凄い奴は大体思考がぶっ飛んでる説。
部屋を静寂が支配する。
誰もが口を閉ざし、掛けるべき言葉を探すも見つからずに口を開こうとすれど、沈黙は破られない。
身動ぎする音だけがやけに響く。
数十分前に開始された、自衛隊によるスタンピード掃討作戦は案の定、失敗に終わった。
心の何処かではやはり期待していた部分があったのだろう。
成功の可能性は低いと予想していた自分でこれなのだ、両親の失望感はどれほどか。
(この結果は想定していたはずだ、これまで散々支えてくれた両親を今度は俺が支えなきゃいけない!)
心に到来する義務感にも似たやる気を奮い立たせ、両親に掛ける言葉を探す。
「父さん、母さん、大丈夫だよ。俺がなんとかしてみせる。伊達に引きこもって文献-ラノベ-を読み漁ってた訳じゃないからっ!対策は考えてあるよ!!」
僅かな逡巡の末に、絞り出した言葉はどれほど信用してもらえただろうか、少し震えた声は両親を安心させられただろうか。
不安な心境を察した様に、母から告げられる言葉はこんな時でも自身を労わる言葉ばかり。
その事実に自分の力不足を痛感する。
「とりあえず、連絡をつけたい奴がいるし、調べたい事もあるから部屋に戻るね。」
逃げる様にして自室へと戻れば、扉を閉めた途端に募った感情が爆発的に加速する。
(自衛隊もっと頑張れよっ、銃火器が駄目なら近接武器とかさぁ!!)
(大体、海外での失敗例がある以上対策くらいしてなかったの!?俺でも考えつくのに何で、何でだよ...。)
何処か胡乱げな表情でぶつぶつと呪詛の言葉を呟くはじめの姿は、とても物語の主人公たる得るとは思えないが、そんな事ははじめには気にしている余裕は無い。
先程リビングで両親を安心させる為とはいえ、大見得を切ってしまったのだ。
早急に対策を考え、行動に移していかなければ時間は有限であり、またそう多くは残されていないのだ。
ひとしきり毒を吐いた後、おもむろに取り出した携帯の着信履歴から友人の名前を探す。
ダンジョン騒ぎが起こった後すぐに連絡をくれた友人、御堂カケル-みどうかける-。
小学生の頃からの付き合いである彼は、一言で言い表すなら<悪童>である。
いつも先頭に立ち、遊びも悪さも全て率先してやるくせに、妙に賢くよく回る頭脳は大人達を言い包めた事は数知れず、その姿に子供の頃は憧れた時期もあったほど。
高校の頃にはまった文献-ラノベ-に関しても、勧めて来たのが彼である。
共通の趣味を持ったカケルとは、妙に馬が合い。
引きこもった後でも時折、連絡を取り合う数少ない友人である。
-ツーツーツー、プルルルル、プルルルル
数回のコールの後に電話に出た彼の声は息が上がっていて、彼が現在走っている様子が窺える。
「あー、取り込み中なら掛け直そうか?」
「馬鹿っ、折角の友との語らいを不意にするわけないだっろっっと!どうしたよ、はじめから連絡くれるなんて珍しい...じゃんっ!!」
電話の向こうで聞こえる喧騒を訝しげながらも、話しを続けていく。
「スタンピードの一件は知ってる?あれをどうにかしたい。何か良いアイデアを持ってたりしないかな?」
「おぉ〜、はじめが乗り気なんて明日は嵐か槍が降るかのどっちかじゃん!?槍が降ったらスタンピードもイチコロか!なははっ」
妙にハイテンションなカケルの態度でふと頭を過ぎった考えに、まさかと思いつつ口にする。
「カケル、お前いま何してんの?」
「え?そりゃレベル上げだろ?ダンジョン物は、レベルアップして無双するのが基本じゃん!」
事もなげに軽い調子の彼の悪童っぷりは歳を重ねた今でも健在の様で、呆れつつも変わらぬ態度に何処か安心感。
「何処のダンジョンでレベル上げしてるの?というか、某匿名掲示板の検証班ってまさかお前じゃないよな?」
「え?あぁ、ダンジョンは封鎖されてて入れないだろ?だから、少数精鋭の検証班で安全マージン取りつつスタンピードちまちま削ってるとこっ!」
まさかの展開にあんぐりである。
参考にしていた某匿名掲示板の検証班は数少ない友人が行なっていて、スタンピードの対処を相談すれば既にスタンピードに飛び込んでいるというのだ。
もはや行動力があるなんて次元じゃあない、思考も行動もぶっ飛んでる。
(さすが<悪童>ここぞって時に頼れるのはガキの頃から変わんないな)
ふいに去来した懐かしい思いに感傷気味になっている暇はない。
すぐさま合流し、自分も力になりたいと申し出れば若干の躊躇いが沈黙となって返ってくる。
それもそのはず。
カケル本人は言わずもがな、共に戦う検証班のメンバーも、現代の日本では尖り過ぎた才能を持て余す実力者達が揃い踏みしているのだ。
はじめが引き篭もり自堕落な生活を送っていたことを知っているカケルとしても、この場に不釣り合いな実力のはじめを参戦させることには抵抗があるのだ。
自分の価値を認識したはじめとしても、友人という立場だけで危険な場所で子守をしてくれと頼めないことは重々承知している。
(まだ終わってないっ!カケルの作った流れは波紋を生み、いずれ大きな波になる。その波はいずれスタンピードを、ダンジョンを飲み込むほどのデカい波だ。だから俺がそれを加速させる!!)
今日一日で肉体の衰えを痛感した。
学生時代の頃の軽快さは失われ、愚鈍な身体は意思に反して動いてはくれず。
衰えた筋肉は、荷物を運ぶ事すら一苦労だった。
引きこもった際に周囲とは距離を置いた自分には、父の様なコネも無いし。
母の様に自分以外を労わる様な優しさも心の余裕も持てはしない。
俺はあらゆる面で劣っている。
一般人以下の身体能力に偏った知識、経済力は無いし、特別なコネクションなんて持っちゃいない。
だからこそ輝ける場面がある。
「カケルっ!俺を情けで連れていけとは言わない。隣で一緒に戦わせてくれ!お前はスゲェ奴だけど凡人はお前の様には輝けない、だから俺を使えっ!!見世物でもなんでもやってやる!最前線を走るお前に食らいついて、俺が凡人の英雄になる!」
僅かな間の後、電話の向こうで響く大爆笑。
「あひゃひゃひゃひゃ、あー面白っ。やっぱりお前が一番面白いわ。凡人の英雄?上等じゃん。周りは俺が黙らせるから、早く来いよダンジョン攻略の最前線へ」
思いがけない所から得ることが出来たスタンピード殲滅のチャンス。
賭けるのは自分の命。
戦いを想像した興奮か、それとも待ち受ける恐怖にか、わなわなと震える身体に力を入れて早速準備を始める。
モンスターと対峙した際のシュミレーションを脳内で行いながら、必要と思う物を次々と鞄に詰め込んで行く。
出発は明日の早朝。
薄暗くなった外の世界は、魔物が蔓延る終焉へと向かいつつある。
だが、はじめの心は妙に晴れやかでやる気が満ち溢れている。
両親を守る為に立ち上がった凡人以下の自分が、スタンピードに抗う姿を周囲に見せる事で、カケルの生んだ波紋を拡げる為の広告塔になるのだ。
人類は戦わなければならない。
ダンジョン攻略の期限は4年しか無いのだ。
画面越しに見たモンスターの姿に、本能が恐怖した。それでも、立ち向かわなければならないのだ。
ならば、笑われても蔑まれても構わない。
両親を守る為に戦う姿を見せて、多くの人を戦いへ誘うのだ。
今は規模の小さな集団も、人々が立ち上がればそれは1つの大きな波を作る。
それは文献-ラノベ-にある冒険者ギルドの様な集合体となり、権力を得る事で更に飛躍していくだろう。
そして、それはスタンピードを殲滅する剣となり両親の様に戦いという選択肢を取れない存在を守る盾になる。
高まる鼓動は眠りを妨げようとするも、疲れ切った身体はあっという間にはじめを眠りへと落とした。
そして運命の朝を迎える。
動き出した物語は全てを巻き込み加速していく。
ニートのダンジョン攻略記は、まだ始まったばかり。
どうも、源助です。
同時に執筆・投稿を開始した小鬼奮闘記と同様に、初の作品でして拙い文章及び、誤字脱字等は申し訳ありません。
文字に起こして表現する事の大変さを改めて感じるなか、読んでくださる方々には感謝の気持ちでいっぱいです。
これからも投稿を続けていきますので、ニートのダンジョン攻略記をよろしくお願いします。