第11話
扉を開けるその動作からもう、先ほどまでのさわではなかった。
ネオは完成された女性を見て、後宮にお連れする際に自分が施した化粧も、服も、彼女を最高級に際立たせるものではなかったのだと知った。
まだまだ勉強が必要だと、ネオは、一人大広間へと入って行った彼女を見て呟いた。
さわが出て行ってもう2刻、先ほどのさわの様子に驚いた女性たちも、すでに自分を取り戻し、ベガの寵愛を取り合うことに夢中になっていた。
ベガは女たちの様子を、いつものように高いところからただ見ていた。
そんな中音もなく開いた扉から、一人の女性が歩いてくる。
まるで、風が歩いているようだった。
すっと頭の先からつま先まで伸びた姿勢は美しく、薄く蒼いドレスが歩くたびに細い肢体に絡む。
漆黒の黒い髪はハーフに上げられ、髪は複雑に編まれながらも甘やかな雰囲気を壊さない美しいものだった。濡れた様な黒い瞳は、視界にベガを捕らえてまっすぐに進んでくる。
ゆっくりと、優雅に。
周りの喧騒がぴたりと止んだ。
初めは誰も、気づかなかった。これが先ほどこの広間で失笑を浴びた卑しい娘だと。
この女性は誰だと考え、そして初めて気づく。
今ここにいる見慣れぬ娘など、先ほどの卑しい娘しかいないと。
気づけば音楽も止んでいた。
さわは先ほどたどり着かなかった高い場所へ向けて、ゆっくりと歩みを進める。
ベガが座るのは広間よりも少し高くなった場所だ。
さわはその階段の少し手前で立ち止まって、小首をかしげた。
その様子は、さも困ったとでもいいたげな様子。
さわはまたゆっくりとベガに目線を向け、階段をちらりとみてまたベガに視線を戻す。
「おもしろい」
そう笑いながら言って、ベガは立ち上がる。誰も身動きが出来ないこの広間で、何者にも縛られないベガが階段を下りる。
そしてさわの前にたち、ゆっくりと手を差し伸べた。
さわはそこで初めて微笑を浮かべてベガの手をとる。
よく見れば、昨日の格好とは打って変わった凛々しい軍服姿。前髪をあげた先に見える瞳は思ったより澄んでいて、思わず見つめてしまう。
――でも悔しいから絶対に見惚れてやんない。
「さわ」
優しい声で、ベガはさわを高いところへと導いた。
それに応えるように今までで一番の笑みを向け、彼の耳元へ顔を寄せる。
その様子が分かったのか、彼も立ち止まって膝を曲げてみせた。
ほんの小さな小さな声で、さわは男に愛をささやく。
「あんた、女の趣味悪すぎ。このくされ野郎がっ」
それを聞いたベガが、珍しく素の表情で驚いたのが分かってさわはスッキリした。見下ろす広間で、ガーネッが顔をぽかんとしているのが見えた。あのレベルでは競い合うまでもない。貧乏庶民をなめんなよっ。
ふっと笑うその仕草さえ、美しく賢く見えるように演じる。
満足したさわは、さぁ部屋へ帰ろう! とベガの手をあくまでも自然にほどき、振り返って今上ってきたばかりの階段を下りようとした。
すると一瞬でひざを救い上げられ、次の瞬間、お姫様抱っこをされたさわはベガにキスされていた。
それは広間の女たちを覚醒させるには十分で、悲鳴が上がった。
「今夜はこいつにする」
キスされた衝撃にさわが固まっている間に、ベガはさわを抱いたまま大広間を後にした。
私は小説を読むとき、続きが気になって仕方がないタイプです。
なので割りと荒い文章のままでも上げてしまいます。
ちょこちょこ直しが入るとおもうので、たまに遡って読んで頂けると、矛盾が少なくなっていると思います。