第2話
光に飲まれたさわは、自分がどうなっているのかわからなかった。
一瞬閉じていた目を開くと、自分の目が見えなくなったように感じたがそれは違っていた。
目の前の空間は溢れる光で白く染まっていた。
その光は徐々に何かを形どるように漂いながら動いていた。ヒトのようで、獣のようにも見え、はっきりとしているようで、形のないようにも見えた。
「なに……これ」
つぶやいた自分の声は、さわの聞いたことのないものだった。心臓が止まるほどの衝撃だった。
息の漏れるような掠れるような、そんな声。歌を歌う自分の声では決してありえない、汚い、醜い声。
自分は今、どこにいるんだろうとか、なんで目の前は真っ白なんだろうとか、目を開いた一瞬で頭をよぎったことはいくつもあった。
しかし発した自分の声の醜さに、全ては飛んだ。
「やだ…やだぁぁぁ!!」
さわは泣き叫ぶ。その叫びすら自分の声とは程遠く掠れた醜い声をしていた。
さわはその場に崩れ落ちた。そんなさわの前で、光は相変わらず漂い続け、気づけばさっきよりはっきりとヒトの形をしていた。
「むすめが望んだのはヒトガタであったか」
形を成した光はそうつぶやいた。
そして完全な人型をとったとき、光は光でなくなった。長い髪が透き通るような銀色をした美しいヒトになっていた。
「おいお前。何を泣き叫び、何を泣いておる。お前は選ばれたのだ。女神の御子が、そなたを望んだ」
聞いたものを従わせるような、強い声であった。傲慢さと高貴さを内包した、上に立つものの声。
そこで初めて、さわは光がヒトになっていることに気づいた。
「え……」
「お前は世界を救うことを約束された」
「な、に……?」
つぶやく声は完全にさわのものではなかった。木漏れ日を歌ったあのやわらかく透き通る高い声はどこにもなかった。
「お前は我によばれた。むすめの願いをかなえるため、世界を救うため」
「わかんない、あんた何言ってるの」
さわは目の前に美しいヒトが、何を言っているのか分からなかった。
「お前は世界を救うのだ。成すべきことをせよ」
さわが混乱する中で、美しいヒトはもう一度言った。
「世界を救え」
美しいヒトはまた光になって、音もなく弾けた。
その勢いの中で、さわは眠気にも似た感覚が広がって意識が遠のくのを感じた。
「選択が訪れしとき、お前は『お前』を選ばなくてはならない。
絶望の上に立つ光か、絶望の中に在る光のどちらかを……」
はじけ飛んだ美しいヒトがつぶやいた、予言めいた最後の言葉は、さわに聞かれることなく消えた。
後には静寂だけが残っていた。