16:目的と目標
歩き出す少年と少女
2つの劣等はどうなるのか
「はぁ……ちょっとだけ休憩しようか?」
息を切らしたキョウの提案にセレネが答える。
「はい、流石に疲れましたね……しかも道が結構険しい感じですし……」
2人はイブンティアに向かう途中にいる。認識が甘かった。魔人の言う時間なんてもう信用しない、そう思うキョウ。
―1時間位で着くと思うわ……
とプリンが言ったのを思い出すがそんなのをとっくに超えて2時間以上は休み無しで歩いている気がする。セレネもプリンに同調していたけどよくよく考えてみたらイブンティアで親の手伝いをしているだけの少女。つまりイブンティアの外など知るわけがなく。
嘘をついていた訳では無いだろうが知らないと思われるのが嫌で見栄を張ったのか……
「しかしイブンティアのイの字も見えねえな……」
かなり歩いたからもうすぐ着く、みたいな実感が湧かない。近いはずなのに遠い。きっとまだ道は長いのだろう。
「でも……キョウさんと一緒で良かったです……」
「え?」
小声で呟いたセレネの言葉に思わず反応してしまった。セレネも聞こえてないと思ったのか慌てる。
「いや、あのっ。なんていうかですね、私一人だったら心細くてイブンティアまで戻るなんて出来たかどうか……だからキョウさんがいてくれてとっても嬉しいなぁ、って」
えへへ、と照れ隠しの笑いが見えた。正直頼ってもらえるのは男としても人としても嬉しいものだ。
「ん、そうかな……ありがとう」
褒められてこっちまで照れてしまう。嬉しいけど上手く反応出来ない。
「ところで、キョウさんはイブンティアに目的とかあるんですか?」
―ん……
「なんも考えて無いんだよね……まぁそもそも魔界に来るなんて思ってなかったし。イブンティアどころか他も目的なんてないんだよ」
苦々しい顔をして少し笑うセレネ。
「そうですよね……魔王が悪政を敷いてからかなり魔界の様子は変わったと聞いたことがあります。でもイブンティアに居た私には関係なかったんですけどね」
でも、と続けるセレネ。
「私は目的が無くても目標があるんです」
「目標ね?どんな感じのやつ?」
「それはですね……この能力を使いこなせる様になって冒険してみたいんです。それである宝石を見てみたいんですよ」
―宝石、ねぇ
いかにも女の子が好きそう、みたいな物の代表が出てきた。それは人も魔人も大して変わらず。
結局煌びやかな輝きにいつだって誰だって心を奪われるものだ。
「それ、どんな宝石なんだ?」
「その宝石は〝ブラックダイヤ〟と言うんです。ダイヤモンドなのに見た目は黒く透き通っている。それの持ち主は莫大な財と力を成すという謂れがあるんです」
「財と……力?」
宝石なのだから財は何となく想像はつくが力とはなんなのだろうか?しかしセレネもよく分かっていなさそうだし深く考えるのはやめよう。
そう考えキョウは立ち上がる。
「セレネの話も聞けた事だし。そろそろイブンティアに向けて再出発、しようか?」
「そうですね。もう行きましょう!!」
セレネの目標は確認できた。ならば自分に出来ることは限られているとキョウはイブンティアでの目的を1つ決め、道を進み出した。




