25:足元以外も危険ですよ?
卑劣な笑みは悪魔のシルシ
苛烈な闘いはさらに激しく
採掘場には思った以上に広場らしい作りで物が散乱していた。ヘルメット、採掘道具と思われる物に謎の木箱。ロウソクがついていたからつい最近まで人はいたはずだがそれにしてはかなり荒れている気がする。魔物が作業中に入ってきて逃げたまま放置された、とか色々考えを巡らせいた時。
「右危ない……」
気だるそうなセレネの声が聞こえる。何かあるのか確認しようと言われた方向に向いた刹那、
―ブゥン
「何かき……ッ!」
何か来た、の台詞を言い終わる前に凄まじい音を立ててこちらに飛んでくるものがあった。目を見開く。
もし人間のままだったら飛翔してくるそれに当たっていたかもしれない。感謝すべきか身体能力、動体視力が上がっているため一瞬で判断し少し上半身を仰け反らせることが出来た。何かは文字通りキョウの目と鼻の先を通り壁に刺さった。
―ザシュッ
「あぶな……すぎでしょ……」
飛んできたものをよく見るとそれはツルハシだった。そこら辺に捨てるようにしてあったツルハシの1つだ。あの鉄の塊を今の速さで喰らっていたら気絶とかそのレベルでは済まされない。
「アー。外すとかオレっちは何してるンですかね〜」
「ぇ……」
「――誰だお前」
怯えるセレネ。気づかなかったが何時からいたのだろうか。ツルハシが飛んできた方を見ると全身青っぽい人型の何かが立っていた。だが明らかに見たことのある姿だ。人から黒い翼と角は生えない。魔人ならば分からないが人間の頃に時折見た事のある姿。
「アー、知らなくてもイイのに。聞いちゃう?オレっちは……つっても下級悪魔なんでネ。名前なんてないよ」
人間界が追い込まれた時、時々地上で見たことのある姿。奴らは羽を使って空を飛び、飛べない人を嘲笑う。奴らは爪を使い裂かれた人を愚弄する。
「何故ここにいる。答えろ!!」
怒りがふつふつと湧いてきた。身体は魔人になってしまっても心と頭は人を忘れる事は出来ない。
「ンー、そんな怒るなよ。オレっちだってやりたくてやってるワケじゃあないさ。でもサ、やれって上の人に命令されちゃったカラね〜」
何故かは分からないが恐らく退く気はないらしい。リュックに雑に付けていた槍を取り出し握りしめる。
「アー?オレっちとやるつもりなノ?無理に決まってるノに?」
――うるさい
「オマエタチはオレっちが捕まえようと思ってるのにぃ……。じっとしてれば痛い目に遭わないゼ?」
――うるさい
「ンー。止めた方がいいのに、サ」
「――黙れ」
静寂が広場を包む。聞こえる音は熱くなった自分の荒い息だけだった。
「身体能力上昇……」
「はぁ……。ホンキなんだネ……」
もう一度握りしめる。自己流だが割とコツは覚えた。自分が今試されている。自分の為だけじゃない、少女の為にも負ける訳にはいかない。相手が卑怯な手で責めてきた以上こちらも勝つためには手段を惜しまずにいくつもりだ。
一瞬は永遠と思える程に永く。その目は敵を見据えたままで。
足に力を入れ踏み出し槍を持つ手は前へと、眼前の敵へと突き出す。予想などせずただ速く前に打ち出す。
――シュッ
少し前に投げられた鉄の塊と変わらないくらいの音を出す。
「オーーっと。危ないなァ……」
槍を見て空へと逃げる。羽のある、飛べるものだけの特権だ。それを馬鹿にするかのように見せつけ飛ぶ。
「ソッチがその気なら……やらせてもらいますヨ」
ふざけた様な言い方が毎回癪に障るがやる気になったようだ。セレネは後ろに下がりお互いを見ていた。
「まずは……その羽」
狙いを澄まし今度は持ち方を少し変えた。気づかれてはいないようだ。
「羽から……いこうか」




