28:体は正直ですよ?
今回はセレネ視点です
意志とは関係なき力
少女はそれでもなお
体が気だるい。家を出る時はそんな事無かったのに。採掘場に行って用事を済ませたら家に帰って休もう。イブンティアを出て少し位したらいきなり頭がボーッとしてきた。こんな時に風邪でもひいたのだろうか?
―ムク山が近くてたすかった……
そんなに厳しくない山とは言っても意外と体力が必要そうだし。何より自分からついて行くと行ったのだからこれまで以上にキョウさんに迷惑はかけられない。戦闘も碌にせずキョウさんに、おんぶにだっこなんて訳にはいかない。
―あと少しは、我慢しないと……
今日中に終わらせなければ、私の為に頑張ってくれているキョウさんの努力も無駄にしてしまう。そして私の夢も……こんな所で終わっちゃう。
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「急いで行かなくてもまだ時間あるからゆっくり登ろう」
時間はあるしゆっくり行こうとキョウさんが提案してくれた。山で傾斜があるとはいえ階段状になっていて結構楽に登れる。けど、魔物をやっつけないといけないんだから気をつけないと。
「なんかピクニックとかハイキングに来てるみたいで……。どうも気が抜けるなぁ」
―むう、キョウさんは危機管理がなってないなぁ
「キョウさん!ダメですよそんなんじゃ!もっと気を引き締めてください」
「……」
まったく遊びに来てるわけじゃないのに。もっとしっかりして欲しいものです。
―ねぇ……
「うわぁ」
何今の声……。思わずキョロキョロして地面にコケてしまった。キョウさんがじっとりした目でこっちを見てる……。声が気の所為ならいいんだけど。
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横は何人か通れるくらいの大きさで結構奥にも続いてそうな洞窟に着いた。何故か洞窟の中からひんやりとした風が迎えてくれた。
―早く来て来て来て来て……
「また聞こえる……」
聞こえないくらい小さな声で驚く。周りに人も居ないのになんなのだろう。
「セレネ?」
「あ、はい……」
気づかなかったがキョウさんが何か言ったらしい。キョウさんには悪いけど聞くよりもこの謎が凄く、妙に気になった。それに、何故だかさっきよりも体が重い気がする。
―早く来て来て来て
中を歩き始めてから段々声が大きく聞こえる。
―来て来てきて
五月蝿すぎる。現実と間違える程ハッキリと聞こえるようになってきた。早く帰りたい。でも前に光が見えてきた。ロウソクの淡い光だ。
採掘場の入口らしき所に来た。石のアーチの様になっている。
「よし、着いた。入るぞ?」
入ろうとした瞬間、悪戯の様な声は一段大きく響いた。
―コイコイコイコイ
「行きましょう……」
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採掘場の中に入ったけど体がダルい。視界がボヤけて来た。酷い風邪にでもかかったのかな。倒れたら迷惑かけちゃう。
近くにあった木箱に寄りかかる。
―キョウキョウ
頭の中の声だけはやけにハッキリと聞こえる。キョウさんに何があるの?―そう思ってキョウさんの方向を見た時。その奥に見慣れない黒の塊が何かを持っていた。直感的に悟った。
「右危ない……」
キョウさんが避けると壁にはツルハシが刺さっていた。いくら何でもそれは怖すぎる。
―フフフフフフフフフ
頭の中で笑った。ずっと笑っている。止まない。今度は笑い声が反響して止まない。
―アハハハハハハハハ
声は一段と面白そうに、狂っていく。頭が痛い。止めてほしいのに。
―アハハハハハハハハハハハ
頭が割れるように痛い。もう限界かもしれない。
もう全身に力が入らない、地面に座りこもう。
無理。倒れそう。倒れよう。地面に倒れた。
―アハハハハハハハハハ
狂乱の笑い声と共に意識が掠れ始める。目の前では誰かが戦っている。
―オヤスミ
視界は闇に染まっていった。




