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第6話

やっとコメディ色を出せました。

閑話休題は一度下げます。

見れた方はラッキーということで、


 ゆっくりとした仕草で、男がさわの手を取る。

 今日は前髪を上げており、凛々しい姿に軍服が映える。

 

 悔しいから、絶対に見惚れない。

 

 そんなことを考えながら、さわも負けじとゆったりとした動作で微笑む。

 薄い青のひらひらしたドレスは、さわの足に絡んだが、優雅に整え、足をまた一歩進める。

 男に少しの体重を預けて、淑女らしくたおやかに歩く。


「さわ」

 優しい声がわたしを呼ぶ。



 さぁ、歌が始まった。






 静かに泣くさわを、二人は泣き止むまで待っていた。

「さわ様、今のあなたに、このようなことをお話しなければならないことを申し訳なく思います」

 冷め切ったお茶を口にして、ようやくおちついたさわに、リードが申し訳なさそうに口を開く。

「この世界には大国が2つ、うち一つがこのサラネストなのですが、この両国の間には常に争いがあります。始まりがいつからかを覚えているものはいないくらい古くから続いています。今も国境近くでは小競り合いが起きていますが、大きな戦はここ十年おきておりません」

 ならば今は平和ということでは? と考えたさわは、リードがなぜ苦い顔をするのかが分からなかった。

「おっきい争いがないからって安心できないんだよねー」

 そのギモンを掬い取るかのようにベガが軽い調子で答える。

「なんで?」

「今は火種がくすぶっている状態なのです。抑圧された状態と言ってもいいかもしれません。なにかのきっかけで箍が外れれば、仮初の平和が長かった分大きな争いになるでしょう」

「そう……大変なんだね、この世界も。でも何のために争っているの?」

「それも、分からないほどに長く争っているのです。ただ、女神の寵愛を得るためだと伝えられています」

「女神の寵愛?」

「そうです。ですからあなたが女神に呼ばれたとなれば、ラクテイはあなたを手に入れようとするでしょう。手に入らないと分かれば殺すこともいとわない可能性もあります」

「そんな……じゃあどうすればいいの?」

 気づけば呼ばれた異世界で、やっとその事実を受け入れられてほっとしたのも束の間、自分はなにやら危機らしいと分かり、さわは身震いした。

「あの、本当に申し訳なく思っているのです。わかってください……」

 おびえるさわに、申し訳ないというよりは、なにやら続く言葉を口にするのが嫌がっているように見えた。

「リード、ちゃんと言えよ。『ベガ様の后候補として王宮に滞在してください』ってな」

 まるで獣が舌なめずりをするかのように上機嫌なベガが、今までで最上級ににやけた顔をしながら笑った。

「は?」

 戸惑うさわにリードが下を向きながら言った「本当にすみません」と言う言葉は、間違いなくベガの言葉を肯定するものだった。



 曰く、ベガの后候補であれば護衛を引き連れていてもおかしくない。

 曰く、女神関連を隠すのであれば、急にあらわれたさわが身をおく場所として後宮ならあやしまれない。


 

「つまりベガの后候補は後宮にいっぱいいて、しかも急に女が増えることに違和感をおぼえるものはいないってこと?」


 さっきまでの泣き顔や怯えはどこへいったのか、さわのこめかみはぴくぴくと震え引きつっていた。


「迅速な理解、感謝いたします」


 再度頭を下げたリードの言葉は、肯定だった。

 さわにノーの選択肢はない。これは決定事項なのだ。


「あなたは必ずもとの世界にお返しいたします。ですがご自分の世界に帰ることの出来る方法を見つけるまで、おそらく時間がかかるでしょう。その前にやみくもにあなたのお立場をさらせば、それだけ命が危うくなります。女神に呼ばれたあなたを守るため、どうかよろしくお願いします」


 世界を救えと女神は言った。

 おそらく世界を救えば、元の世界に帰れるのだろう。そう、さわも感じている。

 だからリードが言った帰る方法とは、世界を救うとは何かということそのものを指している。

 しかしそれが具体的になんであるのかが、いまさわにも、この二人にも分かっていない以上、さわの命を危険にさらすわけにはいかなかった。


 リードの言葉の意味を、さわは十分に理解していた。

 

――最初、争いの話が出たときには戦えと言われるのかと思った。

 けどそれは違って、どっちかというと女の戦いが待ち受けているような気がしてならない。

 でも、私は運が良いのだと思おう。

 勝手にこんな世界に呼ばれたけど、こうして助けてくれるひとと会えたんだから。

 きっと帰れる。 

 そうよ、何より、生活の心配はしなくていいんだから!!



 柿崎さわ17歳。


 立てば芍薬座れば牡丹。歌う姿は百合の花。


 誰がいったか知らないが、艶のある長い黒髪に白い肌、ピンクの頬に透き通るような美しい声。いまはその声はないが、それでもさわはどこぞのご令嬢にしか見えない。


 しかしそれはしゃべったり動かなければという但し書きがつく。

 思ったことはすぐ口にするし、短気なためすぐに手が出る。 

 ある「特別」なときを除けば、さわは無駄美人だった。


 父親は仕事なしの甲斐性なしで、母親はせっせとパートにでているたくましい人だ。最近こそ奈良橋の事務所でさわ自身がバイトをし、「こもれび」が売れたことで生活は楽になったが苦節16年。

 小学生の時からスーパーの特売に走った経験は伊達ではない。


 


「分かった。私に出来ることはする。だから、ここにおいてください」


 働かざるもの食うべからず。

 さわは母の教えを異世界でも忠実に守ろうと決意した。

 




 気づけば着ていた制服は、庭園を走りまわってぼろぼろで、足には擦り傷が出来ていた。

 夜は更けて、窓からは月明かり。

 部屋には魔法の光はあれど、すこし薄暗さが残る。


 そんな中で、赤い髪の男と金髪の男に、普段のさわに似合わない綺麗な動作ですっと頭を下げた。



 これはけじめだ。

 この先、生活の面倒を見てもらうのだから、これくらいは我慢しなければならない。



 そうして与えられた役目が、さっきからずーっとずーっとにやにや笑って「いやーさわがおれの后かーいいねー!」と笑っている男の后候補だとしても!!!


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