27:終わりから始まり
死への一閃と一撃
勝負は何時だって分からない
―ジュッ
「ああああぁぁぁ!!」
―痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
鋭く如何にもよく切れそうな爪は予想以上の鋭利さでキョウの腹を抉った。
その爪は身体能力上昇の影響か先ほどよりも特段尖り、鋭く、より殺す形になっていた。
「――っ!!」
痛みで意識が飛びそうだ。腹を裂き内臓にまで達したのだろうか、血が止まらない。
―husyuuu……
頭上では満足げな笑いを含んだ声が聞こえた。血が爪から滴り傷口が酷い状況になっている事を示していた。
「セレ……早く、逃げろ……!!」
自分の事でも手一杯だがセレネを逃がそうとする。最悪、自分だけ死ぬのならいいがセレネを巻き込む訳にはいかない。
「セレネ……?」
見える範囲に姿が見当たらない。逃げてくれているのならそれでいいのだが妙な胸騒ぎがした。しかしそんなこっちの事情を真上の敵が察する訳もなく、今度は足を振り上げる。
「まず……」
手でガードの体勢を作ろうと思った時にはもう遅くその足は体に向かって来ていた。
―ガンッ
背中が思い切り壁に打ち付けられる。肺の空気が押し出され一瞬呼吸が出来なくなる。血がさらに吹き出し痛みなどはとうに超えて感じなくなっていた。
体に力が入らない、もう限界だ。それでもセレネが逃げる時間を稼がなければいけない。
「……」
喋る気力も無い。這いつくばってでも時間を稼がなければ、その一心で動こうと試みるもやはり変わらなかった。
掠れる意識の中に光が見えた。
「――?」
光はすぐ上から来ている。首は辛うじて動かせるため上を向いてみる。
「……ぁ」
カンテラの光を反射しキョウの真上で光るものがあった。気づかなかっただけで輝きはずっとここにあったらしい。
――きれいだ……
透明の輝きはロウソクの光を受け虹色に光っていた。頭上を舞う天使の如く、そこでずっと輝いている。
――こんなところに……あったんだ
アクロンの輝きを受けながらキョウの視界は完全に暗くなり、世界を闇に染めた。
「……」
そんな事をお構い無しに動かなくなったキョウを見つめる1匹。まだ滴る血が傷の深さを物語っていた。
これを好機と再び爪を構える。理性の代償として得た一時的な力とは言え、まだキョウが挑むには早すぎたのかもしれない。
―syaaa
短く、息を吐くように鳴く。勝ち誇った様な顔はいつもの下卑た笑みよりも牙を剥き出しにしてより本性を覗かせる顔になっていた。
「……」
爪を構え最後の攻撃を繰り出すかと思えば思いとどまった様に爪を収納し手をキョウの前にかざす。
どこまでも狡猾で意地の悪い悪魔らしいやり方。キョウは完全に動けない事を確認した上でさらに能力によって土を形成しキョウの胸を囲うように拘束する。
―haha……
勝利の笑みを浮かべる。歯向かったものに相応の罰を下せるのが勝者の特権と言わんばかりに最後まで希望を切り捨てていく。
今度こそ準備が終わったのか再度爪を出し構えた。
「お……わりだ」
ようやく怒りは収まったのか理性が戻り言語も冷静さも取り戻し完全な勝利を告げる―はずだった。
「なn……だ?」
異常な殺気、振り上げた手が動かない。目の前で腹を裂かれて倒れ、意識を失っている少年が見える。
なのに何故?誰が腕を掴んでいる?悪魔には理解出来なかった。
―gaaaa!!
腕を掴んでいるのは少年の横にいた少女、の様なもの。だがそれとは全く異質で、少女と呼ぶには程遠い存在が悪魔の目の前には立っていた。
次回はセレネ視点です!




