こそこそ活動する英雄ってどうなんだろうか。
煌めきが疾る。
僅かな衝撃を受けたソレは狙い通りに、こちらへと駆け寄ってくる。
その数は三体。
薄暗い路地裏の奥へと誘い込んだソレを囲う様にして迎えるのも三つの人影。
「我が敵を焼き尽くせ、ファイア」
太った人影が唱えた呪文を合図に、頭を吹き飛ばされるソレ、傷口を焦がされる様に切り倒されたソレ、そして燃えながら息絶えたソレが仲良く粒子へと変わっていく。
後に残るのは二つの魔石。
魔石を拾い上げながら、もーすぐで俺も、と怪しい笑顔で呟くのが我等がリーダーの御堂カケル。
弦の調子を確かめながら、次の標的を探り始める暗殺者然としてるのが高遠メグミ。
そして、子供の玩具の様な魔法の杖を翳し、恥ずかしい台詞を吐いているのが俺こと周防ハジメである。
物陰から一つの影が現れ、三人へと近付いていく。
「みんな怪我は無いみたいね。はぁ、出番が...」
とぼやいているのは久遠ユイ、検証班の頭脳担当(補欠)である。
「ねぇ、何か失礼な事考えてない?」
「へ?そんな訳ないじゃん、それより魔法の進捗はどんな感じ?まだ自分にあった属性見つかりそうにない?」
全然ダメ、裏技とかないの?と愚痴を溢すユイに苦笑いを返しながら、彼女のイメージから適正属性を考えてみる。
見た目はクールビューティな彼女だけど、中身は研究大好きなマッドな一面を持つ情熱家。
たまにポンコツな面を見せるも、場を和やかに変える事からみんなの癒し効果も担っている存在。
そんな彼女だから、氷や火、治癒なんかの適正があるんじゃないかと言ってみたが残念ながら魔法は発現しなかった。
ちなみに、メグはここ数日のゴブリン狩りの中で魔法の発現に成功した。
本人曰く、空気に関連する魔法らしい。
らしい、と曖昧な言葉を使う理由は、魔法を使ってもらっても目に見える訳ではなく、その効果を見た目で判断出来なかったから。
だけど、元々優れていた索敵能力が飛躍的に上昇したメグのお陰で、ゴブリン狩りもといスタンピード殲滅は効率がグンと上がった。
それでも、国の決定によってダンジョン及びスタンピードに対して一般人の介入が禁止されてる状態の今は、先程の様にこそこそとゴブリンを誘い出して倒すという動きしか取れない。
「...次呼ぶから準備して、数は二体。」
「りょーかい、二体なら俺とハジメでやるか。現状メグの攻撃は回数制限がキツいし負担も大きいから。」
了解、と短く返し迎撃に備える。
あれから六度のレベルアップを経験した俺のレベルは七、RPG風に言うならLV7の魔法使いってところか。
あくまで、落ち着いて戦える状況の中ならば、という前提条件があるけども、ゴブリンを倒す程度の魔法なら、今のように多少の休憩を挟んでいけば一日中でも戦っていられる。
メグが連れてきたゴブリン二体を危なげなく撃退し、予定した数の魔石を回収出来たため拠点へと戻る。
魔法の対魔物効果がとにかく凄い。
これまで全く通用しなかった攻撃の数々が驚くほどに通じる様になったのだ。
俺のように魔法をそのままぶつける方法。
カケルの様に魔法を纏わせた武器で戦う方法。
メグの様に魔力で具現化した武器で戦う方法。
その全てがモンスターへ抜群の効果を発揮した。
少しずつではあるが、スタンピードの勢いを削ぐ事も出来ているので、当面の目標である両親の救済にも希望が見えてきた。
...拠点で待つ彼女に出会う前までは。
「あら、帰って来たようですね。皆さん初めまして、私は国防総省に所属の橘林檎-たちばなりんご-と申します。皆さま方にはしばらく国防総省に協力していただく事となります。」
背後に控えていたカケルとメグの目に剣呑さが宿る。
「詳細は後ほどお伝えしますが、一応言っておくなら今回の件はタモツの要望で本来なら拘束する所を、協力者として招く形にしています。下手な抵抗はお勧めしませんので悪しからず。」
冷静にこちらの打つ手を潰してくる。
まずはメグが抵抗をやめる。
「カケル囲まれてる、逃げるのは難しい。」
「ちっ、いちいちめんどくせぇ連中だぜっ」
メグの言葉を聞き、くそっ、と悪態を吐きながら両手を挙げて降参のポーズをするカケルに従う形で俺とユイも両手を挙げるようにして降参を示す。
「賢明な判断に感謝します。では、行きましょうか」
検証班のメンバーを乗せた車が行き先も告げられる事のないまま走り出す。
不条理な国の思惑に振り回される形で、自分の護りたいものから離れていった。
ニートのダンジョン攻略記、突然現れた国防総省に所属する橘林檎に半ば脅される形で攫われた一同を待つのは、一体なんなのか。