに、王子の話になったとたんほんの少し表情を歪めてそんな事を言う。


「演劇でもないんですから、そんな事は不可能ですよ」


ケイン様がニッコリとした笑顔を張り付けながら優し気な声を出した。


「平民になった後、この国の誰かが正当なる王家の血筋とでも言って、あの暗愚を担ぎあげる馬鹿はさすがにこの国にはいないのだし、とっとと廃嫡して仲良く平民落ちにすれば宮廷もスッキリしますわ」


エリザベス様は思ったよりも過激な思想をお持ちな様だった。


「あなたもそう思うでしょう?」


エリザベス様に問われて、ケイン様が苦笑いする。

彼をちらりと見ると笑みを深めた。


私がエリザベス様と話をするのは初めてだけれどケイン様はそうではないと知っている。

多分、ケイン様はエリザベス様がこういう方だと知っていてこうやって三人で会った。

そのための厳重すぎるくらい厳重な防音魔法なのだろう。


エリザベス様に向かって、なるべく冷静な口調を心がけて伝える。


「我が国の貴族がそれを望まなくても他国の工作員が内紛をでっちあげる可能性がございます。

クーデターは成功してもしなくても、後始末に我が国は追われることになりますので丁度良く足を引っ張れる道具になるでしょう」


だからこそ王族の婚姻というのは政略として意味のあるものばかりになる。

王家の血というものは国家によって管理されているのだ。


簡単に放逐できるようなものではない。

本人が無能であればあるだけ、他者に利用されてしまうのだ。


だから、ケイン様が悪態をつきつつも別の誰かに寝返ることが難しいことも知っている。

第一王子はあのような茶番を繰り広げているが法を破っているわけでは無い。

婚約者ではない女性と節度を持った距離で接せねばならないのは規範であって、法ではない。


第二王子派に鞍替えをするとしても、すでに側近は別にいるため何も持たずに派閥を変える事は難しい。


それをおそらくこの方は知っていて、私を試すようなことを言っているのだろう。

ケイン様とエリザベス様、お二人の話の着地地点が分からなかった。


「まあ、合格といったところですわ」


エリザベス様が言う。


「今までも歴代すべての王が賢王だった訳ではありませんわ」


だからこそ、公爵家は婚約を受け入れたのに。

そうエリザベス様は言った。


「平穏が一番ですわ。

わたくしは平和主義者ですから」


彼女は綺麗な笑顔で笑った。

女性である私でも見ほれる様な笑顔だった。


その自称平和主義者が婚約破棄されるかもしれないという噂がある。

彼女は何を望んで今この話をしているのだろう。


「あなた、あの男爵令嬢に目を付けられているじゃない?」


エリザベス様の言うとおりだ。

時々取り巻きの子息を連れては、「貴族の愛の無い婚約なんておかわいそうに」というどうでもいい話をしてくる。

別に私は何も思わないから無視ばかりしている。


「アレは、単なる馬鹿なのかしら。それとも醜悪な女狐なのかしら?」

「恐らく後者かと存じます」


でしょうね。とエリザベス様が言う。


「嬉々として、婚約破棄の準備だけは手伝っているそうよ」


やはり、あの噂は本当なのか。

だとすると、公爵家の逆鱗に取り巻きとして認識されかねないケイン様は触れないのだろうか。


恐る恐る彼の顔を確認すると「それを上手くやるための話合いの場ですよ」とケイン様は落ち着いた様子で相変わらず笑みを浮かべている。


「婚約破棄は受け入れるわ。

その後、王弟殿下と婚約を結ぶべく公爵家は動いております」


ニッコリ。とても貴族的な笑顔をエリザベス様は浮かべた。


「傀儡政治じゃなくてゴメンね」


ケイン様はいたずらっ子の様に私に言った。


「あれは、言葉のアヤってものです!」


思わず言い返すと、ケイン様がクスクスと笑う。

それを見てエリザベス様が初めて、貴族らしくない笑顔を浮かべた。


「是非、リーゼロッテさんとお友達になりたいわ」


エリザベス様は面白そうに笑った。

それから目を細めて、私を見つめた。貴族令嬢はあまりしない仕草だ。

ネコが獲物を狙っているみたいだと心の中で思った。


隣で同じようにエリザベス様を見ていたケイン様が焦ったように「あくまでも彼女は僕の婚約者ですからね!?」と言った。



それが少しだけおかしくて、笑顔をうかべてしまうと「あら、やっぱり。とてもかわいらしい方ですわね」とエリザベス様が言った。



「私も、素敵な恋がしたいものですわ」


エリザベス様が私たちを見て言った。

そんなに羨ましいと思われるような感じだっただろうか。


私が不思議に思うと、エリザベス様は「噂はあてにならないわね」と言った。


貴族の義務だとケイン様が苦虫を噛み潰した様な顔をしている。

あの日の事は私はもう何も気にしていない。


目立つことの無い私は、普段彼の婚約者だと認識される事もない。

そりゃあ憐れまれるよりも、祝福された方が嬉しいけれど、それが全てではない事をきちんとわきまえている。

別にあの男爵令嬢に何を憐れまれてもどうでもよかった。

だけど、目の前の公爵家のお姫様が素敵な恋だと言ってくださった。


それがとても嬉しかった。

婚約破棄パートこの後書くか悩んでます

(主人公の二人の話以外ってあってもいいものなのかがよく分かってません)

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