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第19話

 目を覚ましたさわは、夢の会話を反芻する。


 こちらへ来てから初めて女神と会話をした。

 世界を救えば、声を戻してやるといわれた。


「おはようございます。さわ様」

 ネオがノックをして部屋へ入ってくる。

「おはようネオ」

 ベッドからおりたさわに、ネオが近づいて着替えを手伝い始める。

 着替えが終わるとすぐに鏡台のイスをさわのために引く。

 初日の変身以来、さわは自ら化粧を施す。

 この後宮で后らしく振舞うことを、さわは自分に課していた。

 最初に思ったとおり、世話になるのだから、のぞまれた役割を全うすべきだとさわは考えていたのだ。

 そして昨日のベガの言葉を思い出して、一層美しい化粧を施そうと気合を入れる。

 相応しくないと思われているのなら、好かれなくともせめて認められたい。


 そう思って紅を引いたとき、ネオが今日の伝達事項をさわに伝える。

「本日は、夜に音の宴が入っております」

「音の宴?」

 この国に高貴な人が楽器を弾く習慣はない。だから宴において音楽はいつも添え物だ。バックミュージックとして流れることはあっても、音が主役の宴は滅多にない。

 「どうやら新しい后候補が到着するそうです。琴と歌を嗜まれる方ですので、ベガ様が音の宴を開くと仰いました。さわ様も出席するようにとのことですわ」

「新しい人……?」

 ずきりと胸が痛んだ。

「そうです。しかも今回は、ベガ様が御自ら望まれたとか。琴を嗜む歌姫で、サラネストの隅にある小国のザラの王妹でいらっしゃいます。ミラクさまはベガ様と幼い頃から親しくしていらっしゃいました。もしお子が出来ればまず間違いなく正妃になられるお方ですから、さわ様も親しくされるべきですわね」


 歌姫。


 さわはこの一言に動揺しないよう、ゆっくりと心を落ち着かせる。一度目を閉じて、それから鏡越しにネオに話しかけた。

「ミラクさまは、歌を歌われるの?」

「そうです。大層有名な方ですよ。高い声がお美しい方です。私がお目にかかったのが、ミラクさまがサラネストへの留学を終えてザラに帰られたときですので、2年前です。今はもう18になられたとか」

「そう」


 ネオの話では、ミラクという姫はサラネストに幼い頃から留学していたらしい。そこでベガと親しくなり、いずれは后にと望まれていた。今回やっと叶ったのだと。

 小さく、儚く、可愛らしい方だとネオは言った。歌が美しく、特に高い声が綺麗だと。

 

――低い声のほうがいいと言ったくせに。うそつき。


 さわは思う。 

 まるで、許婚のようだ。

 そして私はさながら、それを邪魔する嫉妬した女。


 後宮を出たいと思った。

 だって、ベガが愛する人と笑いあう姿を、これからずっと見るなんて、苦しすぎる。

 昨日自覚した恋を、私は自分で蓋をしたのに。気持ちが溢れてしまう。


「ねぇネオ。私後宮以外にいるとこないかな?」

 ネオは困った顔をした。扉の向こうにいるマサキを気にしてか、少し小声になる。

「さわ様は女神に遣わされた方。ここを出るのは危ないかと」

「でも、私出たい」

 さわにはこれがわがままだと分かっていた。それでも、出たいとしか思わなかった。

 悲壮なさわの顔に、ネオは分かりましたと答えた。

「リード様にご相談しておきます。すぐには無理ですので、今日の宴には出席なさってくださいね」


 強い口調で言い切ったネオに、「わかった」とさわは答えるしかなかった。


 

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