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プロローグ
「私は私が死ぬことで、誰かを不幸にしたかったわけではないの。
神様、どうか世界に癒しを――」
女神に愛された一人の娘が死ぬ間際に祈ったのは、世界の平穏。
落ちた涙は地面を伝い、神の樹は、彼女の死を悼む。
「むすめ、私の寵愛がお前を殺した。怨むか?」
「いいえ、いいえ。私はあなたに愛されて幸せでした。
そして彼女もまた、あなたに愛されたかっただけですのに、どうして怨めましょう?」
「ならば言え。願いを、祈りを……」
「では、救いを。私の死は戦を生むでしょう。その戦は多くの人を殺すでしょう。
私は、祈りたい。残されるあなたの子供たちの、幸せを」
「その祈り、聞き届けた」
彼女は死の間際に微笑んだ。そして永遠に目を閉じた。