開口一番はやっぱりこれでしょ!
意識が覚醒していく。
ピクリと反応した指が示すのは、以前の様に指一本動かせない状態では無いという事。
ようやく動ける。
まだ多少の倦怠感は残っているが、あんな悲しみはもう二度と味わいたくないので、早いとこ起きてしまおう。
時間にして数秒程の逡巡。
迷いに迷った。
それはもう、初代ポケモンのカセットを赤か緑のどちらにしようか選ぶ時ほどに迷った。
それでも決めたんだ、もう自らの心がそれを選んでしまったんだ。
室内には人の気配はするけども、心が叫んでいるんだ。
これしか無いと、目覚める今この瞬間にしか成し得ないものなのだ、と。
さぁ、目を開こうじゃ無いかっ!!
「知らない天井だ。」
「えっ?」
こちらを伺う様にしていたユイに視界を遮られながら呟いた一言は悲劇を生んだ。
「お、おはよ。」
「........は?」
二人の間に穏やかじゃない空気が流れる。
ハジメの黒歴史であるテント事件、そして偶然が重なって起きてしまった悲しいもう一つの事件の全貌が今、明かされる。
「ねぇ、ようやく目を覚ましたと思ったら、意識の無いハジメを甲斐甲斐しく面倒見てきた女性の身体を見て「天井だ」ですって?誰が天井みたいに凹凸の無い真っ平らな胸ですって!?何か言いたい事があるなら言いなさいよ、なに?聞こえない。だいたい、ハジメの方こそ女性の身体的な特徴に対してズバズバと言える様な体系してないじゃない!身体を拭いてあげてる時に見たけど、ハジメ太り過ぎ!体勢変えるのだって一苦労だし、エアコンなんて無い部屋だから汗っかきなハジメは日に何回も綺麗にしなくちゃいけないし、それにわたっ、わたしに触れられて興奮する様な変態だしっ!!そんなハジメを見捨てずに世話してた私に対して、よくもそんな言葉が言えたわね!謝りなさいよ!!なによその謝り方はぁぁあ、ホントに悪いと思ってるの!?」
それはもう怒涛の勢いである。
般若の様な怒り顔を見せていたと思えば、顔を赤く染め照れた表情も見せ、終いには高慢な雰囲気のユイの百面相ぶりに押される一方のハジメ。
ユイの勘違いを解こうとすれば、「聞こえない。」と一蹴されてしまい。
話が進んでいくと、以前のテント事件を持ち出されこちらも顔を赤くしてしまう始末。
最後には謝れと言われ、ごめんよ、と謝れば、なぜか燃え上がるユイにたじろぐしか無い。
そんな騒がしさに気がついたのか、偶然訪れたのかは分からないが、新たな人物が来訪する。
「ん、目覚ましたんだ...おはよ。」
「ども、おはようございます。」
ちょっとメグ聞いてよぉ、と異様なテンションのユイを押し退ける様にして近付いて来たメグに挨拶を返しながら色々と話しを聞くことに。
「ハジメの発見した魔法?についてカケルが色々と聞きたがってる。」という台詞から始まり。
魔法で研究室燃やしたせいで、手の空いたユイが面倒を見ることになった事や二日も寝込んでいた事、現状ではハジメとカケル以外に魔法を発現出来た人がいない事などなど。
淡々と語るメグの隣で、威嚇するようにこちらを睨むユイに気まずさを感じながら今後の予定を頭の中で立てていく。
んー、と伸びをした後、立ち上がれば全身が固まっていてよろけてしまう。
倒れそうになった方向にはメグがいて、頭の中に以前受けた衝撃と次は無いから、と言うメグの言葉ががフラッシュバックする。
(やばっ!)
身体を捻りどうにかメグの胸に飛び込む事態を回避する。
来るであろう衝撃に目を瞑り、手をつこうと伸ばし、身を硬くしていれば、訪れたのはわずかに柔らかい感触と想像したよりも軽い衝撃。
思わず目を開き現状を確認すれば、押し倒されながら、極寒の視線でこちらを見るユイの姿。
そばではメグが、最低、と呟き部屋から出て行ってしまう絶体絶命のピンチな状況。
「ほぉう、目覚めて開口一番に人の胸を天井の様に凹凸の無い真っ平らな胸だね、なんて貶しておいて、よくもまぁこんな事が出来るよね。とりあえずさ、この右手、離してくれないかな?ん?それとも何かな?遠慮なく人の胸触っておいて、こんなの胸じゃない、なんて言うつもりかな?ああ、そういえばメグから聞いたと思うけど、君の魔法で研究室が全焼したんだよね。勿論、防災設備は整えていたのだけど、気を失った君を助けるのにいっぱいいっぱいでね、これまでのわたしの研究資料から私財まで何もかも全部失った訳なんだが、この責任どう取ってくれるのかな?ん?」
急いで右手を離し、それはもう色々と気を付けて立ち上がりユイへと手を貸せば、立ち上がりながらも淡々と語る姿に戦慄が走る。
「今のは本当にわざとじゃ無いんだ、ごめん。怪我は無かった?それと、燃やしてしまった責任はどんな形であれ償うよ。本当にすまない。」
思いのままを言葉にし謝罪すれば、どこか呆れたような感じで、今回は許してあげます、とため息ひとつ。
温度の戻ったユイの視線に安堵しながら、準備しようか、と身支度を済まそうとベッド横の据え付け棚にある荷物に手を伸ばした。
-日本の諺には「二度あることは三度ある。」というものがある。
意味は二度も起きる事は三度目も起こり得る、といったものであるが、思い返してみればハジメのラッキースケベは過去に二度起きている。
そう、三度目も起こり得るのだ。
しかも、研究の事になるとポンコツになってしまう残念美人でスラッとした体型のユイと部屋に二人っきりなこの状況、何も起きないはずがないのだ。
「わわっ、危なっ!?」「え?きゃぁ」
この二日間、ほとんど付きっ切りでハジメの世話をしてきたユイはついうっかり準備をしてあげようと荷物に手を伸ばし、ハジメは凝り固まった身体に苦労しながらも自分で準備をしようと手を伸ばしてしまった。
ただでさえ距離の近かった二人が更に近付こうとするのだ、ましてやベッドを跨いだ先というバランスの悪い状況でだ。
当然に二人は絡み合うようにベッドへとダイブすることになる。
思わず近付いた距離に二人とも顔を真っ赤に染め、慌てて離れようとするが、そこは<悪童>と呼ばれるカケルの出番が来る。
「入るよー、ありゃ?あらららら、こりゃぁお邪魔でしたかね、少しして出直すわ、なははっ」
「ちょっ、これは違くて!」「そんなんじゃ!」
二人の反論に聞く耳を持たず、そそくさと部屋を出るカケルの顔は悪巧みに成功した子供のような楽しげな表情。
実は少し前から部屋の前までは来ていたのだが、出てきたメグに事情を聞き、少し和解の時間を与えよう、と気を遣っていた矢先に、なんだか楽しそうな展開になったために我慢出来ず飛び出したのだ。
(どうにか目が覚めて良かったぜ、ハジメこっから急いで巻き返さねぇと間に合わなくなっちまうぜ)
行き詰まった現状に光をもたらしたハジメの復帰を心から喜ぶカケルだが、ハジメの眠っていた二日で大きく変わった現状に誰よりも危機感を募らせていた。
楽しい時間はあっという間に過ぎていき、現場への復帰と検証班への魔法の解説・指導など忙しい日々がハジメを待ち構えていた。
ニートのダンジョン攻略記、ようやく目覚めたハジメを待つ厳しい現実に、凡人代表のハジメはどう立ち向かうのか。
どうも源助です。
拙い文章をここまで読んで頂けた方々には、心から感謝の思いしかありません。
解説回といいますか、神の試練-ダンジョン-での法則などを表現していく中で、どうにも上手く文字に出来ず、溜まりに溜まったフラストレーションを爆発させてしまった結果がここ二日の更新分です。
あんまり頭が良くないので、小難しい事を考えてると遊びたくなっちゃうんですよね。
正直なところ、どうなんだろと思いながらも黒歴史回とラッキースケベ回を更新してみました。
これからもニートのダンジョン攻略記、よろしくお願いします。