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ニートは蔑まれる現実に心折れる。

「君たちの望みはわかった、そちらの要望とこちらの要望の擦り合わせを行うという事で、もう一度交渉のテーブルに着いて貰えないかな?」

「ええ構いませんよ?こちらは一切妥協する気は無いですけどね。」


にこやかに笑みを浮かべる二人の背後には、修羅か羅刹か、見てはいけないナニカが浮かんでる気がして少し怖くなってくる。


「じゃあ、早速だけど。まずは謝罪を、先程までの失礼な態度申し訳無い。」

「そこのバカ女を使って強引に引き込もうとした件?それとも、それを見ていながらスルーしてあわよくば、なんて考えてた件?」


ニコニコとしながらも毒を吐くカケルを見ていられなくなり、再び先程までの考えの続きへ思考をシフトする。


「勿論、うちの橘が君たちを強引に引き込もうとしてしまった件だよ。当然、彼女の上司である僕が止めるべきだったのだけど、君の話術に引き込まれてしまっていてね。止めるタイミングを掴めなかった事も謝罪するよ。」

「へぇ?まぁいいや。それで?お互いの要望の擦り合わせって言ってもこっちの要望は伝えたけど、そっちの要望はまだ聞いてないけど?」


お、魔石があるじゃん。てことは討伐自体も行なってるって事か、誰がレベルアップした人なんだろ。


「こちらの要望としては、君たちの持っている情報、そしてモンスターに対抗する術を教えて貰う事と、以降ダンジョン攻略をこちらの指示で行なって貰う事かな。当然ながら、十分な支援を行う準備はあるし、危険手当としてそれなりの給金も支払うつもりだよ。」

「ふんふん、それで?それは当初の要望だよね?こっちの要望は自由って言ってるんだけど、妥協点はどこらへん位だとお考えで?」


おぉー、あれって特殊部隊か何かかな?じゃあダンジョン対策本部の討伐担当は彼らか?武器実験をしてるくらいだし、魔法とかはまだ普及してないのか。


「こちらは組織である以上、君たちの完全な自由意思は認められませんが、攻略するダンジョンの選択やスタンピード討伐への正式な参加許可、それにお仲間の要望にあったように、研究施設や生活設備等の提供は私の権限で確約しますよ。」

「その条件で言うなら、今すぐにでもスタンピード討伐に戻る事も許してもらえるって事だよね?別に許しが無くても所有財産の自衛の為にスタンピード討伐に動けるから、そこまで魅力的じゃないね。それに研究施設や生活設備なんてのも頑張りゃ用意出来るし...いらないかな。」


あっちはトレーニング用のフロアかな?あ、すげぇこっち見られてるじゃん。あんな強面の連中に絡まれたら確実に漏らす自信あるな、触らぬ神に祟りなしっと。


「では御堂くんの考える自由の範囲を教えてくれるかな?条件を出して貰えると、僕も妥協点を探しやすいし、どうかな?」

「ええ構いませんよ。まずは俺たち検証班を現場のトップとして貰う事。当然、ダンジョン攻略やスタンピード討伐の際の指揮権もこちらに頂きます。そして、命令に対する絶対的な拒否権も頂きたい。あとは、脱退の自由とこちらの要求する人材の確保ですかね。」


あれ?なんかこっち来てない?あー、なんだろ嫌な予感が凄いするな。

カケルはまだバチバチやってるしなぁ...うわぁどうしよ。


「それは、すぐには決められない様な内容ですね。現場のトップはすでに実績ある方が務めてますし、拒否権や人事権も下手をすれば組織力の低下を生む可能性もあります。せめて独自部隊として動く許可と人道的な範囲に留めた拒否権、そして検証班の増員は意見を聞いた後にこちらで審査した上での人事権がこちらの精一杯ですね。」

「ハジメ、ここの連中を見た感じどうよ?俺らの命預けて大丈夫そうか?」


ぅえっ!?いきなり話し振るなって!!


「...どうかな、俺たちよりかは設備も整ってるし規模も大きいし、わ」

「気を遣わなくていいから、本心で話せって」


あぁもう、カケルの馬鹿野郎。強面の連中がそこまで来てるんだっての!!


「周防くんだったかな?御堂くんの意見だけでなく君の率直な意見を述べて貰って構わないよ。」

「あー、じゃあ素直な感想を言わせて貰います。ここにいる方たちに従ってダンジョン攻略をするのは無理だと思ってます。」


途端に凍りつく空間に、人の本能に備わった危険感知センサーがビシビシと警報を鳴らしているが、もうどうにでもなれだっ。


「...それは何故かな?理由を聞いても?」


おっさん!笑顔が若干崩れてるよ!?


「検証班ではもう武器を使った検証実験は行なってませんし、モンスター討伐に関しても実戦回数はこちらの方が上だと考えています。

当然レベルアップに関しても、検証班のメンバーの方が多く経験している以上は、戦力的にも検証班の方が優れています。それに、これまでの期間でモンスターに対して有効な攻撃方ほ」

「ハジメありがと、充分伝わったと思うからその辺でストップしようか」


さらに緊迫感の増した空間で、笑顔の崩れたおっさんと満面の笑みを浮かべたカケルは対照的で、その光景が何故かツボにハマってしまい笑いが出てしまう。


どうにか嚙み殺そうと下を向き堪えては見たが、この姿を見た強面の彼らには挑発と捉えられてしまったのだろう。

ズカズカと歩み寄ってくる彼らに気が付き、ふと顔を上げた瞬間に、どアップで映った彼らを見て抑え切れず吹き出してしまった俺は悪くない。


「オイコラァ、お前みたいなデブより俺たちが弱いだとっ!?舐めた事言ってんじゃねぇぞ!!」


まるで漫画に出てくるヤンキーの様な台詞に更に笑いのツボを刺激され、頭ではまずいと思っているのに、加速する笑いが止まらない。


胸ぐらを掴まれ、会議室から放り出された頃になってようやく笑いは止まったが、今度は強面連中の怒りのボルテージが止まる事なく天元突破する勢いで上昇していく。


「ちらっと話しを聞いてれば、現場のトップにお前らを就けろだと?お前みたいな素人の下で動いたら、それこそ危ねぇだろうがコラ!」


ど迫力の強面に詰め寄られ、顔が緊張で強張るなか、助けを求めようとカケルを見遣れば、案の定大爆笑。


「あひゃひゃひゃ、ハジメやべぇな、流石の俺もそんな真似出来ないって、あひゃひゃ」

「お前何笑ってんだコラ!?お前らに俺たちプロの戦い直接教えてやるよ、こっち来いや。」


え、俺も?と剽軽な顔で応えるカケルと共に、半ば引き摺られる様にして連れて来られたのは、先程見たトレーニングルーム。


部屋の中央にある拓けた空間に立たされて、あれよと言う間に始まったリンチと言う名の模擬戦。


「あのー、俺って肉弾戦担当じゃあないんですけど?」

「ハジメの担当そっちの奴な、俺こっちの脳筋っぽい奴の相手するわっ」


やけに乗り気なカケルの横で困惑を浮かべていれば、開始の声が響く。


こっちを殺す気か、と言わんばかりの勢いで振りかぶられた拳を転がる様にして情けない回避で躱せば聞こえてくる嘲笑の声。


周囲の歓声や罵声の盛り上がりにまさかと思い、カケルの方に視線をやれば、開幕早々に決着がついた様で暢気に外野を挑発する姿に目を剥く。


「カケルっ、終わったんなら手伝えって!?」

「ハジメ!ガツンとかましてやれ!」


そうじゃない、そうじゃないんだよ。

生まれてこのかた27年、喧嘩なんて一度もした事無い俺にどうしろと!?

第一、初のゴブリン戦だってカケルの戦闘指南が無けりゃ負けてた可能性のほうが高かった俺の戦闘センスの無さはカケルが一番分かってるだろぉおおおおお!?


「カケル、まじなの?」

「マジマジ大まじ本気と書いてマジと読むくらいにマジだぞ、やっちまえよハジメ。あんな脳まで筋肉みたいな馬鹿はワンパンだろ、ワンパン。」


救援どころか相手を挑発するカケルに、いい加減覚悟を決める。

レベルアップを経て身体能力は上がってる。


チャリを十分漕ぐだけで息絶え絶えになってた自分はもういない。

今ここにいるのは、ダンジョン最前線を走る検証班のファンタジー担当、周防ハジメだっ!


意気込み、初のゴブリン戦の時の様に大きな身体をなるべく小さく打点を最小にする様に縮こまって、相手が来るのを待つ。


「おら、てめぇみたいな引き篭もりのニートが意気がって調子に乗ってんじゃねぇぞ!大人しく部屋に籠もってろやっ!」


罵声と共に振られる拳の痛みに必死に耐えながらひたすらに隙を待つ。


狙いは敵の勢いを利用した、カウンターのみ。


「おらっ、ガードばっかしててもダンジョン攻略出来ねぇだろうが!そのまま死ぬまで籠もってろや!!」


散々浴びせられる罵声と痛みに耐え、待ちに待った大振りの一撃。


(ここしかねぇ!!)


拳にぎゅっと力を込めて、対峙する男の顎に狙いを決める。


(一歩、二歩、今だっ!!)


「もう充分でしょ!!」


踏み出そうとした瞬間に目の前に現れた影に、渾身の一撃を邪魔される。


え、と現れた影を見れば今にも泣きだしそうな顔のユイ。


「ユイ、なんで邪魔するんだよっ」

「だってこんなボロボロになって、また寝たきりになったりしたらどうするの?」


もう訳がわからない。

以前二日も意識を失っていたのは、魔力切れによる反動の影響だ。

ガードの上から殴られても以前の様に意識不明となる様な事は起きないはずだ。


対戦相手の男が喧しく罵声を浴びせてくるが、今はそんなどうでもいい事は気にならない。


「ユイ、なんで、あれは魔力切れの所為だから、少しぐらい殴られただけで意識不明になんてならないのは分かるだろ?」


だって、だって、と泣きながら呟くユイを無碍にも出来ず、カケルを見れば相当に機嫌が悪い。


「ユイ、なんで邪魔してんだよ。ハジメが気合い入れて戦ってんだから邪魔すんなよ。」


相変わらず泣いたままのユイにカケルも降参の様で、あぁくそっ、と悪態を吐きながら去って行く姿に心の中で謝る。


「おぅ、女に庇われて良い身分だなぁ、美女と野獣ならぬ、美女と子豚か、はははっ!」


今すぐにでも魔法で焼き殺してやりたい気持ちはあるけども、拳を握り必死に堪える。


「ユイ行こうか。」


うん、と呟くユイに付き添われる様にして、痛む身体を少し引き摺りながらその場から逃げ出す。


「これに懲りたら二度と調子に乗るんじゃねぇぞ、この引き篭もりニートがっ!!」


罵声が心にジクジクとした痛みを与えてきた頃に、離れた場所で見ていたリュウやタモツが迎えてくれた。


「おぅ、狙いは悪くなかった。次はもっと上手くやれや。」


リュウの言葉は嬉しいけども、それ以上に悔しく感じた。


きっとリュウならカケルの様に開幕早々に決着を付けていたのだろう、ゴブリン戦で見た強烈な連撃は今も印象に残っている。


「とりあえず、さっきの条件でダンジョン対策本部に協力する事になったわ。意見ある奴いる?」


不機嫌なカケルに告げられた言葉が、弱った心に刺さる。


(俺がもっと上手くやれてりゃ...くそっ。)


「...ん。カケルの決定なら従う。」

「私も、それで大丈夫。」


早々に返事を返した二人を羨ましく思いながら、言葉に詰まる。


「...ハジメはどーすんの?別に強制じゃねぇし、抜けるなら今しか無いぜ。」

「えっ!?」


カケルの言葉に戸惑いを見せるユイを余所に、決意を告げる。


「カケル、俺はここで抜けるわ。あの強面野郎に言われたからじゃ無いけど、俺には部屋で引き篭もってるのがお似合いだったわ。」

「そっか、今までご苦労さん。ハジメの発想には十分助けられたし、ここらで一旦退くのも悪かねぇよ。」


わりぃ、と力無く吐いた言葉と共に早足で出口へと向かう。


ズキズキと痛むのはきっと殴られた身体だ、と自分に言い聞かせながら背後から掛けられる声に振り向く事無く、俺は検証班との別れを終えた。



ニートのダンジョン攻略記。検証班と別れを告げたハジメはこれから何を思い、何を為すのか。

次回、極楽引き篭もり生活!!保存食は意外と美味い。お楽しみに!(嘘です。)

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