26:ピンチはチャンスですよ?
貫く視線と槍の一閃
悪魔と踊る魔人
「まず……その羽だっ!!」
気合を込めた一閃。悪魔は再び避けようと空を飛んだ。相手が羽を狙っているのならスレスレを避けて遊んでやろうとわざと少し遅めにした。まずは弄び体力が尽きた頃にいたぶってやろう、と。
――だから馬鹿なんだよ
しかし悪魔が避けようとした時、何故か槍は羽の位置では無く体の真正面に来ていた。
「アブナい!!」
――プシュッ
胴体を横に滑らせ運良くかすり傷程度で済ませた悪魔。体勢を建て直そうとフラフラしながら地面に着地するのをキョウは見逃すはずもなく追撃する。二撃目は槍の先で切り裂くように悪魔を狙った。
「……!!」
フラフラとしていた悪魔は追撃を喰らうまいと避けようとしたが間に合わず羽の先が切れる。
――パスッ
羽の先が血を吹き出しつつ地面に落ちる。かなり痛そうにしているが今度は羽では無く足を使い三度目の攻撃を拒否した。
「ガキのくせにイィい!!」
「知ってるか?槍の使い方って突くよりも叩く方が多かったらしいぜ。ただの人間が叩くくらいなら普通に痛いだけだが……魔人だったらどうだろうな?」
思い知ったか、と格好つけてみる。さらに思い出した事も付け加えより格好をつけてみる。
「あと……羽って言いながら体を突いたのは作戦だ。お前も同じような事しただろ?奇襲なんて卑怯だよなぁ?」
―fsyuururu……
完全に怒らせたようだ。本能剥き出しの顔、言語を忘れているレベルの怒り。弄ばんとしていた獲物がここまで自分を追い詰めていることに自尊心が傷ついたのだろうか。
「もっと怒れよ!!判断力が鈍ってやりやすい」
―fsyaaaa!!
「はん、ただの魔物と変わんねえな」
立場が入れ替わったように悪魔を下に見る。だがこの煽りが命取りだった。さっき仕留めていれば良いものを調子に乗りすぎた。
―ユルsan……!
怒りに燃える悪魔が手を振りかざす。
「――ぇ?」
気付けば悪魔から何故か距離が遠ざかっている。しかもかなりの速度で。
―ドン!
と広場に響く。意識が飛びそうだ。突然の事に戸惑いながらも槍を地面に突き立て立ち上がろうとする。
自分もまずい状況だがセレネにも気を配らなければいけない。
「なんでだ……よ……」
前方を見ると覚えの無い岩が地面に転がっていた。かなりの大きさ、あれが勢いよくぶつかれば人くらいなら吹き飛びそうだ。そこでハッと気づく。
「もしかして……能力持ちか!?」
今度は悪魔が笑う番だ。いかにもしてやったりという維持の悪そうな顔をしていた。
―hahahahaa……
あの大きな岩は恐らく能力で出した物だろう。
「だとしたら……ここはやばいな……」
周りを見渡す。岩、土で構成された広場が広がっている。
「土を操る能力だったら……」
余裕ぶっている事は出来ないらしい。作戦を変え短期決戦へ持ち込む。
槍を突くのではなく叩いて殴る方法に変えもう一度悪魔に向かっていく。悪魔は突っ込んでくるキョウに再び手をかざす。
「――?!」
槍が届きそうなあと一歩の所で足を取られ地面に倒れる。足が土の塊に引っかかっていた。
―husyaaa!!
その気を逃さず足を蹴り上げキョウに猛烈な速さで近づき爪を振り上げる。
「ラアァ!!」
背中を思い切り打ったものの倒れる時に槍を手放さなかったのは運が良かった。悪魔が爪を振り下ろした瞬間槍を横して持ち爪の連撃を防ぐ。
―raayaa!!
倒れるキョウへの連撃は止まらない。足が土で固定されている以上土を振り払うまでずっと耐えなければいけない。攻撃が当たるのは時間の問題だ。
しかしその予想は楽観しすぎたものだった。
―ギィン
槍が攻撃に耐えきれずキレイに裂かれ2つになる瞬間が目の前に映った。
――やばい
そう思った頃にはもう遅く、悪魔の一撃が一段と高い位置から振り下ろされるのがゆっくりと見えた。




