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第13話

 あの宴からすでに二週間、さわは散歩から帰ってきて扉を開けると、部屋の現状に思わず大きなため息をついた。


――とうとう部屋が荒らされたし!!


 引き出しの中のドレスはズタズタに切り裂かれベッドに放り投げられているし、床の絨毯は割れた花瓶でぬれていた。

 ネオもさわよりも一歩先に部屋に入って、危険はないか確認して、扉の方へと振り返る。

「さわ様、本当にほうっておいてよろしいのですか? ベガ様やリード様にお伝えすべきでは?」


「いいよいいよ、このままで。この先も部屋とか入られても見咎めなくていいからね!」

 後半の言葉を横に立つマサキに向けて言うと、護衛のマサキが「はぁ」と生返事する。

 ショートカットのマサキは女性ながら腕の立つ護衛としてさわについてくれている。本来なら部屋に入られないようにするのはたやすいが、さわが放っておけと言ったため、さわの部屋には誰もが勝手に入れる状態になっているのだ。


 最初は些細ないたずらだった。部屋からちょっとしたものがなくなったり、歩いていると少しすそを踏まれる程度。


 日を追うごとに少しずつ過激さはまし、今日はとうとう部屋を直接荒らされてしまった。


 初日に目立ちすぎたさわは、身分と相まって「卑しい娘風情がガーネットを追い出した」といじめを受けていた。

 



 あの宴の次の日、さわが目覚めたときにはガーネットは後宮のどこにもいなかった。

 王に向けて魔法を放った以上、後宮には置いて置けないと国へ返されたのだ。ネオは、これは異例の処置だとさわに言った。ベガは約束を守ったのである。

 


 あれから毎日、ベガはさわの部屋を訪れる。

 初日はボードゲームの相手をしろと言って、負けたさわの顔に魔法で落書きをした。

 次の日はさわがずるをしてベガに勝った。逆にペンで落書きをしてやった。

 次の日は絵を描いて見せろというので、似顔絵を書いてやれば「気に入った」と抱きしめられた。

 話をするだけの日もあるし、花を届けに来るだけの日もある。

 


――慣れぬ場所で退屈しているのんだろうって心配してくれてるのかな。にあわなーい。


 と、さわは思っているが、実際のところ、自分の退屈をしのぐためにさわを使っているというのが正解であった。

 しかしこうしてベガが訪れているのも、嫌がらせに拍車をかけているのだった。


「でも、困ったなー部屋がこれじゃ、ベガが来たらばれちゃう」

 ベガがいつも訪れる時間まであと1刻もない。さすがに絨毯を変えるのは30分では無理だ。

「では、音の間をお使いになっては? 今日は昨日のリベンジだと仰ってましたからカードゲームでしょう?」

 ネオの申し出にさわはしぶしぶ頷いた。

「あそこ一人になれるから気に入ってたのに」

 音の間はピアノを初めとした様々な楽器が置いてあり、自由に演奏することができる。音楽が聴けるようにソファと机もあるため、ちょっとしたカードゲームならできるだろう。

 


 音の間に姫君たちが訪れることはほとんどない。この世界には高貴な身分の女性が楽器をたしなむ習慣がないからだ。

 この2週間、さわは音の間に毎日通っている。あそこにはピアノがあるからだ。弾かないと腕が鈍ってしまう。


「じゃあマサキ、ベガに伝えに言ってくれる? 私は先に音の間に行って待ってるから、ネオは片付けよろしくね」


 そう言って、さわは一人で廊下を歩く。本当ならマサキを連れたって歩くべきだが、この二週間で、姫君たちのいたずら以外には危険がないことをさわは理解した。

 そのいたずらとて、初日のガーネットほど過激なものではない。

 

 すれ違った拍子に踏まれたすそは、踏まれた瞬間分からぬ程度に立ち止まって、相手が足の力を抜いた瞬間にすっとひく。

 髪飾りがなくなれば、香水を一切つけず香の控え目な生花で見事に髪を飾って見せた。

 ドレスのすそが切られていれば、いっそはさみで短くし、ミニ丈にして着て見せた。



――この後宮、陰険だし陰湿だし、さいってー!! 絶対に負けてやるか!!

 


 そう決意して音の間に向かう彼女は、宴の時のように高貴に見えた。

 そしてその姿は、少しずつ後宮で浸透しているのだった。

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