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人の夢は儚くも眩しい。

かつて夢見たものが現実になる。

それは挑戦を繰り返し、ひたすらに邁進した先で努力が結晶化し起こり得る、ひとつの奇跡のような事なのだろう。


今まさに奇跡を起こさんとする者たちが此処に集っていた。


「カケルっ、魔法だよっ!幼女神の与えたチカラは魔法だったんだ!!」


自分の推測を実証しようとカケルに熱弁を振るうのは、先日まで自宅へ引き篭もり蓄えた文献-ラノベ-の知識を頼りに神の試練へと挑む男、ハジメである。


「ハジメの言う理屈は分かるけど、魔法なんてどうやって使うんだってのっ!そりゃ俺も憧れはあるけど現実的じゃないだろ?」


先程まで別件で駆け回っていた所を呼び戻されたと思えば、いきなりの空想理論を怒涛の勢いで説明された後、魔法を使え、と言われて困り顔のカケル。


その側には胡散臭い者を見る眼つきでハジメを睨むメグとユイの姿もある。

顔面偏差値の高い二人にジト目で見られてたじろぎながらも、自身の提唱するファンタジー理論を撤回することは無く、むしろその情熱は加速していく。


「レベルアップの恩恵である身体強化はあくまで副産物でしかないはずなんだ。モンスターは倒されると粒子となって消えるんだろ?それはモンスターを構成するのが魔力だからだ、ならばレベルアップは魔力を吸収する事で起きているって考えられないか?」


文献-ラノベ-の知識を総動員して考え得た現状に対しての意見をスラスラと述べていく。


「ですが、魔法なんて確認されてません。仮にその説が正しいとしても魔法を使える事には繋がらないのでは?」

「ん、ユイの言葉に同意だね。魔法なんて確認されてないし、ほんとに期待していいの?この新人。」


否定的な言葉を前に膨れ上がった情熱が僅かにしぼんでいくのを感じながらも、どうにか食いついていこうと反論を探すハジメ。


「なははっ、魔法か!思い切った事言うなぁ、いいんじゃない?俺は乗っかるぜ!」


唯一の救いはカケルが味方に付いた事か。

だが、盲信してくれる程甘い味方ではない。


「ただ、魔法なんてどう発動すんのかも分かんないし、検証班の中でも挑戦した事もあるからなぁ...具体的にどうすりゃいいのよ?」


思わず言葉に詰まる。


魔法、それはファンタジーの世界においては定番と言っていい程にありがちな設定だ。

一口に魔法といっても、ファンタジーを描いた空想世界の数だけ魔法は存在する。

時には精霊の力を借りて行使する超常現象であったり、自身の魔力を練り上げイメージを現実へトレースする様な魔法もある。古い物語では空気中にあるマナを取り込み、自身の中でオドと混ざり合わせ擬似的な自然の一部になる事で魔法を発動する様なものまで。

様々なカタチを取る魔法を口頭で説明しろと言われても、そんな簡単なものではないのだ。


ましてやハジメはまだレベルアップを経験していない。

感覚的な部分もある魔力や魔法の存在を、未だに一般人でしかないハジメに実践して証明する事など出来ないのだ。


ぐぬぬ、と口を噤む事になるハジメを見てどこか勝ち誇る様なユイだが、彼女とて何一つ結果を出せてはいないのだから妙な光景である。


「カケル、とりあえず魔法云々に関しては俺がレベルアップをした後で色々挑戦するからさ、とりあえずは保留にしといてよ。」


肩を落としながらも魔法を諦めきれないハジメは、現状レベルアップを優先する事が大事だと思いカケルへと声を掛ける。


そんな友人の姿を見て何処か楽しげな表情で軽い返事を返したカケルは、んじゃ行くか、と散歩にでも行くような気軽さでモンスター退治へ誘ってくる。


カケル、メグの後を追い、拷問部屋もといユイの研究室を出たハジメを待っていたのは、筋骨隆々な身体付きで厳つい顔をしたリュウである。


「リュウ、とりあえず軽く狩りに出てハジメのレベルアップ済ませる予定だから、案内お願い。メグもフォローよろしくな〜」


明らかに嫌そうなオーラを前面に出したリュウとメグを尻目にそそくさと準備を始めるカケル。


気まずい空気の中おもむろにリュウが口を開けば出てくるのは罵倒一色。


「おいっ、俺たちは子守する為に此処に居る訳じゃねぇんだ、邪魔になるようならモンスターの群れに置いていくからそのつもりでいろよ、子豚ちゃん。ははっ」

「ん、リュウ程厳しく言うわけじゃ無いけど、あんまり足引っ張らないでね。」


結果を出せていないとはいえあんまりな状況である。

やはり人と関わるのは面倒だな、なんて思いながら家から持ってきた物を身に付けていく。


安全第一と書かれた黄色いヘルメットに、転倒保護の各部プロテクター、何処かで聞いた万能武器シャベル。

その他にも対モンスター用にいくつか小物を準備してきているが、それは追々に紹介する事にしよう。


プロテクターを装着する為に、中腰の姿勢で黙々と準備をしていれば、正面から掛けられた声に顔を上げる。

その瞬間に軽く押されて後ろへ翻筋斗打つ羽目に。


何事かと正面を睨みつければニヤニヤとしたリュウと見知らぬ男性が一人。


「すまない、大丈夫か?」

「おいおいタモツ、手なんて貸さなくても良いって。どうせこいつもモンスターを前にしたら逃げ出すような腰抜けだろっ」


せっかく手を差し伸べられているが、流石にここまでやられては黙ってはいられない。


「好きに言ってろ、俺はカケルと肩を並べて最前線を走るって決めたんだ。あんた達にどう思われようが知った事じゃ無いねっ」


苛立ちに任せ言いたい事を言い放った後は、そそくさとその場を退散する。


背後で笑い声とそれを窘める声が聞こえてくるが、聞こえない。聞こえないったら聞こえない。


そりゃ自分は、特別な才能なんてないし、これまでの人生でひとつのことを極めようなんてしてこなかったが、それでも、これほどまで笑い者にされるほど失礼を働いた訳じゃ無い。


心に鬱憤を溜め込みながら、準備を終えたカケルの方へと近付いていく。


「カケル準備は出来た。最初のレベルアップまでは迷惑を掛けると思うけど、よろしく頼む。メグもよろしくお願いします。」

「なははっ、ゴブリン相手なら負けるような面子じゃあ無いし大船に乗ったつもりでいろよっ!ま、その後は期待してるけど、なっ」


バシッ、と背中を叩かれ気合いを入れられるも、力加減を間違えているだろと悪態を吐きたくなるような威力に思わず前へよろける。


-ぽふっ


柔らかい感触に顔を上げれば、顔を真っ赤に染めたメグの顔が目前にあり驚いていれば、顔面に側面から強烈な衝撃。


バチィン、と良い音を鳴らしながらブレる視界と身体に走る痛みにハッとする。

身体の要所を守るように装着されたプロテクターのおかげで、大きな怪我を負う事は無かったが打たれた頬はジクジクと痛む。


「ごめん!わざとじゃ無いんだ、本当にごめん」


何が起きたのかが分からない程に鈍感では無いので、即座にメグの方を向いて謝罪をすればケラケラと笑うカケルと顔を赤くしたメグの姿。


「ん、今の一発で今回だけは許してあげる...次は無いから。」

「なははっ、流石はハジメっ!早速に王道のラッキーすけべとは魅せるねぇ〜ぐへっ」


ふざけ切った態度のカケルに軽くパンチをぶつければ、オーバーリアクションで対応するカケルの姿に先程までの苛立ちも緊張も何処かへ行ったようで、相変わらずコイツは、と未だふざけた態度の友人に心の中で感謝を告げる。


後ろからリュウとタモツと呼ばれた男性も追いついて来たようで、出発する事になった。


「あ、この無愛想な面構えの奴は橋下保-はしもとたもつ-呼び名はタモツだな。タモツ、こいつが期待の新人ハジメだ、よろしくしてくれ」

「...どうも。」「あぁ、よろしく頼む。」


カケルの紹介もあったので、一応挨拶だけはしておくが、先程の件でリュウとタモツの二人とはどうにも仲良く出来る気がしない。


「んー、まぁいいか。とりあえずしゅっぱぁあつ!」


カケルも何か思う所はあるようだが、何か追及してくる事もなくスタンピードへと歩を進める。


何処か不穏な空気が流れる中、ハジメの初戦闘が始まろうとしていた。



ニートのダンジョン攻略記、初レベルアップへ向けて前進!!

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