弓と彼女とクレーター。
魔石を握った右手に力を込め、かつて思い描いた理想を心から願う。
「指先に光をもたらせ、灯火」
魔石から抜け出た魔力が身体を通り、微量のチカラが抜けていく感覚と共に小さな明かりが指先に宿る。
「よし、成功だっ...ああっ」
少し気を抜いただけで儚く消える明かりは、幼女神より与えられた人類の希望の光である。
ひとまず魔法の発現に成功した喜びを皆んなと分かち合いながら、ここに居る検証班の面々で魔法について考察を重ねていく。
「そういえばカケルの魔法ってどういうものなの?俺と同じような明かりの魔法?」
「いや、俺が出せたのはこういうの」
そんな台詞と共に、カケルが伸ばした手の先にパチッっと奔る電撃。
「うぉ、電気...か?火とか水は出せないのか?出せないならカケルの属性は雷?」
「んーそだな、今のとこは水も火も出せない。多分だけどそれぞれに適性があるんじゃないの?」
まずは検証とばかりに、右手で魔石を握り先程の電撃をイメージするも不発。
同様に水が溢れる様なイメージを浮かべてみるもピクリともしない魔力に思わず唸る。
「ハジメ、適性ってなに?」
疑問をぶつけてきたユイに対し、質問は挙手するようにっ!とふざけながらも答えを返していく。
「適性っていうのは、個人の資質っていうのかな?俺が火に関連する魔法しか使えない様に、カケルは雷の魔法しか使えないっていう、人それぞれに合った魔法の属性のこと。」
「へー、じゃあ私の適性ってなに?」
質問は挙手してからお願いします、と返せば、なによ、と頬を膨らませながら詰め寄ってくる残念美人をくるりとスルーしてカケルとの会話に戻る。
「正直なところ、属性適性なんてのは調べようがないからお手上げなんだよな。ファンタジーじゃ水晶なんかで一発なんだろうが、そんなもん無いしなぁ」
「だな、まぁハジメが火ってのは似合ってると思うぜ?昔から結構熱い奴だったし、なははっ」
なんだよそれ、と軽口を返しながらも頭によぎるのは今後への不安。
モンスターと戦う為のチカラを得るためには、どれだけの種類があるかも分からない属性をひとつひとつ試して、個人に合った属性を探さなければならないのだ。
検証班の様に数人なら数日間付きっ切りで試していけばどうにかなるかもしれないが、何十人、何百人となれば掛かる時間は想像も出来ない。
スタンピードが我が家を飲み込むまでに残された時間はそう多くはないのだ。
ただでさえ国がスタンピードが自然と鎮圧するのを待つ姿勢を取った以上、スタンピードを止められるのは自分達しかいないというのに。
「個人に適正があるとすれば、魔法の発現には時間も掛かるだろう。思い付く限りの属性や魔法をリストアップするから、メグやユイには色々と試して貰おう。」
「そうだな、リストの製作は任せるわ。それより、魔法ってこういうのしか無いのかね?聖剣とかさ、魔剣とか憧れるんだけど...どうですハジメ大先生?」
聖剣や魔剣。
ファンタジーでは定番の様なフレーズだが、正直なところ想像が出来ないのだ。
もちろん、過去には聖剣をイメージして書いたこともあるが、装飾過多な西洋剣といった感じになってしまうし、毎回変わるその姿にイメージが固まらないのだ。
幼女神の与えたチカラは、なによりもイメージや信じる心といった不確定なものが作用するように思える為、聖剣を作り出せるとは思えない。
「聖剣ねぇ、例えばだけど聖剣ってどんなのを想像してるの?」
「そりゃ金ピカで格好いい感じの剣じゃね?」
予想通りの返答に半ば呆れながらも、カケルの願いを叶えようと考えてみる。
聖剣っていえば、希望の象徴?強い剣の代名詞?聖なる武器の代表的な?
聖なる剣かで聖剣か、聖なるってのが幼女神の与えたチカラを指すなら、魔法で剣を生み出せば聖剣になる?
思い付くままに試そうとすれば、ちょい待ち、とカケルから止められる。
「二日も意識不明になったのに、まぁだ懲りて無いの?それとも看護されんのがそんな良かったのかなぁ?なははっ」
「え?あ、いやそんなんじゃないって。思い付いたから試そうかなって思って...わりぃ。」
遠くからジト目を向けて来るユイとからかってくるカケルに即降参の意を告げれば、俺が試すから教えろ、と急かされ思い付きを口にする。
-聖剣が出来るかは分からないけど、自身の思い描いた武器なら魔法で創造出来るかもしれない。
曖昧なイメージじゃなく、作りたい物を強く思い描いたならそれは魔力で構成されるのではないかという事。
「そりゃまた夢が膨らむ話じゃないの、早速レベルアップを<何度>もしてる俺が試してやるよ。」
確かにレベルアップを何度も繰り返したカケルの方が魔力は多いかも知れないが、せっかくかっこいい所を見せようとしたのに出番を奪われるとは、ちくしょう。
少しばかり残念ではあるが、有言即実行なカケルをフォローせねばと切り替え、注意点を再度伝えていく。
イメージをしっかり持つ事。
想定以上の魔力を使う可能性があるから、十分な量の魔石を用意する事。
万が一、意識を失った場合はメグをリーダーとして行動していくつもりだと事。
軽い感じで返事をするカケルに若干の不安を抱きながらも少し距離を空ける。
「んんー、おおぉおお、んんー?あれー?」
素っ頓狂な声をあげるカケルにやはり失敗だったか、と思い近付けば、やる気に満ちたメグが魔石を受け取り挑戦しだす。
「ん...大事なのはイメージ、私の思う強い武器を想像する。」
先程までは一人黙々と魔法の発現に挑戦していたが、適正属性が分からないためかイメージ不足か結果の出ていなかったメグが遂にやった。
用意していた20個近い魔石を全て消費して創造したのは、一メートルほどの長さの黒い弓。
驚きのあまり硬直していれば、弓を手にしたメグがいつのまにか側まで寄っており更に驚く。
「ど、どした?」
若干吃りながらも疑問を口にすれば返ってくる答えは至極単純で、弓は出来たが矢が無いと。
文献-ラノベ-の知識を頼りに、矢は魔力で構成して打つんじゃないかな?と返せば、ありがと、と短い返事と共に、その場で弓を構えるメグから急ぎ距離を取る。
スラリと流れる様に弦を引く美しい姿に不覚にもどきっとしながら、その様子を見守る。
弦を引くメグの指先から溢れる様にしてカタチを成す魔力の矢に、ほぅ、と感嘆を漏らしながらも経過を見ていれば、絞り切られた弓がうねりを上げ矢を放つ。
-シュッ、ズバァァァアアアン
およそ弓矢では出せない威力を叩き出したメグの放った一撃は、重機にて押し固められたコンクリの道路に小さくないクレーターを生み出した。
「なははっ、すげー威力じゃん!?これならスタンピード殲滅も見えてきたなっ!!」
「...ん、でもあんまり数は打てない。多分、12、3本が限界かな」
メグの生んだ勝機を我が物にせんと意気込むカケルに、魔石無いから無理だって、と宥めながらもスタンピード殲滅へ大きな一歩を踏み出した事に喜びを隠せないハジメ。
私も私もー、と騒ぐユイを適当にあしらいながらリスト作成に向かうハジメの顔には笑みが浮かんでいた。
ニートのダンジョン攻略記、新たに得たチカラに喜ぶ検証班であったが、厄介ごとは彼らのすぐそばまで迫って来ていた。