13:能力は色々凄いですよ?
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美しい銀の呪い
深い闇に映る姿は
異変に気づいた。いや、異物に気づいた。
「誰だ、お前」
セレネが明らかにおかしい、本能的に反応するキョウ。
「ワタシ?セレネデスよ~?」
――これが……死霊術の暴走……?
「ソンなことヨリキョウサン!! ハヤクタスケテホシイナ〜」
恐らく抑えていた死霊術が暴走した事により本人に霊が憑依したらしい。性格は静かでおだやかだったのに気持ち悪いほど人懐っこくなっている。
「これ、どうすんのよ!? セレネちゃんがまずいわよ……」
あまり感情を表に出さないプリンも焦りと驚きで声が高ぶっている。
「落ち着け、プリン。どうにかするから……」
内心1番焦っている元人間が必死に宥める。こんなものは見たことがない。多分魔界に昔から住む魔女の方が色んな経験は多いはずだが、対処法は分からないらしい。
「キョウサン?ネエ、タスケテクレないノ?ヤダヨ、ソンナノ……ハヤクタすケテヨオ!!」
半狂乱になる異物。これを抑える方法などプリンとキョウに分かるはずがない。今できることなど宥める以外には無い。
「ヒドイヨ……ウソつくナンテ……」
「ソンナキョウさん、なんて……コロシタクナッチャウ」
悪寒が走る。血の気が引く。本気で殺そうとしている。目の前の少女が、異物が、霊が、セレネ自身が自分を殺そうとしている。
「……ッ!!」
声にならない声をだす。隣にいたはずのプリンはさっきからずっとキョウの後ろにいる。後ろからセレネの様子を伺っているようだ。
「キョウサン、キョウサン、キョウさン、キョウ!!!!」
半狂乱は次第に発狂へと変貌していく。
「キョウ!! コロスコロスコロス!!!!」
――まずいな……
予感は的中する。悪い予感ほどよく当たるというのはあながち間違いでは無いことを実感する。
セレネはキョウに向かって飛びかかってきた。
「キョウキョウキョウキョウ!!!!」
弱々しい少女?否、これはただの化け物の力だ。キョウに飛びかかったセレネは首を絞めた。凄まじい握力。目は完全に見開いている。
「やめ……やめろ……セレネ」
迂闊にセレネに手は出せない。取り憑かれているとはいえ相手は女の子だ。手を出す事を躊躇しているのではなく、やりすぎない事を考えているのだ。
――劣等召喚じゃどうしようもねぇ……
「……身体能力上昇……」
首を絞められそろそろ限界だ。意識がギリギリのところを霞んだ声で能力を使う。
「すまん、セレネ!!」
身体能力上昇により腕に力が入る。キョウの首を絞めている細腕を力いっぱい引き剥がす。
「きゃっ!」
腕を引き剥がし押したことにより化け物は尻もちをつく。そこをチャンスと言わんばかりにプリンが何かをセレネに巻き始めた。
「キョウ手伝って!! ロープ結ぶ」
手に負えないと考えたプリンは頑丈そうなロープでセレネを縛り付けるつもりらしい。
「アアァァ!!!! キョウ、キョウ!!」
縛っても縛りきれない狂乱、狂気がそこにはあった。協力したことでセレネは静かにこそならないものの身動きは取れなくなった。
「ごめんねセレネちゃん……」
相手がこんな状態にあるとはいえ本当は少女。形上だけでもプリンは謝る。
――どうしようか……
目の前でもがく狂気。その目はもうセレネの綺麗な黒には見えない。底なしの闇、虚ろな黒、焦点は定まらずただどこかを見ながら苦しんでいる。
「アア!!ハナセ!!ハナセ!!ハナシテェ!!」
必死に拘束を逃れようと暴れるがそう簡単には解けない。あまり近づきたいものではない、暴走が収まるまで待機を決め込む2人。
「どうしよう、キョウ…… これ戻るのかな……」
「分かんねえ……な」
気を失っているとか酷い怪我を負っているとか具体的な対処法があれば助かるのだが。何せセレネの能力がよく分からないから時間の経過を待つしかなさそうだ。
しかし一向に収まる気配は無い。今も拘束の中で暴れている。
「分かんねえ……」
悩む。ずっとこのままではどうしようもない。魔物は睡眠が必要ないと言っていた。唯一必要なのは食事、つまりずっとこのまま暴走が収まらないのなら体力の限界まで待つか、食事を与えない ―餓死の選択も有り得るということ。
化け物に近づくキョウ。
「何するの……キョウ?」
「このままじゃ埒が明かないだろ」
分からない解決方法、だが何故そう思ったのかは分からない。本当に解決すると思ったのか、キョウが転生したように何かの因果を信じたのか。
気づけばキョウはセレネの前に立ち両手で優しく顔を包んでいた。
「セレネがホントに俺の事を殺したいって思ってんのかは分かんねえ。それが誰かに恨みを持った霊の意見だって信じたい」
キョウは続ける、子供に諭すように。
「でもさ、こんなことしてちゃ解決しねぇ。何がキッカケになるのかは分からないけど嫌なことがあったりとか何かある度にセレネに取り憑いて恨みを晴らそうなんて馬鹿馬鹿しいだろ……?」
セレネは、悪霊は聞いているのだろうか。目の前の虚な眼差しを見ると吸い込まれそうな位だ。
「頼む……セレネは必死に戦ってんだ。よく分かんないままお前と戦ってる。だからさ、収まってくれよ……」
虚ろな黒は、闇はまだそこにある。だがキョウの手には温かいものが当たっていた。
「約束する。セレネは助けるって。お前の事は俺じゃどうしようもないけどきっとセレネが解決してくれる……」




